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公開 2024 年 8 月 17 日 / 更新日 2024 年 8 月 27 日
拙著『統計力学 I, II』を上梓してから 15 年以上が経ちました。 光栄なことに、今日でも多くの人が本書で統計力学を学んでくれています。 著者としてこれほど嬉しいことはありません。心から感謝いたします。
15 年を経た今日から見ても、本書の内容に大きな不満はありません。取り上げた基礎理論や応用例はいずれも普遍的な重要性を持ったものばかりだったので、この程度の年月では色褪せないということなのでしょう。 ただ、統計力学の基礎を論じた 4.1 節だけは、手直しできればとしばらく前から思っていました。
ご存知のように、本書の 4.1 節では「平衡状態の典型性」を軸に統計力学の形式を導入しています。これは、執筆当時としては、かなり(というのは謙遜で、極めて)先駆的なことでした。 とはいえ、その後、平衡状態の典型性や平衡状態への緩和の問題を、研究テーマの一つとして考えていくうちに、私自身の理解も進み、また、人に伝えるためにどう議論を進めるべきかについての考えも熟してきました。 関連する問題の研究がこの15年で大きく進展したことも踏まえて、中心的な概念を整理し直し、最も理解しやすい形で統計力学の基礎を論じたいと考えたわけです。
また、これまでのバージョンでは「エルゴード性が統計力学の基礎を与える」という、かつては主流だった考えへの批判にも、かなりの紙幅を割いていました。15 年以上が経過し、(幸いなことに、そして予想していなかったことに)このような批判はすでに役割を終えたと思われます。今日では、むしろ、エルゴード性のアイディアを活かしてどのように平衡状態が特徴付けられるかという議論や、深く関連する量子系での ETH(エネルギー固有状態熱平衡仮説)を紹介する方が有意義だろうと考えました。
このような構想のもと、たった 20 ページ程度の一節の書き換えでしたが、かなりの時間を割いて 4.1 節の新しいバージョンを作りました。 そして、いつものことですが、書き上げた草稿を多くの専門家に見てもらい、数多くの貴重なコメントをもらい、さらに改良したのが以下の草稿です。
将来的には、本書の 4.1 節をこのバージョン(をさらに必要に応じて手直ししたもの)に差し替えてもらうつもりです。まずは、本書をお持ちのみなさんにお読みいただければと考えています。まだ改良の余地はあるかもしれません。タイポ、あるいは不明瞭な記述など、お気づきのことをお知らせいただければ幸いです。