S セメスター(夏学期)月曜日 5 時限(16:50 〜 18:35) 駒場キャンパス 723 教室
(開講日:4/11, 4/18, 4/25/, 5/2, 5/9, 5/23, 5/30, 6/6, 6/13, 6/20, 6/27/ 7/4, 7/11)
レポートの表紙(pdf ファイル)
小さな要素がたくさん集まると、多くの場合には、全体が「ならされて」平均的な性質だけが見えてくる。 これは、さほど面白いことではないと感じるかもしれないが、そういうときにも、平均の性質からの微妙な「ずれ」に着目することで、無数の要素からなる系に特有の新しい法則が浮かび上がってくる。 このような「ずれ」の法則性を突き詰めて行くと、確率論での中心極限定理や大偏差原理、そして、熱統計力学でのエントロピーの概念や変分原理にもつながっていくのである。
とはいえ、なんといっても面白いのは、小さな要素が無数に集まって相互作用することで、個々の要素の性質とは本質的に異なる顕著な構造を生み出すような現象だ。 その最良の例は、有機分子が数多く集まった生物が、個々の分子とはまったく異質の複雑で豊かなふるまいをすることだろう。ただ、この魅力的な問題は今のところ(人類にとって)あまりに難しい。 水と氷の間の転移に代表される相転移現象、そして、ある種の相転移に伴って生じる「対称性の自発的破れ」は、やはり無数の小さな要素の相互作用が本質になる物理現象である。 これらもとうてい易しいとは言えないが、今日までに、熱力学や統計力学の文脈でかなりよく理解されている。 さらに、通常の熱統計力学を離れて非平衡の世界でも、類似の相転移現象が生じることが知られている。
この講義では、上で述べたような「小さな要素がたくさん集まった系」が示す法則性や魅力的な現象の一端を、理科系の学部一年生に理解できるように解説することを目指す。 と言っても、単なる「お話」にするつもりはなく、論理的・数理的にしっかりと筋の通った講義にしたい。 確率論、統計力学などの知識を必要とする場面もあるだろうが、標準的な理科系の一年生が学んでいない内容は講義の中で解説するつもりである。
なお、『現代物理学』は 2002 年度から田崎が担当しているが、田崎の担当は今年度が最後になる。
さらに、この講義では、必修の物理や数学に飽きたらず、それらを越えて物理学(や関連する分野)を学びたい学生を想定していることを強調しておきたい。講義の内容を含むような教科書や参考書は(おそらく)存在しないので、しっかりと出席して学習する必要がある。レポート問題も自分で理解してしっかりと考えなければ解けないはずだ(そもそも大学で「調べれば解ける」ようなレポートを出題することが問題なのだが)。
また、この講義ではレポートだけで評価を行なうので、いわゆるレポートの「丸写し」には厳しく対応する。「丸写し」を行なうことはもちろんだが、その原因を作る行為(たとえば、解答を配布したり、ネットに公開すること)にも同様に対応する。