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2014/08/04
出題者: 学習院大学 高橋

Quiz #08

解けるまでに 360 年もかかった、フェルマーの最終定理 (フェルマー・ワイルズの定理) という有名な定理があります。それは、

3 以上の自然数 n について、xn+yn=zn となる 0 でない自然数 (x,y,z) の組が存在しない

というものです。

これを行列バージョンに拡張して考えよう、という記事がありましたので、問題風にアレンジして紹介します。面白いので、ぜひフォローしてみてください。一年生は行列 (線形代数) を後期から習うのでちょうどいいですね (逆行列等習っていないかもしれないので、その場合は習うまでのお楽しみ。または自主勉強!)。

問題の出典元は、
東京出版の「大学への数学」 1999 年 10 月号、数学ていだん、矢ヶ部巌
です。数学鼎談には面白い記事がたくさんあって関心します。

問題

零行列でない 2×2 の正方行列 A,B,C について、フェルマー・ワイルズの定理と同様の式 (以下、F 式と呼ぶ) An+Bn=Cn を満たす (A,B,C) が存在するか調べよ。

以下いつものように step by step で小問を解きながら進みます。

問題 1

実は任意の n で成り立つ例がすぐに見つかる。以下の行列の n 乗を計算し、それをヒントに、F 式を成り立たせる行列の組を見つけよ。 (1000),(0001).

この安直な解を排除するために、以下では、行列および、その逆行列の成分が全て整数のものについて F 式を考えることにする。

問題 2

逆行列が整数となる条件は何か求めよ。(ヒント: 余因子行列を用いて逆行列を書いてみるとよい。) この条件を満たす行列を用いて F 式が成り立つ行列の組があるかどうか見ていこう。

問題 3

ここからは、問題を分岐して考えていく。まずは、n が奇数のときを考えよう。2 乗して単位行列になる A,B,C を考えると、 A2m+1=A,B2m+1=B,C2m+1=C,(m=1,2,) なので、同時に A+B=C となる A,B,C が見つかれば奇数次の F 式は全て満たされることになる。

2 乗して単位行列になる行列の、成分に関する制限を示せ。

問題 4

これまでの結果より、奇数次のときに F 式を成立させる行列 A,B,C の組を求めよ。(ヒント: 問題 2 および 3 の条件を考慮して具体的にいくつか書き出して、A+B=C となる A,B,C を探す。)

問題 5

奇数次の場合は存在が示されたので、偶数次の場合を考えていく。 まず、 M2=M となる M は単位行列しか無いことを示し、奇数次のときに用いた方法ではうまくいかないことを確かめよ。

問題 6

次に奇数次のときの解を一つ見ると、

(0110)n+(1101)n=(1011)n ただし、n は奇数。

まず、P:=(0110)P1=P であり、また、任意の行列について、左から掛ければ行を入れ替え、右から掛ければ列を入れ替える演算子であることを確かめよ。 そして、n=1 の場合を考えて、以下の式を得よ。 E=(0111)(1110). ただし、E は単位行列である。

問題 7

次に、 (0111)(1110)=(1110)(0111)=E を確かめよ。

問題 8

問題 6 の両辺を 2 乗して、 E=(0111)2+(1110)2 を得よ。

問題 9

2 乗して E となる行列 Z を求めよ。 これで、2 次の場合の解が得られた。

次は偶数次の高次の場合を考えていく。

問題 10

2 次の場合の解から高次の偶数次の解が無いか調べよう。 前問の解を見通しが良いように、 X2+Y2=Z2 とおこう。ここで、X,Y,Z

X=(0111),Y=(1110),Z=(0110). ただし、E を作る行列は他に Z=(0110) がある。こちらで読み進めても良い。

これら X,Y,Z をそれぞれ偶数乗してその性質を調べ、次の表を埋めよ (できるだけ 2 乗の形で表すと見通しが良い)。今後のために n=2m とする m を導入する。

m n X Y Z F 式
1 2 X2 Y2 Z2 満たす
2 4
3 6
4 8
5 10
6 12
7 14

問題 11

αn=α2m(α=X,Y,Z) の周期性より、前問で解がある場合と無い場合の n または m の条件を求めよ。

問題 12

解が求まらなかった場合の n または、m について考えていこう。

やみくもに解を探しても、解が無い可能性があるので、ここで視点を変える。 対角成分の和であるトレース Tr[A]=2k=1ak,k=a1,1+a2,2 の性質に着目する。

Xn+Yn=Zn が成り立っているとすると、両辺のトレースも等しいはずなので、 Tr[Xn+Yn]=Tr[Zn].

左辺について考えるために、任意の行列 A,B について、 Tr[A+B]=Tr[A]+Tr[B] を示せ。 よって、 Tr[Xn]+Tr[Yn]=Tr[Zn] が成り立たなければならない。

問題 13

以上をふまえて、n=4 の場合を考えていく。 4 乗は 2 乗の 2 乗なので、まずは 2 乗について考えていく。 Tr[A2]=Tr[A]22det[A] を導け。ここで、2×2 行列の行列式 det[A]=a1,1a2,2a1,2a2,1 を用いた。

問題 14

前問の結果を用いて、 Tr[A4]=Tr[A]44Tr[A]2det[A]+2det[A]2 を導け。

ここで、問題 2 の結果より、det[A]=±1 という制限があるので、上の式は、 Tr[A4]=Tr[A]4±4Tr[A]+2 となり、A はこの式を満たさなければならない。

次回以降は、F 式のトレースに関する制限と、上記各行列のトレースに関する制限を同時に満たす行列があるかどうか見ていく。

問題 15

Tr[A] を偶数と奇数に分けて考えよう。
Tr[A] が偶数のとき Tr[A4]=(8の倍数)+2 となることを示せ。
同様に Tr[A] が奇数のとき Tr[A4]=(8の倍数)+7 となることを示せ。
(ヒント: 奇数の方は、4=8+4=(8の倍数)+4 と考える。)

問題 16

元に戻って、 Tr[X4]+Tr[Y4]=Tr[Z4] を満たす X,Y,Z があるか考える。
両辺を 8 で割って、余りを比べ、解が無いことを説明せよ。
(ヒント: 左辺と右辺が取りうる余りを書き出して比較する。)
以上より、n=4 のとき、F 式に解が無いことが分かった。よって、当然 n4 の倍数のときにも解は無い。

問題 17

問題 11 の答えをおさらいすると、

n が偶数で、4 の倍数または 6 の倍数でないときは解がある。 そして、それ以外のときは解があるかどうか不明。
よって、次は n=6 について考える。

n=4 のときと同様に考える。まずは、 Tr[A3]=Tr[A]33det[A]Tr[A] を導け。
そして、これを用いて、 Tr[A6]=Tr[A]66det[A]Tr[A]4+9det[A]2Tr[A]22det[A]3 を得よ。
よって、det[A]=±1 を考えて、 Tr[A6]=Tr[A]6±6Tr[A]4+9Tr[A]2±2 を得よ。

問題 18

Tr[A] が偶数のとき、 Tr[A6]=(4の倍数)+2, および、Tr[A] が奇数のとき、 Tr[A6]=(4の倍数)+1 となることを示せ。

問題 19

よって、元の式について、n=6 のとき、両辺を 4 で割って余りを比較すると、解が無いことを説明せよ。 これより、n6 の倍数のときには解が無いことが示せ、全ての場合について結論が得られた。

問題 20

全問題を通しての結論をまとめよ。

零行列でない、かつ逆行列が存在しその成分が整数となる 2×2 の正方行列 A,B,C について、 An+Bn=Cn を満たす (A,B,C) は、
n が奇数のとき、 A=(0110),B=(1101),C=(1011) として得られる。
n が偶数で、4 の倍数でも 6 の倍数でもないとき、 A=(0111),B=(1110),C=(0110) として得られる。
一方で、n4 の倍数、もしくは 6 の倍数の場合は解が無い。