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Ag(111) 上の Xe 吸着層の成長過程における
吸着原子数密度の変化の観察

荒川研究室 95-041-019 神戸 美雪


 


 原子的に均一かつ平坦な表面に物理吸着した気体分子の系は、その相転移において二次元的な振る舞いを示すことが知られている。温度を一定に保って圧力を上げていくと、吸着原子は初めは二次元の気相として振る舞うが、やがてある圧力で凝縮を起こして二次元の液相あるいは固相となり、その後も吸着相は二層目三層目と凝縮を繰り返しながら三次元のバルク結晶へと成長していく。 Ag(111)*上の Xe の物理吸着層を対象として、その成長過程を偏光解析法と極微少電流低速電子線回折法(XLEED)を用いて観察した。偏光解析法は入射光と反射光の偏光状態の変化から表面の光学的性質を調べる手法で、XLEED は試料破壊を最小限にするために LEED の入射電子電流を極限まで抑えたものである。本研究では特に、層の成長にともない Xe の吸着原子数密度がどのように変化していくのかに着目した。
 偏光解析法によって得られる位相差の変化δΔは、吸着原子数密度 N と吸着原子の分極率αとの積に比例する。ここでは、αは一定でδΔが吸着量に比例していると仮定した。 Fig. 1 は偏光解析法を用いて得た等温線である。XLEED パターンから計算した吸着原子数密度がσである。一層目の吸着層が完成した時のσの垂直な立ち上がりは気相から固相への凝縮が起きていることを示しているが、一層目が形成してから二層目が形成するまでの間にも吸着量が連続的に増加していることがグラフからわかる。そこで、XLEED を用いて六つの Xe のスポットの位置および Ag(10) スポットの強度を測定した。
 六つの Xe のスポットの間隔からは固相の Xe の原子数密度を、Ag(10) スポットの強度からは気相の Xe の吸着量を知ることができる。測定の結果、固相の Xe の原子数密度は、2×10-7〜2×10-3 Pa の間で圧力の変化にともなってわずかに増加していることが分かったが、その増加は Fig.1 のものよりも明らかに少なかった。これは、Fig. 1 に見られる傾きが、電子線回折では見ることのできない二層目に吸着した気相のXeの寄与によるためと考えられる。一方、 XLEED で得られる Ag(10) スポットの強度は、 Ag 上に Xe が吸着することで減衰する。その減衰は Xe の吸着量に比例すると仮定して二次元の気相の Xe の吸着量の変化をみると、Fig. 1 と同じような形の等温線を得ることができた。
 このように、Xe/Ag(111) の成長の様子を異なる手法で観察し、それぞれの相における分極率および吸着原子数密度の変化について考察を行う。