全日空機ハイジャック事件      担当:大塚・北村・絹野・小島

<事件の概要>

19997月23日11時25分。ほぼ満席で札幌に向かっていた全日空ジャンボ機61便がハイジャックされた。羽田空港から千歳空港に向かう途中に刃物を持った男が操縦室に乱入し、同機は東京に引き返した。正午過ぎ、長島直之機長が犯人と格闘、包丁で刺されながら取り押さえた。事件は約一時間で解決したが、長島機長は出血多量でまもなく死亡した。

この事件で殺害された長島機長の遺族は「適切な防止策をとらなかった」などとして国と全日空、殺人罪で公判中の西沢裕司被告とその両親、日本空港ビルディングに国家賠償法2条により、総額約2億8000万円の損害賠償を求める訴訟を東京地裁に起こした。ハイジャック事件で国の責任を問う訴訟は初めてである。

<「適切な防止策をとらなかった」ことについて>

     空港のセキュリティーについて

     機内持ち込み荷物は「セキュリティーゲート」ですべてX線検査機にかけられる。また、乗客も金属探知機で身体検査を受ける。X線の映像はモニターに映し出され、航空会社の職員が目でチェックする。不審物があった場合には荷物をあけて確認する。検査方法は航空各社と警察などが協議して作ったマニュアルに定められている。銃刀砲剣類、爆発物が対象で、今回持ち込まれた包丁も該当する。しかし過度な不審物チェックは空港に混雑をもたらすし、乗客全員の鞄を開けさせるわけにもいかないという問題点がある。

またセラミックなどの新素材の刃物を携行した場合は金属探知機でも検出できない上、これに対する対応は「挙動不審な人物についてはボディーチェックをする」だけである。機器によるチェックは事実上できず、運輸省は「現時点ではやむをえない」としている。

     X線透視検査装置、金属探知機、監視ビデオが設置されている羽田空港の19ゲートのうち、過去の事件を教訓に検査機器が最新型に更新されたのは5ヵ所に過ぎず、全日空が使用するゲートでは2ヵ所に過ぎなかった。

・ 運輸省はハイジャックが起こるたびに防止策を強化する「通達」を出してきた。956月の函館行き全日空ハイジャック事件でアイスピックが持ち込まれたことに対しては、手荷物検査の徹底、金属探知機やX線透視検査装置の増設、監視カメラの新設をすすめた。971月にはステンレス製の包丁が凶器となり、X線のモニターを立体的に見えるよう改善、金属探知機の性能も上げている。

*羽田空港の警備の不備について

犯人は事件の一ヶ月ほど前に羽田空港の警備の不備を指摘する投書を電子メールや手紙で運輸省東京空港事務所、警視庁東京空港署、大手空港会社、毎日新聞社に送っていた。運輸省や警察、空港関係の担当者は警備事情を把握した者が書いたと思われる内容だったために、すぐに緊急対策会議を開き、施設の改善点や警備地点の見直しなどについて意見交換をしたというが、重役は出席していなかった上、具体的な対策は講じていなかったという。また、運輸省は警告文書を受け取った2週間後位に同省空港事務所より「指摘に対しては関係者と協議をしている」と電話連絡した。この2週間後の18日に犯人の男は同事務所に「警備員の新規増員をしないのでは不十分であると考える」と電話で不満を述べている。そしてさらにその翌日には協議の進展を尋ねる電話をしている。この問い合わせにも「対応を検討している」と答えたのみで警備強化はしていない。

   警備の実態を調査、検討したものの、具体的な対策は実施しなかった理由に運輸省空港幹部は「警備の不備を指摘してくれる“親切な投書”と受け止めていた。まさか本人がハイジャックをするとは思わなかった。投書で指摘された通りにやられたとすれば対応が遅れたといわれても仕方ない」と話している。

   しかし...

   犯人が指摘した羽田空港の警備上の問題点とほぼ同じ内容は、羽田空港西ターミナルビル着工間近の1990年春に問題視されたほか、航空関係64労組でつくる「航空安全推進連絡会議」が数年前から運輸省に指摘し、対策を求めていた。同会議において毎年出される要望書の中で「到着と出発旅客が抵触できないように構造上の配慮を行うこと」「現在、到着旅客と出発旅客の混在がある空港では対策を強化すること」と指摘し、早急な取り組みを要請していた。これに対し有効な対策は講じられていなかった。

 

*実際の手口のついて

@     一階の到着手荷物受取場と二階の出発ロビーを結ぶ階段が自由に行き来できる

「出発客と到着客が分離されない、世界的にもあまり例のない構造」:一階到着ロビー内にある手荷物受取場をしばらく進むと、階段があり、「進入禁止」のマークと小さく「NO ENTRY」と書かれた立て看板があるが係員や警備員はいない、防犯カメラもない。階段を上ると搭乗ゲートがある。機内持ち込みの手荷物検査を終えた搭乗客と合流できる。こうした階段は4ヵ所ある。

A     鋭利な凶器の入った手荷物をコンテナ積みとして託送する。

61便に乗る前に羽田―大阪間を別便で往復し、包丁入りバッグをX線検査のない貨物室扱いにして機内に持ち込んだ。

 

<事件の検討>

二条一項の条件

1.公の営造物

2.設置又は管理に瑕疵がある

 

1.「公の営造物」とは公の用に供される施設を指す。本件で対象となる空港は「国が設置・管理する」と定める第一空港に分類されるため、公の営造物と言ってよいだろう

 

2.「設置又は管理の瑕疵」とは営造物が通常有すべき安全性を描いていることをいう(最判昭和53.7.4より)

責任要件

@営造物に事故発生の危険性が存在するか

→本件の事件発生場である羽田空港(ビックバード)は出発と到着の乗客が分離されていないという世界的に見てもあまり例のない構造をしており、構造の安全性がかねてから問題となっていた。しかしながら、日本の他の主要空港でも施設の構造は似ているが、警備員を配置するなど対策を取っている。羽田空港にスペース上の制約があったとしても、その他の空港のように人員を配置するなり、防犯カメラを設置するなりなんらかの対処が可能であったはず。しかしながら事件当日まで犯行が可能な状態のまま長い間放置されていた。これは危険が存在していたと判断していいだろう。

 

A事故発生の予見可能性が存在するか

→幹部は「警備の不備を好意で指摘してくれている『親切な投書』と受け止めていた。まさか本人がハイジャックをやるとは思わなかった」と事件後に言い、具体的な事件が予想外であったと釈明している。しかし、犯人からの手紙には「どのような鋭利な凶器ださえも自在に機内に持ち込むことができるという確信があります」と書かれており、またメールの後に「日本空港ビルは警備員の新規増員は必要ないと回答しましたが、私はそれでは不十分だと考えます」と執拗と言っていいほど空港側へ注意を促していた。

「関係者でもないのに。そんなマニアックなセキュリティホールを、文書の形で送りつけてくるなど、どう考えても普通ではない。危機管理の観点から見れば、このセキュリティの穴と、差出人の男の両方に対して、すぐに対策を取るべきだった。いったいなぜそんな手紙を出したのか、またなぜそんなに事情を知ることができたのかなど、早急に面会して話をするべきだった」という意見もある。

確かに本件犯行は予想外であったとしても予見可能性が全くなかったとはいえないだろう。犯人の空港側への催促は3度もされており、電話でも警備の対応を確認し納得できないと伝えている。警備事情を把握したものが書いたものを見られる内容だったため、運輸省や警察、空港関係の担当者が対策会議まで開き意見交換したことでそれに対して一応の警戒を抱いていたことも伺える。

以上のことから考えると予見可能性はあったと考えられる。

 

*守備範囲論:守備範囲論によれば、「本来の用法を利用することによって生ずる危険性についてはともかく、そうでない目的、方法で利用することによって危険性が防除することは管理者の責務に属するものとはされず、本来の用法に即さない利用利用活動から生じる危険性については、通常予想することのできない行動に起因するものとして扱うのが妥当」とされ、予見可能性が否定される。本件は本来の用法でなかったことはいうまでもない。しかし、本件の場合事故とは違い人為的なものであり、上であげたように予測可能性がまったくなかったということは否定されると考えられるので守備範囲論の問題にはかからないと思われる。

 

B事件の回避可能性が存在するか

 →空港側や国に事件を回避する可能性はあったか。

判例は公の営造物の設置または管理の瑕疵に基づく国または公共団体の賠償責任は、営造物の設置・管理者の過失の存在を必要としない無過失責任であるとしている。(最判45820 高知落石事故)しかし高知落石事故で「本件事故が不可抗力ないし回避可能性のない場合であることを認めることができない旨の原審の判断はいずれも正当…」としていることから厳格な結果責任ではなく不可抗力や回避可能性がない場合には免責されるものと解される。

 

 国はどんな回避手段を講じていたのか? →会議を開き、金属探知器のレベルを上げた。

しかし…

     会議には主な人が出席していたが皆重役ではなく、警備の最高責任者も出席していなかった。( →審議中に出された意見の決定もされず、継続審理となってしまった)

     警備員を指摘のあった場所に全く配置しなかった。

     会議室で話し合っただけで現場を直接見ることはしなかった。

     専門家意識が素人の指摘を軽視した。

     時間的余裕もあった。

⇒危険を回避するための措置は十分ではなかった。警備員を増やす、逆流防止ゲートを設置する等の手段を講じれば結果を回避することは可能であったと考えられる。

 

予算制約論

 予算不足は免責事由となるのか?

 判例は高知落石事故で「本件道路における防護柵を設置するとした場合、その費用の額が相当の多額にのぼり、上告人県としてその予算措置に困却するであろうことは推察できるが、それにより直ちに道路の管理の瑕疵によって生じた損害に対する賠償責任を免れうるものと考えることはできない」と判示し、日本坂トンネル事故(東京地判平2.3.13)も、同判決を引用し「トンネルの安全体制を構成する物的設備に関する技術の進歩向上によりこれを改修ないし更新することによって当該危険の回避がより一層確実になることが明らかであるときには、右改修ないしは更新をすることが必要であるというべきであって、そのため当該トンネルの設置者において負担することが必要となる費用あるいは予算上の制約があること等によって左右されるものではないというべきである」と判示しており、人工公物の予算不足による免責はほぼ否定されたとの見解が有力である。しかし、高知落石事故では「直ちに」免責されぬにとどまるとしており、この点から予算制約の免責可能性を全面的に否定するものとは必ずしも解しえず、社会的資源配分の観点から見て正当化されないような巨額の投資が必要な場合には予算制約が認められる余地もあると解される。

空港側の事情

  逆流防止ゲートを作るのに1億かかる。(※1)

国の空港警備機器整備補助金(※2)は年々減らされていた。

※1  日本空港ビルディングの99年3月期の売上高は、不況の影響で前年の98年度より20億円減少していた。ハイジャック事件発生後の29日になって逆流防止ゲートと監視カメラの設置を決定した。

  ※2  95年度の1億8262万円から96年度9520万円、97年度6525万円、98年度3440万円と減少し続けていた。

⇒しかし、社会的配分の観点から正当化しえないような巨額の投資とまでいうことはできず予算不足は理由にならない。

 

*国側の責任について

川崎運輸相は「東京空港事務所に警視庁から意見があったことは事実」と述べ、到着ロビーから出発ロビーへの「逆流」について建設以前から指摘されていたことを認めた。しかしながら後日に「ハイジャックをチャックするのは航空会社やビル会社が考えること。運輸省が監督する責任があることは事実だが、(責任を逃げるつもりはないが)一義的には我々だと思わない」と記者会見で述べている。

→運輸省は航空会社やビル会社に主な責任があると主張したが、会議を開いておきながらもなんの対策もたてず、放置してしまった運輸省や国側の責任は大きく行政責任は大きいと考える。

これに対して「警備責任を、国の直接責任を離れて、航空運送事業者や空港ビル管理に委任することは今回のような事件防止に欠陥を生む要素となることから、基本的に、見直されることを求める」という声がある。また「直接保安管理責任が航空運送事業者にあるとしても、国の保安政策として航空労働者が欠陥を指摘してきた歴史的事実に対して、具体的で真剣な調査や見直しが検討されなかった点についての、行政責任は決して免れない」などの意見もある。

 

<結論>

今回の事案について…

     構造上問題があったことは空港建設当時から専門家等に指摘されていた。それにもかかわらず効果的な対策をとることは見送られていた。

     上層部だけで判断し、危険性があることを一般人はおろか機長などにも知らせていなかった。

      犯人が具体的な手順を示してハイジャックが可能であることを何度も指摘していたのに取り合わなかった。⇒空港関係者や専門家だけでなく、一般人に指摘を受けた時点で危険性を認識すべき。

      警備員を増やす、 逆流防止ゲートを作る等の対策を講じれば容易に防げた事件である。

 

 ⇒以上のことから鑑みると…

国側が本件空港の欠陥の存在を知り、ハイジャックされる危険性を感じる状態にかかわらず積極的にこれを排除しようとしたことも認められない。国が管理の責任そのものを負うものではないにしろ、管理者としての措置が不十分であったことは否定できない。また、本件事件の場合、予算不足その他如何なる観点によるものも不可抗力を見ることはできないので、営造物が通常有すべき安全性を欠いたものとして国家賠償法第二条一項の「設置・管理に瑕疵」があるものに該当し、損害賠償が発生すると考える。(しかし、遺族側から要求された金額についてはここでは保留する)

 

 

<学説>

1:客観説

   現在最も一般的とされている説である。公の営造物の設置・管理の瑕疵について、物自体を客観的に見て、通常有すべき安全性を欠いていることをその要件とする説である。しかしこの説では、物に欠陥がない場合、瑕疵を認めることが出来ない。たとえば、最高裁昭和50年6月26日判決の事件(工事標識版・バリケード・および赤色灯が夜間に事故発生の直前に先行した他車によって道路上に倒れたまま放置され、それが原因で事故がおきた事件で、最高裁は「道路管理者において時間的に遅滞無くこれを現状に復し道路を安全良好な状態に保つことは不可能であった」と判事し、瑕疵を否定した。)の場合では、この説の「物自体が通常有すべき安全性を欠いていること」という要件だけで、考えるのは苦しいであろう。客観説をとる場合は、この判決を、時間的不可抗力(時間的に安全良好な状態に復旧するのは無理ですってことです。)を認めた判例として扱っているようである。

2:義務違反説

   この説は、公の営造物の設置・管理の瑕疵について、管理者の損害防止措置の懈怠、損害回避義務違反、管理者の不作為を要件とする説で、しかも、これらの要件を考えるに当たって、管理者の主観的事情は考慮されず、営造物の危険性の程度と被侵害利益の程度との関係で決まるというものである(とまあ何を言っているのかわかりにくいので簡単にすると、管理者が事故防止(回避)に対してサボらなかったかってこと、そして、それを考える時に管理者の置かれている状況は考慮されません。というようなことを要件にしていると考えてください)。要件が抽象的かつ、管理者の主観的事情を考慮せず、客観的に判断するため、客観説よりも国家賠償法2条1項による救済の範囲を拡大している。しかし、そのためにこの説を批判する学説も存在する。

   それは・・・・客観説はただ単に物が通常有すべき安全性を欠いていることのみを考慮した説ではない(物の状態だけを判断しているわけではないですということ)。1条との違いがない(1条の「過失」とは義務違反であるため)。義務違反を請求原因とし、被告がそれを否認した場合、原告がそれを立証しなければならなくなり、原告にはそれが困難(客観説ならば、原告は営造物が通常有すべき安全性を欠いていることを主張・立証すればよい)・・・・というようなものである。

3:主観説

   この説は、設置管理の瑕疵について、営造物を安全良好に保つべき作為または不作為義務を課されている管理者が、この作為または不作為に反したことを要件とする説である。しかし、判例は管理者の作為・不作為義務違反を瑕疵としては捉えておらず、営造物が通常有すべき安全性を欠いている状態を瑕疵としていること、また客観的から、この説はとりづらいと思われる。(瑕疵は、故意過失と違い無過失責任なので、管理者の主観的故意過失が考慮されるこの説はとれないでしょうということです。)

4:折衷説

   この説は、管理の瑕疵には営造物自体の客観的な瑕疵だけではなく、これに付随し

  た人的措置も考慮され、公の営造物を安全良好な状態に保つべき管理者の作為または不作為義務も関連すると説く。しかし、営造物の客観的瑕疵は、人の不作為=管理者の懈怠と一緒に存在するのが普通であるから、これは結局、主観説とほぼ変わらない。(つまり、この説は主観説の中に吸収されてしまうというわけです。)

 

★学説の問題点

学説で挙げられている主観説・客観説・折衷説はそれぞれの主張が十分な相互批判の上にたって論述されていないので曖昧である。そのため、このような峻別・区分におしこんで考えようとすることは適当ではないのでは、と一部では疑問視されている。

★判例の問題点

最判昭和45.8.20(高知落石事故判例)は客観説を採用しているとされているが、大きな矛盾が指摘されている。瑕疵の抽象的定義においては客観説の所説を目しうる瑕疵定義が掲げられているにもかかわらず、具体的判断では落石や崩土の危険性に対する措置の不備に基づく瑕疵認定なっている。最高裁は管理者における安全性確保の措置に欠ける不作為を瑕疵と観念している。つまり、作為義務違反を内容としている瑕疵理論を展開している。

このことから判決の判断に一貫性がなく純粋な客観説では対応できてない、と批判されている。

 

<参考資料>

 

国会賠償法ニ条一項

「道路、河川その他の公の営造物の設置又は管理に瑕疵があったために他人に損害を生じたときは、国又は公共団体は、それを賠償する責に任ずる」

 

空港整備法
(昭和三十一年四月二十日法律第八十号)

最終改正:平成一四年二月八日法律第一号

(この法律の目的)
第一条  この法律は、空港の整備を図るため、その設置、管理、費用の負担等に関する事項を定め、もつて航空の発達に寄与することを目的とする。

(空港の定義及び種類)
第二条  この法律で「空港」とは、主として航空運送の用に供する公共用飛行場であって、次に掲げるものをいう。
 一  第一種空港 新東京国際空港、中部国際空港、関西国際空港及び国際航空路線に必要な飛行場であって政令で定めるもの
 二  第二種空港 主要な国内航空路線に必要な飛行場であって、政令で定めるもの
 三  第三種空港 地方的な航空運送を確保するため必要な飛行場であって、政令で定めるもの
 2  前項各号の政令においては、空港の名称及び位置を明らかにしなければならない。

第一種空港の設置及び管理)
第三条  第一種空港は、国土交通大臣が設置し、及び管理する。
 2  前項の規定にかかわらず、新東京国際空港は新東京国際空港公団が、関西国際空港は関西国際空港株式会社がそれぞれ設置し、及び管理する。
 3  第一項の規定にかかわらず、中部国際空港は、中部国際空港の設置及び管理に関する法律 (平成十年法律第三十六号)第四条第一項 の規定による指定があつたときは、当該指定を受けた者が設置し、及び管理する

 

犯人からの手紙

羽田空港といえば、首都東京の玄関口として、あるいは地方空港同士を結ぶ接続空港(ハブ空港)として、数多くの利用者があり、わが国で最も重要な空港である事は言うまでもありません。先日、羽田空港発の航空券を購入して、空港内の警備状態の実態調査を行い、2つの重大な問題点を発見致しましたので、ここにご報告申し上げます。

 まず一つ目の問題点です。一階の到着手荷物受取場と二階の出発ロビーを結ぶ階段に警備員が配置されておらず、自由に行き来できることが分かりました。確かに階段上り口に「この先通れません/NO ENTRY」の標識がありましたが、実際四ヶ所ある階段全てを、何もとがめられることなく上ることに成功致しました。このことは、ハイジャック犯罪を容易に成立させることとなります。

 1、地方空港で羽田空港経由で別の地方空港へ向かうチケットを購入し、チェックインの際、接続とせず、羽田空港までの手続きをとる。

 2、鋭利な凶器の入った手荷物をコンテナ積みの手荷物(注=預け入れ手荷物)として託送する。

 3、羽田空港到着の際、手荷物を受け取ることなく到着ロビーを出て、すぐさま次の出発便のチェックイン手続きを行う。

 4、手ぶらであるから、手荷物検査にかかることなく出発ロビーに入れ、直ちに手荷物受取場に下り、先の便で託送した手荷物を受け取る。

 5、階段を上って出発ロビーに戻り、近くのトイレに入って変装する。

 6、次の便に搭乗し、手荷物に入れておいた凶器を用いて乗っ取りを行う。

 変装が必要な理由は、二階出発ロビーに入る通路にビデオカメラ等が備えられており、階段を上った事による当局のマークから逃れるためです。二人組で犯行を行い、出発ロビーの目立たない場所で凶器の入った手荷物を別人から受け取る手口を使えば、5、の段階は一層容易にクリアできるでしょう。

 以上の手続きにより、どのような鋭利な凶器でさえも自在に機内に持ち込むことが出来るという確信があります。こうした事犯を防ぐため、次のような対策を提案します。

 1、一階の到着手荷物受取場から二階の出発ロビーへの上り口、及び一階エレベーター入り口に複数の警備員を配置し、上ろうとする客を止めるとともに、どうしても上らなければならない場合には、厳格に持ち物の検査を行う。犯人が職員に変装しているケースに備え、職員についてはランプパスの確認を行う。

 2、二階から到着手荷物受取場への入り口に、単に「到着(矢印)」の表示だけでなく、「出発のお客様は立ち入ることが出来ません」という禁止の表示をする。

 3、(略)

 次に二つ目の問題点に入ります。到着手荷物のターンテーブルのある場所からトイレへは直接行けないよう、禁止の立て札がありますが(JALにはそれすらない)、警備員が配置されていないので、どの場所でも通過することが出来ました。羽田空港発の航空券さえあれば、何度でも制限区域内から出入りできるということは、次のような犯罪を可能とします。

 (中略)

 ビッグバード(注=羽田空港)は出発と到着の乗客が分離されていないという、世界的に見てもあまり例のない構造を持っています。その特徴を利用した、私にも思いつかない犯罪が他にもあり、巨大犯罪組織に狙われる可能性が十分考えられます。潜在的な危険性については、東西の他の空港を上回るものがあるのではないでしょうか。厳しい不況の折、社会不安が増大しており、凶悪犯罪が起こりやすい環境になっている事も、気がかりです。

 

*事件後の対応

ハイジャックが行われた23日、「ハイジャック事件原因解明・再発防止対策委員会」を設置。24日には投書内容を議題に再発防止策を検討したが、保安検査レベルを「警戒」にあげた他、人を配置して再発防止に対応したのみ。今回犯人が悪用した貨物室扱いの荷物に関しては一切チェックをしていない状態のままである。

羽田空港を管理、運営する「日本空港ビルディング」は貨物扱いの受託手荷物引受所と出発ロビーにつながる階段の間に「逆流」防止用のゲート各2基と監視カメラ、警報機を設置することを決めた。ゲートは4ヵ所の階段に計8基設置。警備員も1人ずつ配置された。さらにガラス仕切りで手荷物受取所を囲い、エレベーターと遮断した。工事費や機器類購入費だけで1億8000万円。

 

<参考文献>

     http://210.173.172.17/eye/feature/details/hijack/0723-9.html

     http://www.hh.iij4u.or.jp/­~feuille/Zemi/reseume33.htm

     ジュリスト482号

     最高裁判所判例解説民事篇昭和四五年度・昭和五〇年度三六事件

     民商法雑誌六四巻六号・七四巻三号

     判例営造物管理責任法

     国家補償法(下山瑛ニ・秋山義昭・阿部泰隆・宇賀克也)

     国家賠償法の理論

     判例タイムズ三二六号以下・三三二号

     災害と法

     季刊実務民事法1号

     国家賠償法

     上智法学論集三七巻一・ニ号、三八巻二号

     判例評論一六七号・二〇五号

     法律のひろば二九巻一号