日々の雑感的なもの ― 田崎晴明

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茶色の文字で書いてある部分は、相当に細かい仕事の話なので、ふつうの読者の方は読み飛ばしてください。


2014/6/1(日)

なんと 5 月の日記は 27 日一日だけになってしまった。

「このままでは日記をまったく書かないまま 5 月が終わってしまうぞ」と焦り、追われるようにして慌てて書いたというところがある。 そういうのはよくないよね。

というわけで、6 月は一日目から日記を書いてしまおう。これで、あとは何もしなくても日記ゼロにはならないぞ!


というだけでは、あまりにひどいので、今月のアナウンス

数理物理・物性基礎セミナー(第 35 回)
日時:2014 年 6 月 14 日(土)14:00 〜 17:30
場所:お茶の水女子大学 理学部 1 号館 2 階 201 室
加藤 岳生 (東京大学物性研究所)「メゾスコピック系の物理学 --- 二粒子干渉効果と電子相関効果を中心にして --- 」
次は加藤さん。 あの小島寛之さんに紹介されて三人で雑誌「現代思想」で鼎談をやり、そのあといっしょに飲みに行ったこともあるのだ。
それ以外にも加藤さんのお仕事には前から関心があるし(最近の斉藤さんとの共著もあるし)是非とも行きたいのだが、ぼくはどうしようもな都合で欠席。悲しい。みなさん、ぼくの分まで楽しんできてください。

に関連して少しだけ。

せっかくの加藤さんのセミナーに出られないのは、なんと「大学フェア 2014」というものに行くからなのだ。 よくわかっていないが、入試関連のイベントである。

といっても、「学習院大学には世界的な数理物理学者がいるので、この機会に講演を」とかいうのではなく、ただただ入試調査広報委員というものになっているので、そのお勤めとしての参加。「ブース参加」というところに学習院大学とあるので、ブースに座っていて、人が来たら質問に答えたりする係なんだと思う。

その話を家族にしたら、即座に全員から「大丈夫なの?」と聞かれてしまった。 ぼくなんかがブースに座って大丈夫かと心配しているわけだ。お、おまえたち家族は俺のことをいったいなんだと思っているのだ! ていうか、はっきり言って私も同感である。 ええんかいな?

いや、もちろん、一生懸命に入試広報につとめてくださっている入学課職員の皆さんの足を引っ張るつもりはないので、ちゃんと愛想よく対応して、わかることについてはきちんと話すつもりです。いや、けっこう、そういう「営業」も得意なんですよ。 あと、今はのび放題の髪もちゃんと切ります。この間、大学を早めに出たら、行きつけの美容室のご一行様とすれ違ってしまってかなり気まずかったしね。だいたい次の土曜日は結婚披露宴に呼ばれているし、ちゃんと切りに行きますよ。あ、あとは、入学課の人と相談してみて、どうしても必要ということになれば、背広を着てネクタイもします。芸術のためなら辛くても着ます --- という奴だね。はあ・・

というわけで、ネクタイをして営業モードになっているぼくを見たい人は、「大学フェア 2014」へどうぞ!!


ちなみに、ぼくは、こうやって宣伝の仕事で外に出ていくのは今回が初めて(今年はたぶんこれ一つで終わりにしてもらえると思う)。 そして、真面目な話としては、大学教員がこういった「大学の宣伝」に引っ張り出され過ぎるのはよくないことだと考えている。 ぼくらは「一流の研究を続けながら、一流の教育をしている」ということを一番に宣伝したいわけで、その宣伝が大変すぎたら「一流の研究」どころじゃなくなってしまうからね。

もちろん、そんな「きれい事」をいつまでも言ってられるとは限らないし、入学課の人たちにどこまで頼っていいかも難しいところ。 まあ、様子を見ながら、うまいバランスをみつけていきたいものです(そういうことを考えるのも、入試調査広報委員のお仕事であろう)。


2014/6/2(月)

[My note] さあて、一週間に一度だけ電車通勤し、一週間に一度だけウォッシュレットのないトイレを使う、 駒場の「現代物理学」の日である。 今年は「物理におけるスケール不変な現象」というテーマ。 最初にナイスな「つかみ」の例題をやった後は、ひたすらランダムウォークの数理をやっていたんだけど、今日から「応用編」に入り、合流するランダムウォークを「河川のパターンのモデル」という観点から解析した。これは、まだ学生だった頃に高安さんに教わった話で、エレガントで非自明なので、とても好きなのだ。 すっかり忘れていたのだけど、今回の講義の途中で思い出せてよかった。

というわけで、今日は(いや、今日も!)全力で数学と物理を黒板にめいっぱい描き出したつもり。 ぼくの見た範囲では、みなさんの反応もよく、好評だったと思う。

さらに、今日の講義で特筆すべきだと思うのは、用意した講義ノートと板書の差ですな。

右は双対モデルを導入して川の大きさの分布を決めるというもっとも重要な部分だけど、ノートの方は、XXXX さんもびっくりというくらいの簡素で説明のない殴り書きである。 しかし、板書のほうは、かなり論理的に整理されていたのではないかと思う。 実際、質問に来てくれた人の書いたノートを見たら、色分けしたきれいな図と式が書かれていて、ぼくの講義ノートとはまったく比較にならない素晴らしさだった!

学期が終わったら、コピーさせてもらおうかなあ・・


講義の後は、大野さんと清水さんといっしょに食事をして、議論。

長い時間ではなかったが、非平衡系での等重率の原理(??)、熱力学での諸量の環境依存性、量子力学での断熱定理、線形応答理論での感受率と様々な話を次々と。 さらに大野さんとは駅で別れる前の立ち話で Gibbs パラドックスなどについて延々と話した。

凝縮された有意義な時間だった。


目白に帰り着いたときには疲労困憊していたので、学習院にはよらずに帰路に着く。

途中で、ふと思いついて、行きつけの美容室を覗いてみた。幸運にも、ちょうどお客さんがいなくてガラガラだった。 どうせ夕食くらいまでは、ばてて寝ているのだから、その時間に髪を切れば能率的じゃ。

店長にカットしてもらった後、丁寧にシャンプーしてもらって、さらに肩や首をマッサージまでしてもらう。 これは禁断の快感だわ。あまりの気持ちよさにヘロヘロである。ここでビールでも飲んだら人間として終わりだよね。

というわけで、今週の懸案だった髪を切るという課題もクリアーできてうれしい。


2014/6/30(月)

ああ、やっぱり一瞬にして月末になっている。

そういう展開になるのじゃないかと薄々予想はしていたが、やっぱりそうなった。 いや、まあ、単に日記を書かなかっただけのことで仕方がないんだけど。


いろいろなことをやっていて、大変にあわただしい。

ただ、体調を崩して倒れてはいけないと強く自覚しているので、疲れた時は(仕事もしないでガマンして)ひたすら休み、疲れすぎた時はビールなんかもガマンして、睡眠時間は徹底的に長く確保している。おかげで、(どうも疲れやすいのではあるが)無事に、それなりに元気に、過ごしている。

で、以下、最近のことを --- もちろん全部は書けない(し、どんどん忘れている)ので --- 思いつきできわめて適当に。


直近のことはさすがに忘れてないぞ。

土曜と日曜が研究室の集中ゼミだったので(←みなさん、お疲れ様。記憶に残る発表もありましたね)、休みのないまま今日は駒場での講義。

昨夜はひたすら寝たので、思ったよりも元気に講義に臨めたと思う。 先週からパーコレーションをやっているが、われながら、かなり上手にまとまっていると思う。講義していて楽しい。

講義の後は、二人の知り合いとゆっくりと食事。 それほど長い時間ではなかったけれど、様々な話題が出て、楽しい時間だった。


JST の CREST と「さきがけ」の両方の領域アドバイザーをするというのは、やっぱり大変な仕事であるということを徐々に実感している。というか、まだまだ序の口なのだろうが。

「どれくらい大変なのか?」という、世間知らずのぼくの質問への答は、時間の関数として、

  1. 少し大変な時もあるがそれほどではない(と思う)。
  2. 忙しいときには大変かもしれない。
  3. かなり大変なのではないか。
  4. 割に合わないくらい大変です(きっぱり)
と変化していった(もちろん、答えた相手は全て別の人)ということは後のために記録しておこう。

ただ、多くの優れた研究計画提案に接するのは、研究者として本能的に愉しいというのは事実かも知れない。 そういう「報われる」部分が多いことを祈ろう。


それでも研究は進んでいる。

孤立量子系で「典型的な状態が平衡」ということ、さらに、「平衡への接近」ということを如何に特徴づけるか、ようやく、物理的に明確でかつ(場合によっては部分的に)証明可能な定式化に到達できたと思う。 このアプローチだと「典型的な状態が平衡」という事実は(ヒルベルト空間の次元が大きいというだけで)自動的には成立せず、注目する物理量のふるまいについての性質を示すことで初めて保証されることになる。

「物理量のふるまいについての性質を示す」ところは全く簡単ではなく、まあ、数理物理学者の出番とも言える。 今のところ、クラスター展開を使うバージョンと、ちょっと特別な技を使って相関不等式を使うというマニアックなバージョンで、例を作っているところ(あと、まあ、free fermion なら、もう一歩は踏み込める。といっても free だからね・・・)

一点突破の先鋭な研究とは違って、じわじわと地道に考え方を整理して、少しずつ例題を補足していくというスタイルなので、こういう忙しい時には向いているかもしれない。

98 年の PRL 論文2010 年の未出版のノートと、少しずつ考えを進めてきたが、ようやく「後に残せる」レベルにまとまったと思うので、ささやかにうれしい。 統計力学の本の英語版(←いつ書くの!??)の付録では、今回のバージョンを解説することになるであろう。

一方、原が参入して以来、本気で考えている緩和の時間スケールの問題は、たいへんに難しい。 もちろん本質的に難しい問題なので、焦らずにやる。


そうそう。

どーでもいいけど、Twitter で書いた tweet を、そのままのフォーマットで日記に貼り付けるやり方がわかったよ(←暇なのかよ??)。 (と言っても、こういうのは、あちらの仕様が変わってダメになったりするから、永続するかどうか分からないんだけど。)

せっかくなので、少し前に書いた数学ネタの tweet (←暇なのかよ??)を再録しておこう。

【非斉次線形常微分方程式の特解を用いた解法】 A 斉次微分方程式の一般解 「くく。うぬが今倒したのは非斉次項のない我が最弱の影武者よ」 B 非斉次微分方程式の特解 「ふ?それは無限個の我が解のたった一つ。痛くもかゆくもないわ!」 A+B 「ぐはっ!なっ、なぜ・・?」

— Hal Tasaki (@Hal_Tasaki) May 18, 2014
ちょうど 140 字に見事にまとめた会心の作品なのだが、残念ながら、今のところ 260 RT, 256 Fav と、まあまあの人気である。ま、微分方程式ネタだったら、こんなものか・・・(ちなみに、この画面で RT や favo もできると思うので、気に入った人はやってみて)

ちなみに、このネタがわからないが是非とも学びたいという人は、かの有名な無料教科書をどうぞ。

数学:物理を学び楽しむために
執筆中の教科書を公開しています。ご活用ください(更新日 2013 年 4 月 25 日)。

あ、この本の改訂版も公開しなければ。時間がたりない・・・

ついでに、同じ日に調子に乗って公開した(←暇なのかよ??)量子力学(あるいは行列でもいい)の交換子ネタも貼っておこう。 こっちは(やはり現時点で)29 RT, 26 Fav なので、交換子は非斉次微分方程式の 10 分の 1 くらいしか人気がないことがわかった。がんばれ、交換子!

【恒等式 [X,ABC] = [X,A] BC + A [X,B] C + AB [X,C] の右辺の三項の解釈】 B,C「くくく。Aはわれら三兄弟で最弱。Xのお手並み拝見だな」 C「Aは倒されたが、Bよ、同じ恥をさらすことは許さんぞ」 A,B「C 兄さん、俺たちのかたきを・・」

— Hal Tasaki (@Hal_Tasaki) May 18, 2014

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田崎晴明
学習院大学理学部物理学教室
田崎晴明ホームページ

hal.tasaki@gakushuin.ac.jp