極高真空中における低温金属表面からの
水素イオンの電子励起脱離


 荒川研究室  96-041-036   原 道隆 


 固体表面上に存在する水素の評価は、極高真空中の残留気体成分の大部分が水素であることや、水素の吸着によって金属表面上に表面超格子構造が作られることなど、表面研究や極高真空達成のために非常に大切でありかつ困難な課題である。本研究では、電子衝撃によって金属表面から脱離する水素イオンを検出し、その運動エネルギー分布や入射電子エネルギー依存性、下地温度との関係を測定し、金属表面上に吸着している水素についてその吸着状態を調べることが目的である。
 実験装置の排気系にはターボ分子ポンプ、ダイアフラムとターボ分子ポンプとのユニット、チタンゲッターポンプを使用した。これによって、500Kで24時間の過熱脱ガス操作後の到達圧力は5×10−10 Paであった。真空チェンバー内には液体ヘリウムクライオスタットを設置し、その下面に試料ホルダーを固定した。試料下地は無酸素銅を用いた。これは熱伝導率が高いからであり、同様の理由から試料ホルダーも無酸素銅およびサファイア単結晶を用いて製作した。これよって、試料の最低温度が、液体ヘリウム温度に近づくようにした。試料となる水素は、ガス導入系よりチェンバ−内に直接入れ、下地に吸着させた。温度は、下地に付けた熱電対によって測定する。
 脱離イオンの検出にはマイクロチャンネルプレート(MCP)を使用し、飛行時間(TOF)測定法によって脱離イオンの運動エネルギー分布の測定を試みた。