2002,05,23

担当:石崎、高橋

 

 

ジュリスト重要判例解説 平成8年度 2、宮城県食糧費情報公開訴訟 

 
宮城県食料費情報公開訴訟 仙台地裁平成8年7月29日民事第2部判決

(平成7年(行ウ)第4号文書開示拒否処分取消し請求事件)   

 

原告 仙台市民オンブズマン

被告 宮城県知事

 

条文

 情報源

内容の条件

9条2号

個人

特定の個人が識別可能

9条3号

法人その他の団体

事業を営む個人の当該事業

 

競争上の地位その他の正当な利益を損なう

9条7号

県又は国等機関の検査,監査,取締り,争訟,交渉,入札,試験その他の事務事業

当該若しくは将来の同種事務事業の目的が達成できなくなったり,公正若しくは円滑な執行に支障が生じる

 

事実の概要

公金の不正支出を追及している市民グループであるXは,Yに対し,平成6年12月6日,同県の情報公開条例(以下「本件条例」)に基づき,平成5年から平成6年11月までの県総務部財政課の食料費支出に関する一切の資料の開示を請求した。

これに対しYは,平成7年1月9日,この請求に対応する公文書としては,食料費支出伺,支出負担行為兼支出命令決議書,請求書(これらは以下「本件文書」)がこれに当たるとした上,本件文書のうち,懇談会の目的,懇談会の相手方名刀,懇談会にかかる債権者名及び講座名等、懇談会の開催場所が記載されている部分(以下「本件文書部分」)に限って,本件条例9条2号,同3号,同7号にそれぞれ該当するとして,非開示とする処分(以下「本件処分」)をした。

そこでXは,平成7年3月3日,本件処分の取消しを求めて提訴した。

 

判旨

認容(知事側が控訴せず,確定)

 

条文の該当性

 

9条2号

当該公務員について

.当該公務員のプライバシーの問題

公務員の職務執行記録内における当該公務員の役職・指名は原則個人に関する情報には当たらないので、その限りでプライバシーの問題の余地はない

→公務遂行者の特定や責任所在の明示に過ぎない,当該公務員自身の個人としての生活や行動に関わる意味合いのものではない

.情報公開制度との関係

原則個人に関する情報には当たらない

→実際に行われた県政の検証とその当否の判断には不可欠の情報であるから

.個人に関する情報に当たるとすべき特別な事情の存在

認められない

→公開により当該公務員の生活が不当に侵害される場合には,当該情報はプライバシーにわたる情報として個人情報としての色彩を帯びるが,被告側で具体的に主張立証するところがない

 

→本件懇談会等は県の予算を用いて行われたものであり,出席者はいずれもその職務として出席したのであるから,これらがそのまま妥当する

→県民には税金の無駄遣いを監視するべく可能な限りの情報の開示を受ける利益があるので,これらを個人情報に該当するとして,当然に非開示とすることは許されない

 

懇談の相手方たる私人との関係

.本件懇談会の公私の別 

民間金融機関と県財政課との本件での懇談は公務に準ずる公益的事業についての懇談会である。

→本件で行われた懇談会等は県債,当せん金つき証票の発行に関する情報交換であるから。

.相手方の氏名・役職の公開

個人に関する情報に当たるとはいえない

→相手方の懇談への参加は公務には当たらないものの,そこでの相手方氏名は,事業の相手方担当者として表示されるのみであるから。

.相手方の私生活が不当に侵害されるか

→具体的な主張立証がない

 

9条3号

 

.利用された飲食店の場所・名称,利用日時,飲食にかかる料理等売上単価・合計額の公開

公開により,当該業者の事業活動を損なうとは認め難い

→本件文書の公開部分と非公開部分を合わせても,これらには特に営業上のノウハウが含まれているわけではなく,また,これらの飲食店における県財政課という特定顧客の一定期間の利用状況が明らかになるだけであるから

.当該飲食店の講座情報,代表印等

公開により,当該業者が不足の損害を被り,事業活動が損なわれるとは認め難い

→これらの情報は,普通飲食業者が秘密に管理している事項ではなく,当該業者の取引金融機関が知られたとしても,それらは一般に発行されている飲食代等の請求書に記載されている事項であるから

 

9条7号

 

相手方氏名の公開による県財政課の事務事業執行への支障

.本件懇談会等の性質

特定事業遂行のための内密協議が目的ではない

→相手方との情報交換を円滑に行うための関係者との一般的な情報交換や,友好関係を図るための単純な事務打ち合わせである

 

→被告の側で具体的に主張立証するところがないので、本号に該当する

 

本判決の特徴

1、本判決条例における非開示自由の解釈及びその該当性判断に当たり、「県民の公文書の開示を求める権利を明らかにすると共に、情報公開の総合的な推進に関し必要な事項を定めることにより、県政に対する県民の県政への参加を促進し、もって公正で開かれた県政を推進することを目的とする。」という本件条例一条の目的を重視したこと。

その一つの現れが、公務員に限っては、懇談会に出席することが公務に該当する場合には、出席した公務員の役職や氏名を公表することによって生活の平穏を不当に侵害されるという特別の事情が存在することが具体的に主張立証されない限り「個人に関する情報」には該当しないとした点である。

2、懇談会の相手方が私人である場合であっても、懇談会がいわば公務に準ずる公益的な事業に関するものであれば、当該私人の役職・氏名がその事業の相手方担当者として表示されるに過ぎないから、「個人に関する情報」に該当するものではないとして、懇談会のし出席名の公開までも認めるに至っている。

 

語句

食糧費:例えば会議用、式日用・接待用の茶菓・弁当、宿泊所・保育所等の賄料等に要す

    る経費。

 

 

関連訴訟

 
A 文書非公開決定処分取消し請求事件(非公開の決定→棄却)

(平成2年(行ツ)第149号 同6年2月8日第3小法廷判決)

 

上告人→控訴人  被告 大阪府水道企業管理者(以下「府水道部」)

被上告人→被控訴人 原告 植田 肇(以下「請求者」)

 

1.       事実関係の概要

被上告人は,昭和60215,大阪府公文書公開等条例(昭和55年大阪府条例第2,以下「本件条例」)71項に基づき,本件条例の実施機関である上告人に対し,昭和5912月に支出した大阪府水道部の会議接待費及び懇談会費についての公文書の公開(閲覧及び写しの交付)を請求した。

ところで本件条例8条には,同条各号所定の情報が記録されている公文書は公開しないことができる旨が規定され,この情報として,法人等に関する情報や事業を営む個人の当該事業に関する情報であって,公にすることにより,当該法人等又は当該個人の競争上の地位その他正当な利益を害すると認められるもの(1),府の機関等が行う企画,調整等に関する情報であって,公にすることにより,当該又は同種の事務を公正かつ適切に行うことに著しい支障を及ぼすおそれのあるもの(4),府の機関等が行う交渉,渉外,争訟等の事務に関する情報であって,公にすることにより,当該若しくは同種の事務の目的が達成できなくなり,又はこれらの事務の公正かつ適切な失効に著しい支障を及ぼすおそれのあるもの(5)がそれぞれ規定されている。

そして,上告人は,昭和6031,この請求に対応する公文書としては支出伝票及びこれに添付された債権者請求書と経費支出伺(以下これらを「本件文書」)がこれに当たるとした上,そこに記録されている情報が本件条例81,4号及び5号に該当するとして,これを公開しない旨の決定(以下「本件処分」をした。

本件文書は,昭和5912月に府水道部が事務ないし事業の遂行のため外部の飲食店を利用して行った会議,懇談会(以下「懇談会等」)についての債権者請求書と会費支出伺いとが添付された支出伝票であるが,これらから知ることのできる懇談会等の内容としては、開催日,会合の概括的な開催目的,その出席者数及び府側」と相手方との人数内訳,懇談会等が行われた飲食店の名称等,飲食費用の金額及びその明細ならびにその費用の請求及び支払いの年月日であり,一般的には,懇談会等の出席者の住所,氏名は記録されず,また,懇談会等における具体的な会談の内容等は本件文書には記録されていない。

 

cf.条例の内容

8条→公開しないことができる文書を定める

 1号→法人等に関する情報や事業を営む個人の当該事業に関する情報であって,公にすることにより,当該法人等又は当該個人の競争上の地位その他正当な利益を害すると認められるもの

 4号→府の機関等が行う企画,調整等(以下「企画調整等事務」)に関する情報であって,公にすることにより,当該又は同種の事務を公正かつ適切に行うことに著しい支障を及ぼすおそれのあるもの

5号→府の機関等が行う交渉,渉外,争訟等の事務(以下「交渉等事務」)に関する情報であって,公にすることにより,当該若しくは同種の事務の目的が達成できなくなり,又はこれらの事務の公正かつ適切な失効に著しい支障を及ぼすおそれのあるもの

 

cf.支出伝票の詳細

 記録内容 債権者請求書,経費支出伺

 識別可能事項 開催日,概括的な開催目的,出席者数(府側と相手方側の内訳含む),飲食店の名称等,費用(金額明細,請求金額,支払日)

 

2.       条文の該当性

1号→×

 判断 飲食店の企業秘密等は記載されていない、府に利用された事実そのものから不利益をこうむるとは認め難い

4,5号→×

 主張 府の意志形成過程における文書の公開は不要な誤解を招く,公開により自由な意見交換が妨げられる

 判断 本件文書に記載されている情報は,懇談会等の内容いかんにより企画調整等事務,交渉等事務に該当することもありうるが、この文書からは懇談会等の外形的事実しかわからず、懇談会等の個別具体的な目的及び内容は明らかにはならず,,相手方の氏名が記載されていないものがほとんどなので,公開により直ちに支障が生じるとは言い難い

 

.他の懸念→他の文書と照合すると相手方が判明することがある

a.内密の協議が目的の懇談→公開により相手方が不信感を抱き,以後懇談会等への参加をしなくなる

.それ以外の単純な事務打ち合わせ等→公開により不都合が生じるとは認め難い

→aについては非公開にすることもできる

 

.当該文書を非公開にするには

控訴の側で 懇談会等が企画調整等事務又は交渉等事務にあたること、懇談会が内密の協議を目的として行われたものであること,本件文書の記載内容と他の関連情報とを照合することにより懇談会等の相手方が了知される可能性があること

→この3点につき,具体的な事実を主張立証しなければならない

 

.行政処分取消し請求事件(公開の決定→破棄差戻し)

(平成3年(行ツ)第18号 同6年1月27日第1小法廷判決)

上告人→控訴人 被告 大阪府知事(以下「府知事」)

被上告人→被控訴人 原告 株式会社岩崎経営センター(以下「請求者」)

 

1.   事実関係の概要

被上告人らは昭和60年10月14日,大阪府公文書等公開条例(昭和59年大阪府条例第2号。以下「本件条例」)7条1項に基づき,本件条例の実施機関である上告人に対し,昭和60年1月ないし3月に支出した大阪府知事の交際費についての公文書の公開(閲覧及び写しの交付)を請求した。

ところで, 本件条例8条には,同条各号所定の情報が記録されている公文書は公開しないことができる旨が規定され,この情報として,法人等に関する情報や事業を営む個人の当該事業に関する情報であって,公にすることにより,当該法人等又は当該個人の競争上の地位その他正当な利益を害すると認められるもの(1),府の機関等が行う企画,調整等に関する情報であって,公にすることにより,当該又は同種の事務を公正かつ適切に行うことに著しい支障を及ぼすおそれのあるもの(4),府の機関等が行う交渉,渉外,争訟等の事務に関する情報であって,公にすることにより,当該若しくは同種の事務の目的が達成できなくなり,又はこれらの事務の公正かつ適切な失効に著しい支障を及ぼすおそれのあるもの(5)がそれぞれ規定されている。また9条には,同条各号所定の情報が記録されている公文書は公開してはならない旨が規定され,その1号に,個人の思想,宗教等の私事に関する情報(事業を営む個人の当該事業に関する情報を除く)であって,特定の個人が識別されうるもののうち,一般に他人に知られたくないと望むことが正当であると認められるものが規定されている。

そして,上告人は,昭和60年10月29日,この請求に対応する文書としては,.経費支出伺書,.支出命令伺,債権者の請求書,領収書等の交際費の執行の内容を明らかにした文書及びC.歳出予算差引表がこれに当たるとし,そのうち経費支出伺,支出命令伺書及び歳出予算差引表を公開したが,債権者の請求書,領収書等の交際費の執行の内容を明らかにした文書(以下「本件文書」)については,そこに記録されている情報が前記8条1号,4号,5号及び9条1号に該当するとして,これを公開しない旨の決定(以下「本件処分」)を↓。

本件文書は,具体的には,.債権者の請求書及びE.領収書(以下「債権者請求書等」),.歳出額現金出納ならびにG.支出証明書であり,そこに記録された支出内容は,.慶弔,見舞い等に関するもの,.各種団体及びその主催行事への賛助,協賛に関するもの,.選別に関するもの,.懇談に関するものに分けられる。

債権者請求書等は,府知事が懇談会等で外部の飲食店等を利用した際の請求書等が主なものであり,懇談の日時,場所,出席人数並びに料理等の単価及びその合計額が記録されており,懇談等の名称,出席者の氏名等は原則として記録されていないが,府の担当者により出席者の氏名がメモ書きの形で記録されたものもある。歳出額現金出納簿は,現金の出納状況を,年月日,摘要,金員の支払い状況とその残額とに分けて記録し,摘要欄には交際の相手方,使途等を具体的に記録している,債権者請求書等及び歳出額現金出納簿のいずれにモ,懇談の内容は全く記録されていない。また,支出証明書は,お祝い,香典等領収書が得られないような支出について,支出年月日,支出金額,支出先,支出の目的を記録した書類であり,特に決まった様式はない。

 

cf.    条文の内容

8条→前事件参照

9条→公開してはならない文書を定める

1号→個人の思想,宗教等の私事に関する情報(事業を営む個人の当該事業に関する情報を除く)であって,特定の個人が識別されうるもののうち,一般に他人に知られたくないと望むことが正当であると認められるもの

 

cf.非公開処分文書の内容

,.債権者請求書等(懇談会での外部飲食店請求書等)

懇談日時、懇談場所,出席人数,料理単価とその合計額(,懇談等の名称,出席者の氏名)

.歳出現金額出納簿(現金の出納商況)

年月日,金員の受払い状況とその残額,摘要(相手方と使途が具体的に記入)

.支出証明書(領収書が得られない支出)

年月日,金額,支出先,支出目的

(→D,Fには懇談内容の記載はない)

 

2.   条文の該当性(原審)

.懇談関係の文書

 8条4号→×

      企画調整等事務の懇談であっても,特別な事情がなければ該当しない,懇談自体は相手方にとって不名誉ではない,府知事の行動は遂行後は公開しても通常は同種の行政事務に支障はない

 8条5号→×

      渉外等事務の懇談でも,同上

a〜c.

 8条5号→×

      これらは広い意味での交渉当事務に含まれ,公開すると相手方に対する府の評価が明らかになり,相手方が不満を抱き,これにより非協力的態度に出る者を予想できないわけではないが,府の地位を考えると,大きな不都合が生じるとは認め難い


a〜d.

  9条1号→記載されている情報がいずれも府知事の公的交際にかかるもので,相手方にとって純粋に私生活上の事柄であるとは言えず,また知事との交際自体は相手方にとって社開通念上公開を欲しないとは認め難い

 

3.   条文の該当性

8条1号→×(原審に同じ)

8条4号,5号→〇

       一般に入手可能な情報と照合すると相手方を識別可能,公開されると相手方が不快の念を抱く上府知事自身も懸念から支出を差し控えたり画一にしたりする

→d.は8条4号に、a〜c.は8条5号に,公開が差し支えないもの以外は該当

9条1号→〇

     相手方が私人である場合は,相手方にとっては私的な出来事であり,a〜d.のいずれも,公開がもともと予定されているもの以外は該当

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

情報公開法

 
情報公開法第5条(行政文書の開示義務)

第5条第1号 個人に関する情報

☆個人情報識別型とプライバシー情報型

情報公開制度のもとで、行政機関の保有する個人情報が原則として不開示とされるが、この点につき、個人識別情報を不開示とする方式とプライバシー情報を不開示とする方式がある。

     プライバシー情報型

アメリカやニュージーランドがこの類型に属する。我国の地方公共団体においては大阪公文書公開条例9条1項がある。

Ex、大阪公文書公開条例9条1項

「個人の思想、宗教、身体的特徴、健康状態、家族構成、職業、学歴、出身、住所、所属団体、財産、所得等に関する情報(事業を営む個人の当該事業に関する情報を除く。)であって、特定の個人が識別されるもののうち、一般に人に知られたくないと望むことが正当であると認められるもの」

メリット 個人に関する情報につき、不開示の範囲が必要以上に広がらないようにするためには適切。

デメリット プライバシーの概念が必ずしも明確でなく、個人の価値観により、その範囲につき見解が分かれることが少なくないため、制度の安定的運用が困難。

そこで    

     個人識別情報型

個人識別情報を原則不開示としたうえで、個人の権利利益を侵害せず不開示にする必要の無いもの、及び、個人の権利利益を侵害しても開示することの利益が優越するため開示すべきものをただし書きで例外的開示事項として列挙するもの。

カナダ、韓国がこの類型に属し、我国の情報公開条例の大半も同様。

Ex、神奈川県の機関に関する条例5条1項

「個人関する情報(事業を営む個人の当該事業に関する情報を除く)であって、特定の個人が識別され、又は識別されうるもの」を原則として不開示。

メリット プライバシーの概念が明確化していない状況のもとでは、明確な基準となる個人識別情報を原則不開示とし、そこから開示すべきものを除く方式に相当な合理性がある。

デメリット 必要以上に不開示とされる範囲が広がる。

Cf、5条1号「他の情報と照合することにより、特定の個人を識別することができることとなるものを含む」⇒モザイク・アプローチと呼ばれる

E,ある集団の中の1人が解雇されたという情報の場合、当該集団の構成員の数が多い場合、他の情報と照合することによって当該個人が識別される可能性は一般的にいって低いが、当該集団の構成員の数が少ない場合、モザイク・アプローチにより個人が識別される可能性は高くなる。たとえ、個人が識別されなくても、集団の不名誉が直ちに構成員の不名誉に結びつく傾向がある。

→個人識別性の判断に際してはこのような事情も考慮が必要である。

第5条第1号ハ 公務員の職務遂行情報

     公務員の職務行為に関わる情報

前提 公務員の職務遂行にかかる情報は、そもそも「個人に関する情報」には該当しないという前提に立てば、このような例外的開示規定は不要なはずであるが、本判決によって5条1号ハは、公務員等の職務遂行に係る情報は、当該公務員等の個人の活動に関する情報でもあるという前提にたっているためこのような規定がおかれている。

経緯 行政情報公開部会の情報公開法要綱案(中間報告)

   第6@ロ「公務員の職務執行に際して記録された情報に含まれる当該公務員(一定の範囲の者)の官職及び氏名

   ↓

   同部会最終報告

   職と氏名を区別し、職については全て公開するとした。

   ↓

   第5条1号ハ

   公務員等情報のうち、職に関する情報と氏名に関する情報を分けている。 

考え方 ・職

     公務員の職に関する情報は、行政事務に関する情報としてはその職務行為に関する情報と不可分の要素であり、政府の諸活動を説明する責務が全うされるようにするために、これを明らかにする意義は大きいので、公務員の範囲を限定せず、仮に特定の公務員を識別させることとなっても、開示することとした。すなわち、職に関しては例外なく開示

    ・氏名

    公務員の氏名は、これを開示すると、公務員の私生活等に影響を及ぼすことが有り得るので、一律に開示することとはしない。すなわち、公務員等の氏名については、民間の職員の場合と区別することなく、本条1号イにより開示の是非を判断する。

例外、「当該公務員等の職及び当該職務遂行に内容に係る部分」が同時に他の公務員等の個人情報に当たる場合

国立大学において大学病院の医師が教職員を対象に定期健康診断を行った場合、当該健康診断に関する情報は、当該医師にとっては当該職務遂行の内容にかかる情報である。しかし、教職員にとっては職務遂行との直接的関連はなく、職務遂行に係る情報とはいえない。

従って、定期健康診断の結果は教職員の個人に関する情報として不開示にされることになる。

 

第5条第2号 法人情報

     法人等に関する情報

情報公開法は、法人その他の団体に関する情報又は事業を営む個人のその事業に関する情報のうち、一定の条件に該当するものを不開示情報としている。

     「法人その他の団体」の意義

条文により、「国及び地方公共団体」は除外される。会社のように営利を目的とするものに限られず、学校法人、宗教法人、社会福祉法人、公益法人、特定非営利法人等も含まれる。また、法人格のない団体もこれにあたる。

     「事業を営む当該情報に関する情報」

その他の個人に関する情報とは性質が異なり、法人その他の団体に関する情報に類似することから「個人に関する情報」の不開示情報の規定とは別に規定されている。

 

この法人に関する情報のうち次の@Aに該当するものは不開示情報とする。

@     公にすることにより、その法人等の権利、競争上の地位その他正当な利益を害するおそれがあるもの

A     行政機関の要請を受けて、公にしないとの条件で任意に提供されたものであって、法人等または個人における通例として公にしないこととされているものその他のその条件を付することがその情報の性質、当時の状況等に照らして合理的であると認められるもの。

     競争上の地位等を害するおそれ(@)

法人等や事業を営む個人の正当な権利・利益は原則として開示によって害されてはならないとの考えによるもの。

     非公開約束任意提供情報(A)

要件 T法人等に対して行政機関から情報提供の要請があること

   U公にしないとの条件で任意に提供されたもの

   V公にしないとの条件で提供された情報が、法人等における通例としておおやけにしないこととされているものその他の条件を付することがその情報の性質、当時の状況に照らして合理的であると認められるもの

     公益上の理由による義務的開示

上記の法人情報について不開示情報であっても「人の生命、健康、生活又は財産を保護するため、公にすることが必要であると認められる情報」は不開示情報から除かれる。

これは個人情報についての「公益上の理由による義務的開示」と同様である。

公にすることが必要であると認められるか否かは、開示することによる利益(人の生命、健康、生活又は財産の保護)と不開示にすることによる利益の比較衡量によって判断されることになる。

Ex,薬害エイズ訴訟

私見

 おおむね賛成。

本判決では「飲食業者の金融機関口座情報や代表印等について、通常飲食業者が秘密に管理している性質の事柄ではなく、取引金融機関等が知られるとしても、それは一般的に発行していると認められる飲食等代金の請求に記載されている事項に過ぎず、そのために飲食業者が不測の不利益を被り、その事業活動が損なわれるとは認めがたい。」としているが、果たしてそうなのだろうか?

飲食業者の金融機関口座に関する情報は業者が事業活動を行う上で重要な内部管理に関する情報であると言える。これを当該事業者の事業活動に関わりなく一般に開示することは、業者の正当な利益が害される。どの範囲でこれらの金融情報を開示するかは事業者の任意の選択に委ねられるべきものものと言える。したがって、この点につき開示とした本件判決を疑問に思う。

 

参考文献

・民集48巻2号255頁

・民集48巻1号53頁

・法律時報69巻1号(1997年)の奥平康弘・塩野宏「<対談>情報公開法制定に向けて」6頁以下のほか、斎藤拓生「官官接待を追及して」同50頁

・ジュリスト1107号(1997年)の宇賀克也「個人情報の不開示」38頁、

 秋山幹男「法人等の情報」同45頁

・宇賀克也「新・情報公開法の逐条解説」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

補充

 
第5条第6号 国の機関又は地方公共団体が行う事務又は事業に関する情報

 

     事務又は事業に関する情報

第5条第6号イ 監査、検査、取締り、試験に係る事務

      ロ 争訟、交渉、契約に係る事務

      ハ 調査、研究に係る事務

      ニ 人事管理に係る事務

      ホ 現業の事業経営

⇒イからホは限定列挙ではなく、開示により事務または事業の適正な遂行に支障を及ぼすおそれがある情報を含むことが容易に想定される事項を例示したに過ぎない。

 その他の事務または事業に関する情報も本号の対象となるし、イからホの類型ににつき、他の支障が生ずる場合を除外する趣旨ではない。

趣旨 「事務又は事業の性質上」

    :当該事務又は事業の内在的性格に照らして保護に値する場合のみ不開示にしうることを明確にした。

   「適正」

    :開示のもたらす支障のみならず、開示のもたらす利益も比較衡量しなければならない。

   「支障」

    :名目的なものでは足りず、実質的なものであることが必要。

   「おそれ」

    :抽象的な可能性では足りず、法的保護に値する程度の蓋然性が要求される。

⇒したがって、一般的に言って、本号は、行政機関に広範な裁量を与える趣旨ではない。

 

・条例との比較

地方公共団体の情報公開条例においては、当該事務又は事業と将来の事務又は事業を区別している例がみられる。行政情報公開部会も、中間報告においては、そのような規定の仕方をしていたが、将来の事務又は事業も「当該事務又は事業」で読みうるし、将来の事務又は事業について明示的に言及することにより拡張解釈を招くことが懸念されたこともあり、最終報告では、「将来の事務又は事業」という文言を削除している。

したがって、同種の事務又は事業が反復される場合、当該情報の開示が将来の事務又は事業の適正な遂行に支障を及ぼすおそれがある場合にも、本号を適用することを否定する趣旨ではない。

 

 

 

ケーススタディ

情報公開法の元で本件が起きたら・・・

   当該公務員について

第5条第1号ハ 公務員の職務執行情報

・当該公務員の職名:開示

・当該公務員の氏名:第5条第1号イによって判断。

本件文書の係る懇談会は県の公益費で催され、公務員は職務上の立場で出席している。公務員の職務執行に際して記載された情報に含まれる当該公務員氏名は、本来、事務事業の執行上又は行政の責務として、当該事務事業に支障の無い限り、国民の要請に応じて公表することが予定されていると言うべきである。また、これを開示することで当該公務員の私生活の平穏が侵害されるとは考え難い。よって、氏名についても開示とする。

   懇談会の相手方たる私人

第5条第1号 個人に関する情報

原則的には不開示となるが但し、公務員の場合と同じように、5条1号イに該当する場合、不開示とはされない。本件懇談会は公務に準ずる公益的事業に関するものであり、金融機関の職員の役職・氏名は、その事業の相手方担当者として表示されるに過ぎない。また、開示されることで当該職員の私生活の平穏が不当に侵害されるとは考え難い。のみならず、右情報も社会通念上公表が予定されたものと言える。よって、懇談会の相手方たる私人の役職・氏名についても開示。

   法人

第5条第2号 法人情報

第5条第2号イ 権利、競争上の地位その他正当な利益

「権利、競争上の地位その他正当な利益を害するおそれがあるもの」とは

@法人等又は事業を営む個人の保有する生産技術上又は販売上の情報

A経営方針、経理、人事等の事業活動を行う上での内部管理に属する事項に関する情報

Bその他公にすることにより、法人等又は事業を営む個人の名誉、社会的価値、社会的活動の自由等が損なわれると認められる情報

本件と同様の理論構成をとり開示されるだろう。ただし、債権者の印影、金融機関名及び口座番号等は、法人等の事業活動において取引関係者に対し必要な場合にのみ示されるものであり、本号イに該当する。また、債権者の印影には、公にすることにより偽造等の犯罪に利用されるおそれも考えられ、第4号にも該当すると考えられる。

☆ 事務または事業に関する情報

第5条第6号 国の機関、又は地方公共団体が行う事務又は事業に関する情報

条例の将来の事務事業も「当該事務または事業」で読みうるため、本判決と同様の理論構成をとり、開示となるであろう。

 

宮城県情報公開条例と情報公開法の比較

 

宮城県条公開条例

情報公開法

当該公務員の役職及び氏名

<9条2号>当該公務員の役職・氏名は原則個人情報には当たらないとして開示。

<5条1号ハ>当該公務員の役職については開示。氏名については5条1号イにより判断。 

相手方たる私人の役職及び氏名

<9条2号>個人情報に当たらないとして開示

<5条1号>原則不開示。但し、同号イに該当する場合は開示。

法人

<9条3号>公開により当該事業者の事業活動を損なうとは認めがたいとして、開示。

<5条2号>〃

事務事業

<9条7号>被告による、開示されることで生ずる弊害を根拠付ける具体的事実の主張立証が不十分なため開示。

<5条6号>〃