行政判例百選U・159事件
担当:森本
点字ブロックの不存在と駅ホームの設置管理の瑕疵
最高裁昭和六一年三月二五日第三小法廷判決
<事実の概要>
視力障害者である大原隆(以下Xとする)は昭和48年8月17日午後6時45分頃、国鉄大阪環状線福島駅の島式ホームから線路上に転落し、進入してきた電車に両足を轢断された。
Xは国鉄(以下Yとする)に対して損害賠償を求めて訴えを起こした。
第一審(大阪地裁昭和五五年一二月二日判決):Xの請求認容
争点:@Y及びその使用人には商法590条に基づく損害賠償責任はあるか。
A福島駅には瑕疵があり、Yには国家賠償法2条に基づく損害賠償責任はあるか。
Xの主張:@Yには旅客運送人として旅客であるXの右利用につきその生命身体の安全を確保すべき運送契約上の義務があるのに、Y及びその使用人はこれを怠り、その電車や駅施設を利用中のXを負傷させたのであるから、Yには商法590条に基づき、Xに対しての損害賠償責任がある。
A本件事故現場である福島駅は日本国有鉄道法に基づいて設立された公共企業体であるYの公の営造物であるところ、右施設の一部であるホームにはその設置または管理について物的・人的瑕疵があり、本件事故はそのために生じたものであるから、Yには国家賠償法2条に基づき本件事故によりXが被った損害を賠償する義務がある。
Yの主張:本件事故は、Xの一方的かつ重大な過失によって発生したものであり、Yの従業員(駅員、運転士)には何らの過失もなく、また、福島駅の人的物的施設についても設備の瑕疵はなかったのであるから、Yが本件事故につき法的責任を問われる必要はない。
判決:Yの使用人である加害電車の運転士が旅客の運送に関する注意(前方注意義務)を怠ったとして商法第590条に基づきYの責任を認めた。
しかし、賠償額の認定において点字ブロック等の普及の程度、視力障害者の同駅の利用状況等に鑑みれば、本件事故当時点字ブロック等を施設していなかったからといって駅ホームの人的・物的施設に不備があったとはいえず、Xにも過失があるとして、40%の過失相殺を認めた。
事故当時のXの状況
・ 白杖を持っていなかった。(それまで白杖を使用したことはない)
・ 介護者を同伴していなかった。
・ 事故前日に博多駅から夜行列車で単身来阪。公園のベンチで3,4時間午睡した。
・ 酒気を帯びていた。
→疲労、注意力が大幅に低下している状態。
Xは事故の危険に対処しうる能力を考えてもう少し慎重な態度で行動していれば本件事故は避けえたものと推認できる。
事故当時の福島駅の状況
・福島駅ホーム上で電車監視及び客扱いの職務 ラッシュアワー:駅員2名。
それ以外の時間帯:駅員1名。
本件事故当時はラッシュアワーをやや過ぎてホーム上の旅客数も通常程度(数十人程度)だったので駅員A1名がこれに従事していた。
一般的には当該駅におけるホーム上において通常予想される危険から旅客を保護するに足りるだけの人員を配置すれば足りるものと解すべき。
本件事故当時の福島駅ホーム上の駅員の配置に不備の違法があったとはいえない。
→Aは旅客運送に関し注意を怠らなかったものと認められる。
・同駅は高架でホーム直下の一般道路や環状線と併走する阪神電鉄、国鉄貨物線などからの騒音が不規則に入り乱れるため情報として役立つ音の選択が困難。
→聴覚が役に立たなかった。
・同駅周辺には特に視力障害者のための福祉施設はなく、同駅を利用する視力障害者は月間数名程度。
福島駅ホームは、視力障害者にとって転落する危険性の高い場所であるから視力障害者がホーム縁端を容易に感知することができるような安全施設があることが望ましく、点字ブロック等は一応その役割を果たすに足りると考えられるが、本件事故当時におけるその普及程度や視力障害者である旅客の福島駅の利用状況燈に鑑みれば本件事故当時Yに福島駅のホームに点字ブロック等を施設しておくべき法律上の義務があったとまでは認めがたい。
→事件当時において点字ブロック等があまり普及しておらず、視力障害者が同駅をあまり利用していないことなどを根拠に右瑕疵を否定。
商法590条は運送施設にも適用があるため駅ホームの設置管理の瑕疵についても同法が適用され、従って証明責任は運送人であるYが負う。
控訴審(大阪高裁昭和五八年六月二九日判決)
争点:福島駅には瑕疵があり、Yには国家賠償法2条に基づき損害賠償責任はあるか。
Xの主張:福島駅ホームは、行政法学上の営造物法人であって国家賠償法2条の公共団体に該当するYが、公の目的に供している物的設備ないし占有しかつ所有する土地の工作物に該当するところ、その設置・管理(ないし保存)に瑕疵があり、本件事故は、右瑕疵に起因するからYは、国賠法2条ないし民法717条に基づき本件事故によりXが被った損害を賠償する義務がある。
Yの主張:本件事故は、Xの一方的かつ重大な過失によって発生したものであり、Yは、本件旅客運送契約に基づく旅客の安全確保義務に違反していないし、また、福島駅ホームに設置・管理(ないし保存)に瑕疵がなく、仮に点字ブロック等を福島駅ホームに敷設しなかったことが、右の安全確保義務違反ないし瑕疵に相当するとしても、これらと、本件事故の発生とは相当因果関係がないから、いずれにしてもYが本件事故につき法的責任を問われる必要はない。
同駅は島式ホームで特に転落の危険性は高く視力障害者のための転落防止設備を不可欠としていたこと、点字ブロックが有効でありそれが開発されていることを承知しながら施設しないまま放置していたことからすると同駅ホームは通常有すべき安全性を欠き設置・管理に瑕疵があったとして国家賠償法2条に基づくYの損害賠償責任を認めた。
→視力障害者の施設に関係しない駅でも点字ブロック等を施設しないと瑕疵がある。
最高裁判決
争点:点字ブロック等の新たに開発された視覚障害者用の安全設備が日本国有鉄道の駅のホームにされていないことと国家賠償法2条1項にいう設置または管理の瑕疵の有無の判断。
判決要旨:点字ブロック等の新たに開発された視力障害者用の安全設備が日本国有鉄道の駅のホームに施設されていないことが国家賠償法2条1項にいう設置または管理の瑕疵に当たるか否かを判断するに当たっては、その安全設備が視力障害者の転落等の事故防止に有効なものとしてその素材、形状及び施設方法において相当程度標準化されていて全国ないし当該地域における道路、駅ホーム等に普及しているかどうか、当該駅のホ−ムにおける構造または視力障害者の利用度から予測されるその事故発生の危険性の程度、事故を未然に防止するため右安全設備を設置する必要性の程度及び右安全設備の設置の困難性の有無等の諸般の事情を考慮することを要する。
原審
・本件事故当時の点字ブロック等の標準化及び普及の程度についての認定が明確でない。
・点字ブロック等が昭和48年八月の本件事故当時、視力障害者用の安全設備としての普及度が低くしかもその素材、形状及び施設方法等において必ずしも統一されていないことが窺える。
・福島駅が島式ホームであって、視力障害者にとって危険な駅であることを強調するが、福島駅のホームが視力障害者の利用度との関係でその事故発生の危険性が高かったか否かについて検討を加えていない。
上の諸点を検討しないで、本件事故当時福島駅のホームに点字ブロック等が敷設されていなかったことを持って、福島駅のホームが通常有すべき安全性を欠き、その設置管理に瑕疵があったとした原審判決には国場違法2条1項の解釈適用を誤ったか、審理不尽、理由不備の違法があるものというべき。
→原判決中、Yの敗訴部分を破棄、本件を原審に差し戻すのが相当。
※本件は差戻し後の二審で和解が成立した。
国鉄は民営化以前は日本国有鉄道法に基づいて設立された公共企業体(「営造物法人」)であり、国賠法1条にいう「公共団体」にあたるとして同法が適用されてきた。
また、同法63条は法令の適用については国とみなす旨を規定していた。
※ 国賠法2条1項
「営造物の設置管理の瑕疵」の意味
→@通常有すべき安全性
無過失責任
予算抗弁の排斥
「営造物が通常有すべき安全性を欠いていることをいい、これに基づく国及び公共団体の賠償責任についてはその過失の存在を必要としない」
防護柵設置等の「予算措置に困却するであろうことは推察できるがそれにより直ちに道路の管理の瑕疵によって生じた損害に対する賠償責任を免れうるものと考えることはできない。」
(高知落石事件・最高裁昭和45年8月20日第一小法廷判決)
A瑕疵の有無:「当該営造物の構造、用法、場所的環境及び利用状況等諸般の事情を総合考慮して個別具体的に判断するもの」
(民集32巻5号809ページ)
→ケースバイケースで事故の起きた時代の水準における健全な社会通念に照らし、通常予想される危険の発生を防止するに足りると認められる程度の設備を必要とし、かつこれをもって足りる。
上記@からAへの論理展開
客観説:営造物が「通常」有すべき性質や設備を欠いた状態→瑕疵
※「通常」とは何か?
社会通念に従って法的判断がなされたもの。
その判断を導き出すためには諸般の事情を総合的に考慮する必要がある。
義務違反説:損害回避義務の設定
維持する義務のある安全性は、諸般の事情を考慮して予測される危険の程度、回避可能性等と関連してとらえるべき。
営造物の設置・管理の瑕疵(いわゆる瑕疵概念)は、違法性の評価を伴う概念
であり、それゆえ規範的な概念である。
本判決でも上記@Aを一般原理とおいた
点字ブロック等が設置されていなかったことによる駅ホームの設置管理の瑕疵
新たに開発された安全設備
国賠法2条に基づく責任
・内在型瑕疵類型
・外在型瑕疵類型 不作為不法行為型=危険管理責任型
※ 本件は内在型瑕疵類型(利用に供せられる公共施設等が総体として必要な安全性を有しているかが問題)
一般的には営造物の瑕疵を客観的に判断。
※本判決は点字ブロックのように新たに開発された安全のための設備を設置しなかったことが通常有すべき安全性を欠くことになるかの判断はその普及度など独自の考慮が必要であるとした。
一般的に安全のための設備の新設が問題となる場合の責任の成立を限定したものではない
(a)施設の性格
@ 一般旅客の大量輸送を目的とする機関であるが故の事故発生防止のための人的物的設備の責任
A 視力障害者の社会的自立を図る上で、鉄道駅を安全に利用できるようにする必要性
(c.f.現、障害者基本法:6条、22条の2)
(b)危険の存在
B 周辺の視力障害者施設の状況、視力障害者の利用度、そこからくる事故発生の危険性の程度
C ホームの構造における危険の程度
(c)安全性の内容が「通常有すべき」ものであったか
D 点字ブロックが当時既に実用可能であったか
E それが認識されていたか
F 財政上・技術上の困難性があるか
第一審:@を是認しつつもA一部の利用者に固有の事情によって生じる危険からその安全を確保するために加重された施設を求めるのは基本的にはその施設の公共性・社会性に由来する要請であり、法律上の義務として構成するには限界があるとした。
さらにBDの要素を考慮して逆に点字ブロックの設置義務はないとした。
第二審:施設が@Aから社会性・公共性が強いものであるとし、B市内の視力障害者も多くまた福島駅の乗降客も多いこと、さらにD点字ブロック等は昭和41年に開発され、既に全国の相当多数の道路に敷設されておりEYも敷設の要望を受け、また視力障害者の施設に関係する駅のホームには敷設するなどその意味を理解していたと推認され、また、F比較的容易に敷設できるとして瑕疵を認定した。
最高裁:考慮すべき要素としてBCDF(但し財政上の困難は入っていない)にほぼ相当する要素を挙げ、第二審がBDに関して検討を加えていない。
むしろ、点字ブロック等が当時は普及程度が低く、素材・形状・敷設方法等において統一されていなかったという証拠に何らの配慮もしていないとして破棄・差戻しをした。
交通に関する安全設備が新たに開発された場合、新技術の開発と普及とのタイムラグが生じうる。
実用性・有効性が得られ、それが認識可能になったならばその施設の性格(a)によってはそれによる安全性を確保していないということが設置・管理の瑕疵となりうるというべき
関連判例 東京地裁昭54年3月27日判決
〈事実の概要〉
視力障害者である訴外亡上野孝司(以下Aとする)は、昭和48年2月1日午後9時25分頃国鉄高田馬場駅(以下Yとする)で山手線外回り電車から下車し、同駅の島型ホームの目白寄り階段から地上改札口に出ようとしたが、上記ホームには点字ブロック等の視力障害者にその側端を認識できる設備がなく、ホーム上に駅員1名しか配置されておらず警告もなかったため、Aは同ホームの側端を認識できないまま前進し、線路上に転落した。
転落後直ちにホーム上に這い上がろうとしたが自力では上がれず、付近に居合わせた一般乗客らがAを引き上げようとしている最中に山手線内回り電車が進入し、電車とホームの間にはさまれ、即死した。
Xの両親は民法717条及び商法590条に基づき賠償義務があるとしてBに損害の賠償を求めた。
<判旨>
視力障害者の駅のホームから転落する危険性は特に島式ホームの場合一層高い。
もちろん盲人自ら十分注意して行動すべきであり、電車等の交通機関を利用する場合には介護人の付き添いを受けることが望ましいことではあるが、それを常に期待し要求することは酷で、社会生活上不可能に近い。
Bのように一般旅客の大量輸送を目的とする機関は、できるだけ事故の発生防止の人的物的設備をなすべき義務があり、少なくとも本件高田馬場駅のように周辺に盲人のための施設が多く、盲人の駅利用者も多い上、ホーム側端を容易に感知でき得るような安全設備を施すべき。
Bは本件ホームに盲人側の意見を徴したうえで、キクラインテープをホームの一部に貼付したのは、盲人に対する安全設備として不十分。(Aはテープの未貼付部分から転落した)
当時既に盲人に対する安全設備として一応十分で、他の晴眼者の乗降にも支障とならない点字ブロックが開発され、それほど多額の費用を要せずして敷設が可能であった。
これを敷設するよう度重なる陳情を受けていたのに敷設することなく推移していた
本件事故当時駅ホームに役務係として1名しか配置されていなかった
→本件高田馬場駅のホームは、ホームとして本来有すべき安全性を欠き、その設置保存に瑕疵があり、それによって本件事故が発生したものと認めざるを得ない。
Bに民法第717条に基づく責任を認めた。(過失相殺は2割。)
昭和47年には東京都が高田馬場駅の周辺を「視力障害者対策モデル地区」と指定し、まわりの歩行者道路に点字ブロックを施設するなどの対策を講じた。
@Aから駅ホームに事故発生当時の人的物的設備をなす義務はあった。
Cとならんで、B周辺に視覚障害者の利用施設がいくつかあるためその駅利用者も多く危
険性が高い。
D既に敷設した駅もあり、E同駅にも敷設の要望がなされ、一部点字タイルを敷設しておりF多額の費用を要せず敷設可能であった。
瑕疵(通常の安全性の欠如)の基準
地裁:国鉄は身体障害者に対する安全施設の拡大充実にも努力すべきであるが、これは視力障害者とごく一部の利用者に固有の事情によって生ずる危険からその安全を確保するために加重された施設を求めるもの。
基本的には企業の公共性社会性に由来する要請で、法律上の義務としての要求には限界がある。
高裁:視力障害者が晴眼者とともに自由な社会生活を営むことのできる社会環境の整備に務めることは国や地方公共団体の当然の責務。
国鉄の社会性公共性は極めて強い。
「視力障害者が介護者なしに電車を利用することを前提としてホームの安全設備を考慮すべきは当然」。
馬場:盲人が常に介護人の付き添いを受けることを期待することは酷で、社会生活上不可能に近い。国鉄はできるだけ事故の発生防止のための人的物的設備をなすべき義務がある。
※視力障害者の社会参加のために安全設備をできるだけ設置するよう努力すべきことは当然であるが、政策的基準は達成しないからといって法的責任が直ちに生ずるものではない。
馬場、高裁が政策的水準と法的水準を混同??
駅における点字ブロック等の必要性は政策的要請に止まり、法的要請とまではいえない。
条件の備わっていない駅には点字ブロック等はなかなか設置されないがそれは瑕疵に当たるのか。
馬場:少なくとも本件高田馬場駅のように周辺に盲人のための施設が多く盲人の駅利用者も多いうえ、島式ホームの駅にあっては、点字ブロック等を設置すべき。
地裁:福島駅ホームに点字ブロックを敷設すべき法律上の義務を否定。
高裁:視力障害者の施設に関係しない駅であるというだけで点字ブロック等の敷設を要しないとすることは相当ではない。
高裁の疑問点@点字ブロックが視力障害者の転落防止に極めて有効か
B敷設は比較的容易か
安全性→相対的概念 営造物の利用状況や場所的環境も考慮される。
新技術の開発と普及のタイム・ラグ:新技術の有効性・普及度・費用、施設の危険性、
対応の緊急性などによって異なる。
地裁:昭和50年ごろから点字ブロック等を敷設する駅がぼつぼつ現れ始め漸次増加しているが、「未だ実験的段階を脱せずその手法としても試行錯誤的範囲を脱していなかった」
高裁:「昭和48年頃から急速に普及していった」→実証的データ無し。
→高裁判決が述べるところだけでは、昭和48年8月にすでに点字ブロック等を設置しておくべきであったとはいえない。
危険だから改善せよとの陳情が事故前にあったか
地裁:事故以前に特に同駅に点字ブロック等の設置が要望がなかったことを指摘。
高裁:陳情があったが国鉄が緊急度の高い駅から順次対応するのは当然。
福島駅に付いては陳情もないものとして後回しにすることは不合理ではない。
高裁:国鉄の社会性、公共性を強調するあまり、事故当時の実情を無視したままでホームに欠陥があるといっている。
点字ブロック・点字タイル
昭和40、41年に岡山市の財団法人安全交通試験研究センターによって開発された。
点字ブロック:全国80都市で採用(昭和48年8月ごろ)
点字タイル:全国68都市 〃 〃
昭和48年8月当時の点字ブロック等の実情
・実験的な段階で材質、形状、設置方法等に確立したものはなし。
・価格〈30センチ四方、一枚〉点字ブロック:約480円。(工事費込)
点字タイル:約600円。( 〃 )
・ 普及状態:大阪近郊の国鉄や私鉄では付近に盲学校のある3駅のみ設置。
ターミナル駅にも設置されてなかった。
※点字ブロック等のJIS規格が平成13年9月20日に制定された。
「高齢者、身体障害者等の公共交通機関を利用した移動の円滑化の促進に関する法律」
(交通バリアフリー法) 平成12年11月15日施行
高齢者、身体障害者等の自立した日常生活及び社会生活を確保することの重要性が増大しているという社会状況に鑑み、公共交通期間の旅客施設及び設備を改善するための措置、旅客施設を中心とした一定の地区における道路、駅前広場、通路その他の施設の整備を推進するための措置その他の措置を講ずることにより、高齢者、身体障害者等の公共交通機関を利用した移動の利便性及び安全性の向上の促進を図り、もって公共の福祉の増進に資することを目的とする。
運輸大臣、建設大臣、国家公安委員会及び自治大臣は、移動円滑化を総合的かつ計画的に推進するため移動円滑化の促進に関する基本方針を定めることとしている。
公共交通事業者が講ずべき措置
新設の旅客施設、車両についての公共交通事業者の義務
既設の旅客施設、車両についての公共交通事業者の努力義務
重点整備地区におけるバリアフリー化の重点的・一体的な推進
指定法人
国、地方公共団体及び国民の責務
移動円滑化の促進移管する基本方針
移動円滑化のために必要な旅客施設及び車両等の構造及び設備に関する基準
福島駅:周辺に障害者のための福祉施設なし。駅周辺道路にも点字ブロック等は未設置。
1,2番線合わせて360メートルに点字ブロック等を施設するには1日あれば足りる。昭和39年の開業以来、晴眼者、視力障害者のホーム転落事故は本件以外皆無。点字ブロック等の施設の陳情なし。
クリーンタイル(足裏で感知でき、点字ブロック等とある程度同じ役割を果たす)が設置されていた。
一日の乗降客数:約26000名
・ホーム 全長180.51メートル
幅10.05メートルから5.91メートル(平均9メートル前後)
高架の島式ホーム(⇔相対式ホーム)
※Xが転落した内回り電車の発着する1番線ホームは進行方向に向かって右側に緩やか
に湾曲していた。
ホームの縁端にクリーンタイルは貼付されていたが、点字ブロックその他の転落防止設備は設置されていなかった。
点字ブロックが現にある駅でも、注意力を欠いた視力障害者がホームから転落する場合が
あるし、視力障害者が必ず点字ブロックを利用してホームを歩行しているものではない。
点字ブロックさえあれば視力障害者の安全性が絶対的に確保されているとまではいえない。
高田馬場駅:周辺に盲人のための施設が多く
視力障害者の駅利用者は一日220人から230人と多い。
キクラインテープ:滑り止め及び方向指示用
事故直後に設置。
<参考文献>
民集40巻2号472ページ、同32巻5号809ページ
判例時報1094号37ページ、同919号77ページ
山田卓生 ホームの点字ブロックと営造物瑕疵(ジュリスト822号101ページ)
阿部泰隆 点字ブロックと駅ホームの安全性(ジュリスト801号66ページ)
植木哲 工作物責任・営造物責任(法学教室123号)、災害と法 179ページ以下
点字ブロックの不存在と営造物責任の存否
(判例評論336号35ページ<判例時報1215号181ページ>)
古崎慶長 国家賠償法の諸問題 224ページ以下
阿部泰隆 国家賠償法(有斐閣、1988年)
<関連条文>
商法
第八章 運送営業 第二節 旅客運送
第五百九十条 旅客ノ運送人ハ自己又ハ其使用人カ運送ニ関シ注意ヲ怠ラサリシコトヲ証明スルニ非サレハ旅客カ運送ノ為メニ受ケタル損害ヲ賠償スル責ヲ免ルルコトヲ得ス
○2 損害賠償ノ額ヲ定ムルニ付テハ裁判所ハ被害者及ヒ其家族ノ情況ヲ斟酌スルコトヲ要ス
障害者基本法
(昭和四十五年五月二十一日法律第八十四号)
(自立への努力)
第六条 障害者は、その有する能力を活用することにより、進んで社会経済活動に参加するよう努めなければならない。
2 障害者の家庭にあつては、障害者の自立の促進に努めなければならない。
(公共的施設の利用)
第二十二条の二 国及び地方公共団体は、自ら設置する官公庁施設、交通施設その他の公共的施設を障害者が円滑に利用できるようにするため、当該公共的施設の構造、設備の整備等について配慮しなければならない。
2 交通施設その他の公共的施設を設置する事業者は、社会連帯の理念に基づき、当該公共的施設の構造、設備の整備等について障害者の利用の便宜を図るよう努めなければならない。
3 国及び地方公共団体は、事業者が設置する交通施設その他の公共的施設の構造、設備の整備等について障害者の利用の便宜を図るための適切な配慮が行われるよう必要な施策を講じなければならない。
民法
第五章 不法行為
第七百九条 故意又ハ過失ニ因リテ他人ノ権利ヲ侵害シタル者ハ之ニ因リテ生シタル損害ヲ賠償スル責ニ任ス
第七百十条 他人ノ身体、自由又ハ名誉ヲ害シタル場合ト財産権ヲ害シタル場合トヲ問ハス前条ノ規定ニ依リテ損害賠償ノ責ニ任スル者ハ財産以外ノ損害ニ対シテモ其賠償ヲ為スコトヲ要ス
第七百十一条 他人ノ生命ヲ害シタル者ハ被害者ノ父母、配偶者及ヒ子ニ対シテハ其財産権ヲ害セラレサリシ場合ニ於テモ損害ノ賠償ヲ為スコトヲ要ス
第七百十二条 未成年者カ他人ニ損害ヲ加ヘタル場合ニ於テ其行為ノ責任ヲ弁識スルニ足ルヘキ知能ヲ具ヘサリシトキハ其行為ニ付キ賠償ノ責ニ任セス
第七百十三条 精神上ノ障害ニ因リ自己ノ行為ノ責任ヲ弁識スル能力ヲ欠ク状態ニ在ル間ニ他人ニ損害ヲ加ヘタル者ハ賠償ノ責ニ任セス但故意又ハ過失ニ因リテ一時其状態ヲ招キタルトキハ此限ニ在ラス
第七百十四条 前二条ノ規定ニ依リ無能力者ニ責任ナキ場合ニ於テ之ヲ監督スヘキ法定ノ義務アル者ハ其無能力者カ第三者ニ加ヘタル損害ヲ賠償スル責ニ任ス但監督義務者カ其義務ヲ怠ラサリシトキハ此限ニ在ラス
○2 監督義務者ニ代ハリテ無能力者ヲ監督スル者モ亦前項ノ責ニ任ス
第七百十五条 或事業ノ為メニ他人ヲ使用スル者ハ被用者カ其事業ノ執行ニ付キ第三者ニ加ヘタル損害ヲ賠償スル責ニ任ス但使用者カ被用者ノ選任及ヒ其事業ノ監督ニ付キ相当ノ注意ヲ為シタルトキ又ハ相当ノ注意ヲ為スモ損害カ生スヘカリシトキハ此限ニ在ラス
○2 使用者ニ代ハリテ事業ヲ監督スル者モ亦前項ノ責ニ任ス
○3 前二項ノ規定ハ使用者又ハ監督者ヨリ被用者ニ対スル求償権ノ行使ヲ妨ケス
第七百十七条 土地ノ工作物ノ設置又ハ保存ニ瑕疵アルニ因リテ他人ニ損害ヲ生シタルトキハ其工作物ノ占有者ハ被害者ニ対シテ損害賠償ノ責ニ任ス但占有者カ損害ノ発生ヲ防止スルニ必要ナル注意ヲ為シタルトキハ其損害ハ所有者之ヲ賠償スルコトヲ要ス
○2 前項ノ規定ハ竹木ノ栽植又ハ支持ニ瑕疵アル場合ニ之ヲ準用ス
○3 前二項ノ場合ニ於テ他ニ損害ノ原因ニ付キ其責ニ任スヘキ者アルトキハ占有者又ハ所有者ハ之ニ対シテ求償権ヲ行使スルコトヲ得