2002912

担当 1班:石崎,鎌田,島浦,森本

行政判例百選T118事件

自動車の一斉検問

(最高裁昭和55922日第三小法廷決定)

 

<事実の概要>

警察官原口、鹿島両巡査(以下それぞれH、Kとする)は、昭和5278日午前245分頃から橘橋(以下Tとする)南詰で警邏の一環として飲酒運転など交通関係違反の取締を主な目的とする交通検問に従事した。

時期的に飲酒運転が多く、飲食店の多い区域からTを通過する車両があるため、T橋南詰道路端に待機し、同所を通過する車両のすべてに対し走行上の外観等の不審の有無にかかわりなく赤色燈を回して合図して停止を求めるという方法で検問を実施した。

当時、同一方向に走行してくる車両は、5分に1台くらいの割合で、検問を終了した同日午前515分までに256台に停止を求め、酒気帯び運転で本件被告人(以下Xとする)を含む5人を検挙した。

Xの車両は、その走行の外見的状況からは格別不審の点はなかったが、検問を実施していたKがXの車両に停止の合図をすると、Xはこれに応じ、Kの前で停止したので、Kが窓越しにXに運転免許証の呈示を求めたところ酒臭がするので酒気帯び運転の疑いを持ち降車を求めた。Xがこれに応じ格別拒否することもなく素直に降車し、HもXの酒臭を確認したのでXに数十メートル離れた警察官派出所まで同行を求めた。Xはそれを承諾し、HがXの了解を得てXの車を運転し、KがXと一緒に同派出所に赴き、飲酒検知したところ、呼気1リットルにつき0.25ミリグラム以上のアルコールが検出されたため、Xにもその旨を確認させたうえ、Hが酒気帯び鑑識カード及び酒気帯び運転違反の交通事件原票を作成し、その供述書に欄に署名、押印を求めたところ、Xはこれに応じた。そして、交通原票のいわゆる赤切符の交付を受けて、警察官の運転中止の指示に従い徒歩で帰宅した。

Xは、本件自動車検問は何ら法的根拠もなくなされた違法なもので、本件証拠のうち、右の検問が端緒となって収集された証拠は、証拠能力がない旨を主張した。

 

 

<第一審>(宮崎地判昭和53317判時903107

● 走行の概観状況等からは交通違反を犯している等の不審な点が客観的に認められない車両に停車等を求め得るか否か

道交法に規定する各種の停止権や警職法二条一項の停止・質問権が問題の交通検問の根拠となりえないことはいずれも一定の要件のもとに認められていることから明らか。これを許容する法律の特別の根拠規定もない

しかし、社会生活において自動車が必要不可欠のものとなり、その普及も目ざましく、道路における危険防止、交通の安全と円滑の確保の重大さが増大している現時の交通状況からすると、交通の安全と交通秩序を維持するために本件のような交通検問の必要性は否定できない

 ↓

警察法二条一項が交通取締を警察の責務として掲げ、交通の安全と交通秩序の維持をその職責と規定している。これは、交通取締の一環として当然右のような交通検問の実施を警察官に許容しているものと解される

 

 ● 警察法は組織法であって同法二条一項は、個々の警察官の権限を規定したものではなく、単に警察の所掌事務の範囲を定めたに過ぎないとする見解がある

同条項は、組織体としての警察の所掌事務の範囲を定めるとともに、警察がその所定の責務を遂行すべきことも規定したものであって警察官にとって権限行使の一般的な根拠となり得るものと解するを相当とする。

ただこの場合、警察官がその職責を遂行するに当って取り得る警察手段としては、法律の特別の根拠規定を要しない任意手段に限られるべきであって、個人の意思を制圧して強制的に警察目的を実現する強制手段のように同条項とは別に法律の特別の根拠規定を必要とし、その根拠規定に基づく限りにおいてのみ許容するを相当とするものは、権限行使の一般的根拠となり得るにとどまる同条項に基づく職責遂行の手段としては是認できないところで問題の交通検問も右のように任意手段による場合に限り法的に許容されるできである。

 

同条二項が、同条一項に定める警察責務の遂行に当っては憲法の保障する個人の権利および自由の干渉にわたる等その権限を濫用することがあってはならない旨定めている。

警察官の職務執行の一般法的性格をもつ警職法は、その二条一項において一定の要件の下に警察官に停止、質問権を認め、その一条二項において、同法に規定する手段は、同法一条一項所定の警察目的のため必要な最小限度において用いるべきものと規定している。

警察法二条一項に基く任意手段にとどまる場合においても、そのすべてが許容されるものではなく、警察官の権限行使の具体的な必要性と相手方の受ける不利益とを比較考慮しその権限行使が社会通念上是認できる必要最小限度のものに限り許容される。

走行の概観状況等からは交通違反を犯しているなどの不審の点が客観的に認められない車両に対し停止を求める問題の交通検問にあっては、それが相手からの完全な自由意志に基く任意の協力を求める形で行われ、その方法も強制にわたらないもので、検問を実施するについて相当の必要性があり、相手方に過重な負担をかけない場合に法的に是認されると解すべきである。

 

 

<第二審>(福岡高宮崎支判昭和53912判時928127) 控訴棄却

● 走行中の車両に停止を求める交通検問が許されるものか

警察法二条は警察官の権限行使の一般的根拠を定めたものであり、同条一項が交通取締を警察の責務として掲げ、交通の安全と交通秩序の維持をその職責として規定している

    ↓

交通取締の一環として、当然右のような交通検問の実施を警察官に許容

 

● 右権限の行使にあたり強制手段に出る場合

その権限を規定した特別の根拠規定のあることを要する

強制手段に出ないで任意手段による限り特別の根拠規定がなくともこれをなし得ると解すべきである

 

いかなる態様、程度の行為が任意手段として許容されるか

    ↓

同条二項と警察官職務執行法一条にいういわゆる警察比例の原則に従い、警察官の権限行使の具体的必要性と相手方の受ける不利益とを比較考慮して、具体的状況のもとで相当と認められる限度と解される。

● 本件検問の場合

時期的に多発する飲酒運転等を取締る必要から警察官が右の目的で実施し、走行上の概観の不審点にかかわりなく通過する車両のすべてに対して停車を求める方法でなされたのも、交通違反が走行中の車両の概観から直ちに確実に見分けられない(本件のような酒気帯び運転、運転免許不携帯、特別運行許可証の不携帯、整備不良車両の運転等)点を考慮するとやむを得ない

しかし、その方法には強制的要素が全くなく、相手からである被告人に対して過重な負担をかけるものでなかったこと、検問の時間、場所等を総合すると、本件の具体的状況の下において相当と認められる方法、限度の任意手段によってなされたというべきであって、違法とはいえない

 

 

<最高裁> 上告棄却

「警察法二条一項が『交通の取締』を警察の責務として定めていることに照らすと、交通の安全及び交通秩序の維持などに必要な警察の諸活動は、強制力を伴わない任意手段による限り、一般的に許容されるべきものであるが、それが国民の権利、自由の干渉にわたるおそれのある事項に関わる場合には、任意手段によるからといって無制限に許されるべきでないことも同条二項及び警察官職務執行法一条などの趣旨にかんがみ明らかである。しかしながら、自動車の運転者は、公道において自動車を利用することを許されていることに伴う当然の負担として、合理的に必要な限度で行われる交通の取締に協力すべきものであること、その他現時における交通違反、交通事故の状況などをも考慮すると、警察官が、交通取締の一環として@交通違反の多発する地域等の適当な場所において、交通違反の予防、検挙のための自動車検問を実施し、同所を通過する自動車に対して走行の概観上の不審な点の有無にかかわりなく短時分の停止を求めて、運転者などに対し必要な事項についての質問などをすることは、それがA相手方の協力を求める形で行われ、B自動車の利用者の自由を不当に制約することにならない方法、態様で行われる限り、適法なものと解すべきである」。

(注 下線、番号は発表者)

 

 本件交通検問の適法性を肯定するに当って、最高裁は

@ 交通検問計画の合理性

A 手段の任意性

  B 比例原則

 を交通検問の適法性要件としている。

 

 

<自動車検問とは>

犯罪の予防、検挙のため、警察官が走行中の自動車を停止させて、自動車の見分をなし、運転者または同乗者に対し必要な質問を行うこと

 

 

<自動車検問の類型と法的根拠>

(1)   達成目的との関係

(A)   交通違反の予防、検挙を目的とする交通検問

(B)   不特定の一般犯罪の予防、検挙を目的とする警戒検問

(C)        特定の犯罪が発生した場合に犯人の検挙捕捉と捜査情報の収集を目的とする緊急配備としての検問

 

(2)自動車の態様との関係

(D)   不審車両を対象とする検問

(E)   一斉の無差別検問

 

 (D)の場合、一般に警職法21項を法的根拠にできる

  (D)+(A)はさらに道交法61条、63条、67

 (C)の場合、刑訴法197条、警職法21

 

       問題となるのは(A)または(B)の一斉無差別検問(E)の場合となる

本件は(A)+(E)の類型である

 

 

<法律の留保論>

国民の自由及び権利を制約したり義務を課す行政には、法律の授権を必要とする。

     侵害留保説

国民の権利自由を権力的に侵害する行政についてのみ法律の授権を要する。

     権力留保説

行政活動のうち、権力的作用について、法律の授権を要する。

     全部留保説

国民の権利義務に関わる権力的行政のほか、非権力的公行政についても法律の授権を要する。

 

<組織法的授権が具体的行政作用の授権として是認されるかどうか、判断を行うことに関して>

芝池;賛成

組織法の中に、法律の授権にあたると解される規定がおかれることがある。

   (ex,環境庁設置法5条3項、児童福祉法15条)

   組織法たる法律で一定の行政権限が配分されているが、権限の行使に関する授権が作用法たる法律で行われていない場合に、権限を行使することを認められるか。

   (ex,経済企画庁設置法4条13号・長期経済計画の策定)

   この場合、これを適法とするのが今日の支配的な見解であろうし、行政実務もそれに拠っているだろう。

→組織法的授権と作用法的授権との峻別は必ずしも適切ではなく、法律の規定が、問題となる行政活動との関係で授権規定として足りるものであるかを具体的に判断することが適切である。

       以上の指摘は、非権力的行政活動についてあてはまる。権力的行政活動については、組織法的授権では足りず、作用法的授権がなければならない。

 

→警察法2条1項を自動車一斉検問の授権規定と見ることは苦しい操作であり、一斉検問は日常的に反復して行われており、交通の自由を制約するものであるから、法律において制度を具合的に定めるべき。

 

塩野;反対

   法律の留保論における基本的前提要件を変更すると同時に、侵害留保説の果たしてきた国民の自由の保護の機能をかえって実質的に奪うことになる

 

反論 芝池;授権規定としての十分性判断は、従来法律の留保外とされてきた非権力的行政活動における法律の授権のあり方に関して主張されるものである。

 

<一斉交通検問の適法性についての主要な論点:法律の授権>

1.警職法2条1項の解釈論

自動車の一斉検問の根拠を同条に求めることはできるのか。

 

2.法律の留保の原則の妥当する範囲

a.侵害留保の原則

立法・行政・司法の実務においてとられている考え方。行政が私人の自由と財産を侵害する行為についてのみ法律の根拠を必要とする、というもの。これによると、議論は、自動車検問が「自由と財産への侵害」に該当するかということに絞られてくる。

b.警職法第2条の法的性質論

警職法2条1項の「停止させて質問する」行為は、一般的に任意手段であると解されている。警職法が任意手段について規定をおいた趣旨については、以下の諸説がある。

@     確認的規定説→単なる確認的な規定に過ぎないとする説。

A     規制規範説→職務質問は任意手段ではあるが、その目的や態様からして権利や自由への干渉・侵害にわたる虞があるので、規制規範としておいたとの説。

B     特別の法律の根拠を必要とする説→侵害留保原則のもと、職務質問は「自由と財産への侵害」に該当するとする説。

C     侵害留保の原則は妥当しないとする説→警職法第1条が「…職権職務を忠実に遂行するために、必要な手段を定めることを目的とする」と規定していることなどから、警察の活動上の手段については侵害留保原則は妥当しないので、法律の根拠が必要だとする説。ただし、全部留保説の場合には、根拠規範について後述の問題が生じる。

 

3.警察法2条の法的性質論

前述の法律の留保の原則において要求される法律の根拠とは、組織規範や規制規範であってはならず、根拠規範(その行為をするにあたって特別に根拠となるような規範)でなければならないとされる。ただし前述の全部留保説に立つと、変化していく行政に対応するには包括的な授権が必要となってしまう。また、根拠規範だけではなく、組織規範等を代替とする説もある。

そこで、警察法2条がそこに言う根拠規範にあたるかにつき、以下の2説がある。

@     根拠規範ではないとする説→同条は組織法に過ぎないとする説。

A     同条は単なる組織法ではなく、警察官が具体的に任務を行う際にとるべき警察手段の一般的根拠規定である。しかし、憲法上の要請により、国民に義務を課したり、また強制力を行使する場合には、さらに特別の法律の根拠を必要とする、とする説。

 

 

<学説> 根拠をどこに求めるか

@)警職法2条1項説

  警職法2条1項の職務質問の規定を根拠とする。

  疾走する自動車に対し、職務質問の要件を具備するか否かの判断は事実上不可能であるから、警職法は自動車利用者に停車を求める権限も当然に合せ与えたものでる。 

  自動車利用者を職務質問の対象者として除外していない。

  ⇒職務質問の要件の存否を確認するため、停車を求め質問することは許される。

批判;検問を行う時点では、職務質問の要件の存否は確認されていないから、警職法2条1項の規定の文言にはそぐわず、解釈論の枠を超えている。

 

A)警察法2条1項説

  「交通の取締その他公共の安全と秩序の維持に当たること」が警察の責務であるとする警察法2条1項を根拠規定とする。

  組織体としての警察の所掌事務を定めるとともに、その所定の責務を遂行すべきことを規定したもので警察官にとって権限行使の一般的根拠となり得る。 

批判;警察法は組織法であって作用法でなく具体的な権限の根拠とするのは行き過ぎである。

   →個々の警察活動に対する授権規定(作用法)の存在意義そのものを弱めてしまうことになる。

 

B)憲法31条の適正手続の保証による説

憲法上の理想的人権パターンから、逮捕については相当の嫌疑が要求されるが、新たな公共的要求により、相当な嫌疑がなくても人身を拘束することが必要な場合が出てきている。そこでは憲法31条の適正手続の規定が関係してくるので、その拘束には合理性が要求される。無条件に人身の自由という権利だけが後退するのではなくて、拘束は可能としてもよいが、その程度が微弱なものに限り、それが停止権である。警職法2条は、立法が考えた憲法31条の具体的内容であると解せるが、職務質問の要件を満たさない自動車の一斉検問についても、憲法31条の合理性があればよい。

 

C)憲法33条・35条による説

憲法33条、35条は個人のプライヴァシーの保護を目的とする条文である。これを前提として、自動車検問は、自動車の利用者の挙動を制約するという点につき、プライヴァシーに干渉する行為である。プライヴァシーは性質の違うものが複数存在しているので、これに対する制約を正当化する事由も一つだけではない。ところで歩行者に比べて道路上の危険度の高い自動車について、その利用者に、危険防止を目的とした多くの規則を定めて、それに従った形で警察の措置権限も定めているのに、事実上は歩行者よりもプライヴァシーを保護されているというのは、憲法の趣旨に反する。また、憲法33条、35条は、法の執行に著しい困難をもたらすためのものではなく、ある種の例外を供していると考えられる。よって、警職法2条により、自動車の一斉検問は認めてよい。

B,Cへの批判;憲法から要請される、国会のコントロールによる行政の民主的正当化との関係が明らかでない。

 

D)法的根拠を欠いており、違法とする説

警職法2条において、外観から不審な点が認められないのに相手方に対して停止を求めることは、同条の職務質問の要件を欠いていて、認められない。

相手方の任意の協力というが、実質強要的になることもあり、濫用の虞もある。また人権にかかわる行為であるので、警職法2条が任意手段にも厳格な要件を規定したのと同じ趣旨から、特別の法律の根拠が必要である。

また、警察法2条は組織規範であるから、これを法的根拠にはできない。

批判;法律の留保の原則の妥当範囲と警職法2条の法的性質についての説明はなされる余地がない。

 

E)「相手方への迷惑」を理由に挙げている説

侵害留保の原則の下、相手方の意思や抵抗を抑圧するような強制的要素の高い交通検問については、当然ながら法律の根拠を必要とする。それよりも強制的要素の低い任意的な検問についても、私人の権利に対する侵害を伴うものでないとはいえ、それ自体が相手方への迷惑となるのだから、法律の根拠なくして当然に受忍すべきものの範囲内にあるかが問題となる。そこでの判断要素はさまざまだが、濫用の防止という点から考えれば、検問によって得られる公益と、それにより侵害される私人の権利との法益衡量を重視すべきである。

批判;「迷惑」という、よくわからない概念が登場する。

 

 ※ 判例は警察法21項を根拠にしている。

 

 

<関連判例>

事実の概要

大阪府警察本部からの自動車強盗の増加の傾向に伴う夜間自動車検問の実施の依頼通達に

基づき、昭和36年9月26日午前零時20分頃大阪天王寺区内の路上で検問所を設け、

5名の警察官が道路沿いに数メートルの間隔で一列に配置され、検問を実施した。

そこへ被告人(以下Aとする)を乗せたタクシーが通りかかり、警察官が赤色燈を回して停止

の合図を送ったが、そのまま通過しようとしたので、別の警察官2名が警笛を鳴らしてな

お合図したので右タクシーはこれに気付いて停車した。警察官(以下Bとする)が運転手に何

処から来たかと尋ね、後部客席のAには酔っておられるのですかと聞いたのみで他に特段

の質問をせずにそのまま通そうと思った際Aが窓から顔を出してBの顔面の殴打した。

AはBの公務執行を妨害したとして起訴された。

 

 

()大阪地判昭和三七・二・二八→警職法説

判旨

自動車検問の権限は警職法第2条の職務質問の前段階であって、その権限は同条第1項の警察の任務規定から当然に由来するもので、警察官が犯罪の予防検挙のために通行中の者を停止させて質問する権限について同法で厳格な要件を定めている。

 

しかし、実質は「職務質問の要件なき職務質問」というべきもので、事実上自動車検問という制度が存在し、警察官が検問所を設けて実施に当たる以上、自動車搭乗者の多くに対して強要的な働きをもつであろうことは明らかである。

 

自動車搭乗者に対する職務質問の特殊応用形態として自動車検問制度の今日における必要性は理解できないではないが、現行法下では法的根拠を欠き不適法であり、個々の自動車に対する検問がたまたま警職法第2条第1項の要件を備えている限りにおいて、職務質問として適法と見ることができるに止まる。

 

本件において警察官はそもそも停車を命ずる権限を欠いており停止しなかったからといって直ちに職務質問の要件が存在したとはいえない。

 

→Bの職務執行は根拠を欠き不適法であるとし、公務執行妨害罪の成立を否定。

 

 

()大阪高判昭和三八・九・六→警職法説

判旨

警職法2条第1項における職務質問の権限は、自動車を犯罪の手段等に利用する者が激増するなどの実質的理由があるため、自動車利用者に対してもその要件を満たす限り与えられ、また、その要件の存否を確認するため自動車利用者に停止を求める権限をも合わせて与えられたものと解される。

 

しかし、警職法の職務質問は任意の手段であるため、自動車の停止を求める権限が適法であるには以下の条件を充足している必要がある。

@     同条の職務質問のために自動車停止を求める行為も強制力を伴わない任意の手段であることが必要なため、道路に障害物を置く等の物理的な停止強制の方法を用いないこと。

A     罪を犯し、または犯そうとしている者が自動車を利用しているという蓋然性があること。

B     公共の安全と秩序の維持のために自動車利用者の理由を制限してもやむを得ないものとして是認されること。(検挙手段として適切であり、検問しなければ検挙が困難な自動車を利用する重要犯罪に限り、しかも最小限度の自由の制限に止まる場合)

 

さらに運転手等に職務質問の前提要件の存否を確認するため、若干の質問をすることも任意の応答を期待できる限度で許容されるべきであるとした。

 

→自動車検問の必要性を強調した上で警職法の職務質問の中に含まし、根拠付けして(前述の要件をすべて満たしている)本件自動車検問を適法と判断し、地裁判決を破棄。

 

 

両判決の相違:自動車検問の重要性と必要性に十分理解を示しながらも、()はこれを不適法とし、()は適法とした。

→その根拠を警職法に求めつつ同法2条1項の職務質問該当性の判断を異にしている。

 

 

<私見>

 学説のXに近い。

 

 

<関係条文>

憲法

第三十一条  何人も、法律の定める手続によらなければ、その生命若しくは自由を奪はれ、又はその他の刑罰を科せられない。

 

第三十三条  何人も、現行犯として逮捕される場合を除いては、権限を有する司法官憲が発し、且つ理由となつてゐる犯罪を明示する令状によらなければ、逮捕されない。

 

第三十五条  何人も、その住居、書類及び所持品について、侵入、捜索及び押収を受けることのない権利は、第三十三条の場合を除いては、正当な理由に基いて発せられ、且つ捜索する場所及び押収する物を明示する令状がなければ、侵されない。
 2  捜索又は押収は、権限を有する司法官憲が発する各別の令状により、これを行ふ。

 

警察法

(この法律の目的)
第一条  この法律は、個人の権利と自由を保護し、公共の安全と秩序を維持するため、民主的理念を基調とする警察の管理と運営を保障し、且つ、能率的にその任務を遂行するに足る警察の組織を定めることを目的とする。

 

(警察の責務)
第二条  警察は、個人の生命、身体及び財産の保護に任じ、犯罪の予防、鎮圧及び捜査、被疑者の逮捕、交通の取締その他公共の安全と秩序の維持に当ることをもつてその責務とする。
 2  警察の活動は、厳格に前項の責務の範囲に限られるべきものであつて、その責務の遂行に当つては、不偏不党且つ公平中正を旨とし、いやしくも日本国憲法の保障する個人の権利及び自由の干渉にわたる等その権限を濫用することがあつてはならない。

 

警職法

(この法律の目的)
第一条  この法律は、警察官が警察法 (昭和二十九年法律第百六十二号)に規定する個人の生命、身体及び財産の保護、犯罪の予防、公安の維持並びに他の法令の執行等の職権職務を忠実に遂行するために、必要な手段を定めることを目的とする。
 2  この法律に規定する手段は、前項の目的のため必要な最小の限度において用いるべきものであつて、いやしくもその濫用にわたるようなことがあつてはならない。

 

(質問)
第二条  警察官は、異常な挙動その他周囲の事情から合理的に判断して何らかの犯罪を犯し、若しくは犯そうとしていると疑うに足りる相当な理由のある者又は既に行われた犯罪について、若しくは犯罪が行われようとしていることについて知つていると認められる者を停止させて質問することができる。

 

道路交通法

(危険防止の措置)
第六十一条  警察官は、第五十八条の三第一項及び第二項の規定による場合のほか、車両等の乗車、積載又は牽引について危険を防止するため特に必要があると認めるときは、当該車両等を停止させ、及び当該車両等の運転者に対し、危険を防止するため必要な応急の措置をとることを命ずることができる。

 

第六十三条  警察官は、整備不良車両に該当すると認められる車両(軽車両を除く。以下この条において同じ。)が運転されているときは、当該車両を停止させ、並びに当該車両の運転者に対し、自動車検査証その他政令で定める書類の提示を求め、及び当該車両の装置について検査をすることができる。

 

(危険防止の措置)
第六十七条  警察官は、車両等の運転者が第六十四条、第六十五条第一項、第六十六条又は第八十五条第五項若しくは第六項の規定に違反して車両等を運転していると認めるときは、当該車両等を停止させ、及び当該車両等の運転者に対し、第九十二条第一項の運転免許証又は第百七条の二の国際運転免許証若しくは外国運転免許証の提示を求めることができる。

 

刑事訴訟法

第百九十七条  捜査については、その目的を達するため必要な取調をすることができる。但し、強制の処分は、この法律に特別の定のある場合でなければ、これをすることができない。
 2  捜査については、公務所又は公私の団体に照会して必要な事項の報告を求めることができる。

 

 

<参考文献>

第一審 宮崎地裁昭和53317 判時903107

第二審 福岡高宮崎支判昭和53912 判時928127

最終審 最判昭55922 刑集345272

 

関係判例

大阪地判昭和37228 下刑集412170

大阪高判昭和3896 高刑集167526

 

荘子邦雄「自動車検問と公務執行妨害罪の成否」法時34650

出射義夫「自動車検問に関する法律問題」ジュリ24937

渡辺保夫・曹時3611247

木藤繁夫「職務質問・所持品検査・自動車検問−検察の立場から」三井誠ほか編・刑事手続(上)114

藤田宙靖「警察法二条に関する若干の巻号頁考察」(一)(二)法学5251頁・5327788

芝池義一・行政法総論講義<第三版>515458

三井誠・刑事手続法(1)105

塩野宏・行政法T<第二版>66

藤井一雄「自動車検問」捜査大系T21

高木俊夫「自動車検問の問題点」判タ284114

坂村幸男「自動車検問」刑事訴訟法の争点<新版>52

荻野徹「自動車の一斉検問」別冊判タ1116

上田信太郎「自動車検問」刑事訴訟法判例百選<第七版>12

州見光男「自走車検門の適法性」鈴木義男先生古希祝賀・アメリカ刑事法の諸相143

島伸一・捜査・差押の理論、「警察官による自動車の停止」警研51610

中武靖夫「自動車検問」刑事訴訟法百選<第三版>34

渥美東洋・判タ43213

田宮裕「自動車の停止権と人身の自由」操作の構造122

小早川光郎・法学43144