「現代物理学」2010年度

エントロピーをめぐって

レポートの表紙(pdf ファイル)
エントロピーはときとして自然科学の中でもっとも難解でつかみ所のない概念と言われる。確かにエントロピーの意味を正確に理解するのは難しい。しかし、エントロピーは様々な場面で重要な役割を果たす本質的な概念であり、物理的にも数理的にも深い意義をもっている。

現代の物理学や関連分野を見渡すと、熱力学、統計力学、量子論はもとより、確率論での大偏差原理や、情報理論にまでエントロピーが登場する。これら様々な分野でのエントロピーの定義は正確に同一ではないが、もちろん、深く関係し合っている。

この講義では、異なった分野でのエントロピーの定義と意味を解説し、さらに、それら相互の関連を明らかにすることを目指す。うまくいけば、エントロピーを軸にして、熱力学、統計力学、確率論、情報理論という広範な分野を概観できるだろう。

新しい物理的概念や数学的道具は丁寧に解説する予定だが、それでも、一年生にはやや敷居の高い講義になるだろう。さらに、この講義では、必修の物理や数学に飽きたらず、それらを越えて物理学(や関連する分野)を学びたい学生さんを想定していることを強調しておきたい。講義の内容を含むような教科書や参考書は(おそらく)存在しないので、しっかりと出席して学習する必要がある。レポート問題も自分で理解してしっかりと考えなければ解けないはずだ(そもそも大学で「調べれば解ける」ようなレポートを出題することが問題なのだが)。

単に「レポートだけで単位が取れる」というつもりで履修すると後で後悔する可能性がきわめて高いことを注意しておきた(実際、昨年度も「ひどい目にあった」という率直な感想を書いてくれた学生さんもいた)。

また、この講義ではレポートだけで評価を行なうので、いわゆるレポートの「丸写し」については厳しく対応したい。「丸写し」を行なうことはもちろんだが、その原因を作る行為(たとえば、解答を配布したり、ネット上に公開すること)にも同様に対応する。


はじめは、物理とはほとんど無関係な、情報理論からはじめよう。「デジタル情報をどこまで圧縮できるか」の限界がエントロピーで定まることを明らかにするシャノンの定理をしっかりと解説する。

次に、一気に対極にとんで、熱力学でのエントロピーをみよう。これこそが、エントロピー発祥の地である。これら両極端のエントロピーの関連を見いだすことが、そこから先の目標になる。どこまで到達できるかは実際に講義をしてみないとわからない。


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田崎晴明
学習院大学理学部物理学教室
田崎晴明ホームページ

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