研 究 業 績 一 覧
2002年 4月現在
安部 清哉
注:1、内容は、発表年月によって前後2部にまとめられている。
第1部 p.1−9 昭和58年 4月〜平成9年 3月まで
第2部 p.10−14 平成9年 4月〜現在まで
2、主要業績5点には、前に「〇」印が付されている。
3、安部(2002・4)『日本語の歴史地理的研究』に収載されている約30点の
拙論には前に「v」が付されている。収載論文はこの書の目次に掲載されている。
(研究業績提出に当たっては同内容であるので、この1冊に代え、個々の拙論の
送付を省略している。)
4、辞典等における項目執筆の場合はその個々の担当部分を省略している。
2002年 4月 25日
安部 清哉
主要業績(著書・論文)5点の要旨(各400字以内)
@[東アジアの言語・コミュニケーションに関係するもの]
安部(2000)『日本語の歴史地理的研究』私家版
(1999年まで発表してきた日本語方言分布の形成過程に関する拙論を、講義用・手直
し用として冊子にしたもの)
日本語の方言分布は多様であるが、文献資料による文献国語史と、方言地理学による方
言国語史とを対照する方法によって、地理的時間的に中央語の伝播を明らかにし、日本列
島全域を視野に入れた日本語の変遷の全体像を明らかにしていくことができることを示し
たものである。
日本語の文化的中央(畿内)からの言葉の伝播拡大には、時代と各地域におけるコミュ
ニテイの発達に連動したいくつかの段階がある。それらの段階毎に、方言区画を形成する
方言境界線群が新しく複数指摘でき、それは、各時代の気候や地形及びその影響を受けた
コミュニテイの形成と深く関わっている。また、その間の外来語・外来文化の影響の受容
・定着範囲は、コミュニケーションの盛んだった範囲によって時代毎に異なるため、新語
形や外来語の分布範囲は、時代毎に各々異なることになったと考える。
◆@関連論文
安部清哉(2000)「日本語史研究の一視点−−方言国語史の視点から−−」(『国
語論究8 国語史の新視点』、pp1〜38、11月、明治書院)
安部清哉(2000)「方言国語史の視点」『国語学』51−3、12月
安部清哉(2001)「国語の歴史にとって100年という時間」『日本語学』20−1、
1月号、平成13・1、pp6〜18、明治書院)
A[モンスーン・アジアの言語文化コミュニケーションに関係するもの−−科学研究費成果]
安部(2001・11)「東アジア(日本語・韓国語・中国語)の河川地形名の偏在と方
言分布・気候との相関 配布地図・補論」『玉藻』37
アジア(モンスーン・アジア)の河川地形名には、それぞれに特徴的な分布範囲が見ら
れることを指摘し、それが、方言境界線や他の文化的特徴の境界線とも重なることを明ら
かにする。また、それらの背景として気候と地形を指摘し、それが言語と地域文化の形成
に影響したと見る。
最も広域に分布する河川地形名*nahdiによって、インドから沿海州に及ぶ「モンスーン
・アジア」という気候圏を見出し、そこに言語特徴(類別詞)、降水量、栽培主食作物
(芋)、食物保存技術(麹発酵酒)、動物区画(東洋区)、大型哺乳類(虎)などの文化
的特徴が共通することを、おそらく世界で初めて指摘する。それによって、アジアで最も
広域の「モンスーン・アジア」文化圏が存在すること主張し、少なくともアジアでは、気
候が言語と文化の形成に極めて大きな影響力をもっていたとする。
◆A関連論文
安部清哉(2002)「方言地理学から見た日本語の成立−−第3の言語史モデル理論と
しての“Stratification Model”−−」『グロータース神父記念論集 言地理学の
課題』明治書院、pp.236−250
安部清哉(2002)「日本語訳 韓国方言学会編『国語方言学』第1章」『フェリス女
学院大学文学部紀要』37、pp.16−68、3月
安部清哉(2001)「東アジア(日本語・韓国語・中国語)の河川地形名の偏在と方
言分布・気候との相関」『韓國日本學會(KAJA)第63回學術大會Proceedings』
pp.81−84
B[言語類型地理論的視点からのreduplicationの研究−−共同研究費成果]
安部清哉(1997)「古代日本語の動詞重複形(reduplication)二種の語法と方言分
布及びその言語類型地理論的問題」(加藤正信編『日本語の歴史地理構造』、平成9・
7、明治書院、61〜71頁)
「泣く泣く」「人々」のように、語の一部または全体を反復させる言語現象である重複
法(reduplication)は、擬声語・擬態語や「幼児語」や韻文では人類言語にほぼ普遍的
に認められるものの、造語法として文法的に機能している言語は、世界諸言語上、地域的
に限定されている。また、擬声語・擬態語での使用を見ても、その機能においても言語ご
とに大きな相違が認められる。この重複法は、世界諸言語を見る上で言語類型地理論的な
研究テーマであることを新たに指摘し、その研究課題を挙げる(安部1997・10)に続く)。
日本語の動詞の終止形重複形と連用形重複形のおける地域差と時代差、本質的機能の相
違を新たに明かにし、それが日本語の発達過程や助詞の発達とも関わることを指摘する。
さらに、安部(1997・10)では、近隣言語での特徴と比較しつつ、口語的性質や文字、書記
言語の発達とも関係している可能性を指摘して、重複法の研究の課題を述べる。
◆B関連論文
安部清哉(1997)「動作の併行表現の歴史−−上代 動詞終止形重複形・動詞連用形
重複形−−」(論集刊行会『渡辺実博士古稀記念論集 日本語文法−−体系と方法』、
ひつじ書房、平成9・10、133〜152頁)
澤登春仁・安部清哉・武井博美「19世紀欧州言語学のreduplication(重複形)に対する
言語学的解釈−−『英語重複語辞典』(1866)序文の翻訳−−」(『フェリス女学院
大学文学部紀要』34、平成11・3)
C[計量国語学的手法を応用した日本語学の資料年代研究−−科学研究費成果]
安部(1996・3)「語彙・語法史から見る資料−−『篁物語』の成立時期をめぐりて
−−」『国語学』184
日本語語彙の計量国語学的分析を、資料研究と語彙史研究に応用する方法を開発するこ
とを目的とする。成立年代に未だ定説がない『篁物語』の語彙・語法を中古語中世語の中
で検討すると、その語彙量に比して中古前半の十世紀後半前後に偏る。検討の結果、その
偏りは、作者の国語を投影している蓋然性が最も高いと解釈され、一方、中古末期以降の
語も若干散見する。総合的に、主要部分が原『篁物語』として900年代後半に成立し、
一方、現存『篁物語』には中古末期以降の何らかの手が入っていることが考慮され、その
時代的重層性が語彙語法の偏りと内容的混質となっていると考えられる。また、中古の形
容詞延べ語数を上代語・中古語の比率から分析すると、中古前期後期で段階的相違があり
、『篁物語』の形容詞の位置は語彙での時代的偏りと一致する。中古仮名書き散文資料に
おいては、形容詞語彙の量的構造と資料の成立年代とに相関性が認められることになる。
◆C関連論文
安部清哉(2001)『日本語形容詞語彙年表作成とその資料・語彙分析における活用法
に関する基礎的研究』(平成10〜12年度科学研究費(基盤研究(C)(2)、課題番号10
610414、代表者・安部)研究成果報告書、平成13年4月5日、pp.1-86,私家版)
安部(1998)「『土佐日記』の形容詞語彙の特徴−−平均使用度数と語の新旧の比較
から−−」『日本語研究法[古代篇]』
D[意味論関係論文]
安部清哉(1986)「類義語の使い分けから併合まで−−動詞ナム・ナラブを例として
−−」『国語学』144、昭和61・3、p.15−30
意味研究は、ある部分で人間の認知や文化の研究でもある。特に複数の類義語が意味的
に併合されていく過程、また反対に、意味が分化して複数の類義語で表される過程を明か
にすることで、人間の認知が変化改心するメカニズムを解明することも可能になる。
意味の分析方法でも構造主義的方法でもある「意義素」分析から、語彙の使い分けの構
造的変化を明らかにする手法をとり、ナム・ナラブを例に、類義語が使い分けを失って1
語に統合されていく過程を明らかにする。そこでは、外界把握において古代語での「2つ」
(ナラブ)」と「(3以上の)複数」(ナム)とを区別する段階から、そのような古代的
区別を失って単なる「(2つ以上だけの)複数」(ナラブ)だけによる近代的把握への変
化を見出すことができる。同様の類義語の使い分けとして、2つをわける「ワク(下二段)」
と3つ以上の複数とを分ける「ワカツ(四段)」との類似を指摘し類型化する。
◆D関連論文
安部清哉(1985)「温度形容語彙の歴史−−意味構造から見た語彙史の試み−−」
『文芸研究』108、昭和60・1、p.39−51
安部清哉(2000)「比較語彙研究の諸相と広がり」田島毓堂編『比較語彙研究の試み
6−−国際シンポジウム比較語彙研究U−−』、pp155〜164、名古屋大学大学院国際
開発研究科、平成12・12・16)
安部清哉(2000)「和漢混淆の史的変遷における語の『意味負担領域』−−「とし」
「スミヤカ」「早し」の場合−−」(遠藤好英編『語から文章へ』、pp1〜15、平成
12・8、明治書院)
同 (2002予定)「『源氏物語』ほか平安和文資料における「とし」「スミヤカ」
「早し」−−意味負担領域から見る和漢混淆史−−」(三田村雅子編『『源氏物語』
の魅力を探る』翰林書房)
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