和田ゼミ(学習院大学経済学部)

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ゼミ第V世代、順調発展 (April 14, 2024)


昨年度のゼミ生の考えた問題設定と分析、今回も他大学合同ゼミ(早稲田大学での早慶一橋中央など10ゼミ合同と、関西学院大学加藤雅俊ゼミ合同)に参加させていただきました。例年通り要約します。

2023年度は、因果推論手法を使えたテーマが複数出てきました。他にも、データ制約のため因果推論までできなくとも、クロスセクション重回帰では多発する疑似相関をパネルデータの固定効果で回避しようとする人が多くなりました。因果推論だけおすすめしているわけではなくて、歌詞のテキスト分析をKHcoderで行うような独自の視点とコーディング研究もあって、発想と関心を大事にして深めていき、成果にする経験が皆さんできました。

(因果推論2グループテーマ)

「労働基準監督官が行う定期監督と労働災害の関係について」宇佐見栞里・新宅紫苑・土田りほ
問題:労働基準監督署の監督業務によって労働災害を減らす効果があるのか(特定の事業場への監督による改善ではなく一般予防効果があるか)。労働基準監督官経験者に複数インタビューしたところ労働災害が増えた業種では監督を厚く傾向もあるので、相関をみるだけでは逆因果の影響を受けるのでは。
手法:業種別の労働災害数に対する定期監督数の都道府県単位パネルデータで、先行研究のデータ範囲を拡大し再現研究を行ったあと、建築物滅失数(建設業)や患者数(医療福祉業)という「労災を増加させるが、監督数は労災数を通じてのみ影響するであろう」操作変数を使って、労災数増加による監督数増加という因果を検証。
結果:定期監督を増やすことで労災が減ったという先行研究の結果は再現確認されなかった。操作変数法を使うと、死傷災害数が増えると定期監督数が増える、という効果が肯定された。

「地震保険加入の意思決定に影響を与える要因の分析」須藤智生
問題:政府公表の地域別地震リスクで人々は地震保険に加入するか。実際に被災した経験によって人々は地震保険にもっと加入するのか。
手法:地震保険の世帯加入率、付帯率(都道府県単位)と、政府による地震動予測地図(2014年東日本大震災を受けた改訂など年々の改定がある)を使ったパネルデータ固定効果モデルだと、実際に被災地域で地震保険加入が増えたのかもしれないという結果が得られた。そこで震度6以上の地震(1994‐2020年)を用いて差の差の分析(staggered difference-in-difference)を行った。
結果:地震リスクが高い地域で加入・付帯ともに高くなる相関が確認されたほか、付帯率に関しては実際の被災による地震保険の付帯増が因果効果としてみられた。

(パネルデータ固定効果モデルを使った3グループテーマ)

「なぜファミリー企業を脱却するのか」新井夏実・森あかね
問題:同族企業は非同族企業より収益性や市場価値が高い、という研究は多数あるが、同族企業から非同族化した企業も少なからず存在。優れた経営ができるならなぜ脱ファミリーするのか、脱ファミリー化の後の経営成果は優れたものなのか。
手法:2011年から2022年まで社長か会長に創業家一族がついている上場217社と、2014年から2019年の間に脱ファミリー化した16社を対象としパネルデータ固定効果モデル。
結果:自己資本比率が低いと脱ファミリー化する傾向がある。またトップ経営者の高年齢と脱ファミリー確率にも正の相関がある。脱ファミリー後の経営指標には有意な結果はみられなかった。

「セカンドライフ世代の移住先選択」海老澤彩夏・渋谷莉央
問題:年齢別の都道府県純転入・純転出をみると60歳と65歳に小さいが明確な移動ピークがある。セカンドライフ世代と思われる移住傾向の決定要因は何か。
手法:60歳純転入者数と65歳純転入者数の合計(県単位、2010‐2021年)を被説明変数とし、福祉施設数、医療機関数、公園面積比率など暮らしやすさに関係する指標を説明変数としたパネルデータ固定効果モデル。
結果:福祉施設数が多い地域は純転入が多く、人口密度や地価が高い地域だと少ない。

「地震保険と土砂災害」谷川智哉
問題:地震による土砂災害でも地震保険はカバーするが、土砂災害が多いと地震保険への加入も増えるのか。
手法:都道府県別の土砂災害件数、都道府県別の土砂災害危険度数、を説明変数とし火災保険、地震保険の加入率や付帯率を被説明変数としたパネルデータ固定効果モデル。
結果:土砂災害の件数や危険度数の高さは、地震保険の付帯率に対して正で有意な係数を示した。

(テキスト分析)
「歌詞から価値観の差を推測する計量テキスト分析」飯田光祐
問題:ソロ作詞家とバンド作詞家では、使用する語句の傾向に差があるのではないか。
手法:KHcoderを使ってソロ作詞家6名516曲、バンド作詞家5名490曲の歌詞のテキスト分析。共起ネットワーク作成、用語の登場確率についてカイ二乗検定。
結果:ソロ作詞家は一人で完結する単語が多く、バンド作詞家は他に行動の対象が入っていることが多いように共起ネットワークで観察された。内発的動機に関する語句や、過去・現在・未来に関する言及のうち現在に関する語句はバンド作詞家の方が有意に多かった。ネガティブな感情の使用比率は、ソロ作詞家とバンド作詞家で登場頻度に差がなかった。

以上はすべて3年生です。

4年生で卒論を書いたうちの一人は研究会に参加して発表させていただいたそうです。学会にも出せるアイディアや枠組みの基本までできている人が多いので、在学中に機会が得られたらおすすめしているところ。

以上が年単位の報告で、以下は付け足し感想。

「自分の中にある探究心をとことん誠実に」と、「必要な概念や分析道具は貪欲に吸収しよう」、という両輪を大事にしてもらっています。昨年も書きましたが、片方だけではだめで、両方が必要。

@直接に見えるスキルをつける、何ができるかを資格や点数でも示せるようになる
A誰も予想もしなかった問題を考え、また今でなかった問題や質問への対応について、思索、探求と議論を飽きずに続けられるようになる、それを中間成果物としてまとめる。

外部からスキルだけ訓練で身に着けようとしても、自分の中で本当に意欲がわいてくるものでなければ創造的に使える能力にはなりづらい。といって、自分が何をやりたいかだけ引きこもって考え続けても、道具や過去の蓄積がないと空回りしやすいので、外から持ってくる必要があります。片方が他方のエンジンになって両方が活性化されます。

両方揃う方向がみつかると、自然と熱中して、良い成果が出せるようになります。その過程の初期がとてつもなく大事です。試行錯誤を繰り返して、面白さを一緒に確認すると、その後は本人の推進力に点火します。そして金融や公務や保険や不動産や、とそれぞれの人が進みたい道につながります。

といっても固定パターンはないので、教員がどうアシストすればいいか、も好奇心を共有しながらの試行錯誤になります。また今年も面白いテーマと材料を集めてきている新3年生と一緒に考えています。


この前までの年は、過去ページをご覧下さい。





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Last updated: April 14, 2024