1. 研究の概要
近年のAI手法は目覚しい進歩を遂げ、多くは既に実用化されている。
膨大なデータを予測や判定に用いるわけであるが、背後にはコンピュータの計算能力の飛躍的進歩がある。
本研究は、このような計算手法の有力な一つである機械学習手法の経営における企業分析への適用を推進するために既存の分析手法、特に決定樹木系アルゴリズムの改良とその可視化を行う。
そして回帰等の伝統的な手法の限界の克服のための一助となることを目指す。
経営学では物理の法則のような再現可能な理論はまだ確立されていない。経営学では実地調査などの仮説形成のための帰納法的アプローチと、仮説検証型統計手法が主流である。
それが政策立案、事前的経営努力などの領域で曖昧さを残したままの状況での意思決定や実践を強いることになっている。
本研究は、企業行動構造の分析における、データに裏付けられたより意味のある仮説の形成とその立証を支援する機械学習手法の援用を高めることを目的とする。
代表者:白田由香利(学習院大学経済学部経営学科教授)
研究分担者: 永島正康(立命館大学)、バサビ・チャクラボルティ(岩手県立大学)、山口健二(日本大学経済学部)、吉浦裕(電気通信大学 名誉教授)
研究協力者:森田道也(学習院大学経済学部名誉教授)、村上朱音('20-'21白田研院生)、松橋誠治('22-白田研院生)
2. ここまでの成果報告
本研究の第1の目的は、機械学習における説明変数の重要度の測度の改善を図ることである。データ工学の分野のサーベイからSHAPという測度を知り、企業分析に適応し、その有効性を検証することができた。成果論文も発表した。また、各種の製造業における企業分析を行うことで、我々自身もSHAPの理論を深く理解することができた。また、SHAPによる分析結果を多数可視化したことで、それを教材として回帰分析結果をさらに分かりやすく説明可能となった。2022年2月27日のDEIMチュートリアル「機械学習回帰における Shapley 値の理論説明と事例紹介」で多くの日本若手研究者にSHAPアプローチを広めることができたことで、第1の目的は達成できたと考える。
第2の目的「回帰分析結果を決定樹木構造により可視化」であるが、これに関しては2022年度に多くの描画を行っていく。目標は、通常言われているハイパフォーマンス企業への分類とは異なる意外な分岐経路another approachを発見することである。これを実際の企業データセットを用いて実践していきたい。
第3の目的「実際の経営関連データセットに基づく分析による検証を行う」ことである。世界のトップ製造企業において、売上高成長率、サプライチェーン的要素が株価上昇率及び株価回復率に重要であることを示したことは、十分な成果が出せた、考える。
3. 重要な論文
- Y. Shirota, K. Kuno, and H. Yoshiura: "Time Series Analysis of SHAP Values by Automobile Manufacturers Recovery Rates," in 2022
IC on Deep Learning Technologies(ICDLT2022), ACM
SHAPの変化を時系列分析して、株価回復の重要ファクターは売上成長率であることを示した。回帰及びSHAP分析を、時系列で分析することを提案した
初の論文と言える。発表した求野氏はEXCELLENT ORAL PRESENTATION賞を受賞。(動画を再生する)
- M. Fujimaki, E. Tsujiura, and Y. Shirota: "Automobile Manufacturers Stock Price Recovery Analysis at COVID-19 Outbreak," in 2022
PO&M 2022
The Decisions Sciences Institute (DSI) -sponsored P&OM Nara Best Paper Award受賞
COVID勃発期に株価下落が世界的に自動車製造業で起きたが、そこからのレジリエンスの重要なファクターをSHAP分析により、企業の国別に解析。
顕著な傾向として
株価上昇率が高かったSweeden, Germany, Franceなどでは、他の国に比較して、ROEのSHAP値が高いことが分かった。ROEは投資家の期待を反映する
ので、投資家のEVへの期待が、これらの国の企業の株価を上昇させたと推論した。(動画を再生する)
- K. Yamaguchi, "Intrinsic Meaning of Shapley Values in Regression," in 2020 11th International Conference on Awareness Science and Technology (iCAST), 2020, pp. 1-6: IEEE.
SHAP値を企業分析の回帰に応用した世界初の論文。従来、在庫回転率と収益性の間に正の相関が見られなかったが、在庫回転率のSHAPを用いることで高い相関が得られるようになった。株価暴落直後の回復に重要なファクターとして在庫回転率及び有形固定資産回転率があることを検証した。
- K. Yamaguchi, "Feature Importance Analysis in Global Manufacturing Industry," International Journal of Trade, Economics Finance, vol. 13, no. 2, pp. 28-35, 2022.
SHAPによる回帰分析を世界製造業に適応した論文であり、これにより在庫回転率などのサプライ・チェーン・マネジメントに係る企業スキルが重要ファクターであることを証明できた。
- Y. Shirota, K. Yamaguchi, A. Murakami, and M. Morita, "An analysis of political turmoil effects on stock prices: a case study of US-China trade friction," in Proceedings of the First ACM International Conference on AI in Finance, 2020, pp. 1-7.
金融AI分野のトップカンファレンスの第1回目の予稿集のTOPを飾ることができた。株価が暴落した直後に、自動車製造企業株価をクラスタリング分析すると、企業の国ごとにクラスターをなすという仮説を立て、階層化クラスタリングHRP(Hierarchical Risk Parity)法と特異値分解(SVD)のdual approachで検証した。(動画を再生する)
- 白田由香利, "機械学習回帰における Shapley 値の理論説明と事例紹介," presented at the DEIM2022, オンライン, 2022.
DEIM第14回データ工学と情報マネジメントに関するフォーラムは日本データベース学会等の主催によるデータベース関係者の最大の学会のひとつである。そのチュートリアルでSHAP値について解説した。その動画は、このような学術的解説ビデオとしては、非常に高い再生回数をほこり、これにより日本の若手研究者のSHAPの活用に大きく貢献した。(動画を再生する)
- Y. Shirota, M. Fujimaki, E. Tsujiura, M. Morita, and J. A. D. Machuca, "A SHAP Value-Based Approach to Stock Price Evaluation of Manufacturing Companies," in 2021 4th International Conference on Artificial Intelligence for Industries (AI4I), 2021, pp. 75-78: IEEE.
SHAPによる回帰分析を日本製造業に適応した論文であり、これにより在庫回転率などのサプライ・チェーン・マネジメントに係る企業スキル及び売上高成長率が重要ファクターであることを証明できた。日本企業が安定して株価を成長させた時期のデータを分析している。(動画を再生する)
- 辻浦衣美 and 白田由香利, "Shapley値による株価上昇における重要要素の分析 〜 自動車製造企業のケースについての考察 〜," 信学技報, vol. 121, no. 125 DE2021-1, pp. 1-4, 2021年7月 2021.
- 藤巻美舞 and 白田由香利, "Shapley値による株価上昇における重要要素の分析 〜 電気機器製造企業のケースについての考察 〜," 信学技報, vol. 121, no. 125 DE2021-1, pp. 9-12, 2021年7月 2021.
- 保科慧 and 白田由香利, "Shapley値による株価上昇における重要要素の分析 〜 精密機械製造企業のケースについての考察 〜," 信学技報, vol. 121, no. 125 DE2021-1, pp. 5-8, 2021年7月 2021.
- Y. Shirota and B. Chakraborty, "Amplitude-Based Time Series Data Clustering Method," Gakushuin Economics Papers, vol. 59, no. 2, 2022.
従来の時系列クラスタリング手法では株価成長率の伸びの違いを分析できなかった。これを解決するため同タイトルのクラスタリング手法を考案した。経済のGDP伸び率の比較等広く分野に適応可能。(動画を再生する)
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成果リストおよび全論文リスト