研究内容

物質中、特に固体での電荷/スピン/分子運動のダイナミクスに興味を持って研究している。 対象とする系は分子性伝導体と呼ばれる物質群である。これらは「分子」が構成単位である電気伝導体の総称である。 いくつもの原子が共有結合によって集合した「大きさと形」を持った(主に炭素を主成分とした)「分子」という塊からなる分子性伝導体は、 その結晶構造の異方性を反映して電子構造も異方的になる。 従って、特定の方向にのみ (一次元系) や面内にのみ (二次元系) 電子の運動が制約される電子系の実現が可能である。 また、多くの分子性伝導体では、伝導担体が、一次元鎖あるいは二次元層に最高占有軌道(又は最低非占有軌道)が弱く重なり合って 出来た狭いバンド幅にある。 このような状況では電子間の反発力が無視できず、低次元的なバンド構造であることと併せて、強い電子相関効果が期待できる。 つまり、電子は限られた方向に、互いの存在を「感じつつ」運動する。 この点が、通常の金属との大きな違いである いくつかの系では温度変化やわずかな圧力の印可により金属-絶縁体転移が起きることが観測されており、 電子間クーロン反発とバンド幅が拮抗した電子系が実現していることがこのことからもわかる。 また、分子性伝導体では「電荷秩序」と呼ばれる、結晶の対称性とは異なる電子の空間的配置を取るものが多く報告されている。 電子相関が強く、電子間の長距離クーロン力が物性に強く反映されていることを意味している。

実験手法は主に核磁気共 (Nuclear Magnetic Resonance: NMR) 分光法を用いる。 NMRは原子核スピン分極を高精度で検出することができる実験技術である。 電子物性研究でのNMRは、磁場中に置かれた試料中の電子スピンが作るスピン分極を、原子核スピンの分極を通して検出している。 単に原子核の位置での微視的なスピン分極を知ることのみならず、 NMRはその動的挙動(dynamics)を緩和時間の解析から知ることができるので電子物性研究には便利な実験手段である。 ただし、NMRは電子スピンとの結合が大きい位置にNMR活性の原子核を含む必要がある。 NMR活性元素を含まない物質の場合、適宜同位体置換を行うことで対応する。

現在進行中の具体的な研究テーマを下記に列挙する。

  1. λ-(BETS)2FeCl4および同型物質が示す磁場誘起超伝導の研究
  2. 分子性低次元伝導体の圧力印加による電子状態の変化
  3. 有機分子のp電子と遷移金属のd電子との複合電子系の微視的研究
  4. etc.

参考文献