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熱力学 — 現代的な視点から
更新日 2010 年 3 月 1 日
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新しい構想にもとづく現代的な熱力学のテキスト・参考書。
熱力学をできるかぎり見通しよくかつ論理的に理解することを目指し、
伝統的な方法とは異なるアプローチをとる。
マクロな仕事を主役にする操作的な視点から熱力学全体をとらえ、
等温での操作(第二法則)と断熱下での操作(第一法則)をそれぞれ議論したあと、
両者を統一する枠組みをさがすことで、自然に熱力学の全体像に到達する。
理解が困難といわれるエントロピーについても、
「エントロピー原理」を中心に
明解で生き生きとした位置づけを行なっている。
初学者はもとより、
すでに熱力学を学んだ読者にも深い理解が得られる最適な書である。
(カバー裏の紹介文より)
熱力学とはこれほど美しい体系であったか?
熱力学を初めて勉強して、結局何だったかのか分からなかったという感想を持つ学生は多いと思われる(少なくともレビューアーはそうであった)。そんな学生に対して、この本はまさに「福音書」である。熱力学関係の本を数多買いあさった読者にとって、きっと本書は本棚の中で特別な位置を占めることになるであろう。
分かりやすいといっても、厳密性を損ねて気分を伝授し分かったようなつもりにならせる類書とは全く異なっている。斬新な構成ながら、熱力学の体系を論理的に構築していくために、読者は「なにかごまかされているのではないか」という感じを持たずに、道に迷うことなく最短ルートで頂上まで辿り着ける。さらに厳密な定式化を望む読者のために附録で技術的な細かい点までフォローされていることも見逃せない。
内容はきわめて斬新で、まずヘルムホルツの自由エネルギーと内部エネルギーに関する徹底した議論を通して、熱力学の枠組みを理解させる。ついでそこから自然にエントロピーを導出し、それから本書の大きな柱の1つである熱力学関数の凸性とLegendre変換を用いて数々の熱力学関係式を導出している。最後の章で扱われている相転移のLandau理論やスケーリング則の解説は、熱力学を理解した(つもりで)現在統計物理学を勉強している読者にも有用であるに違いない。
(アマゾンでの書評より)
田崎晴明「熱力学 — 現代的な視点から」
培風館、新物理学シリーズ 32
定価:3500 円
2000 年 4 月 12 日発行
アマゾンのページへ
二年間以上準備して 2000 年 4 月に出版した熱力学の教科書です。
おかげさまで好評で多くの方に読んでいただいています。
以下に、この本の内容を簡単に紹介します。
(この本の草稿の「熱力学入門」についての古いページも記録のため残してあります。)
基本的な特徴
-
熱力学という体系を、もっとも見通しよく、論理的に提示することを
目指した新しい構想に基づく熱力学の教科書。
-
熱力学についてかんがえるとき、われわれのもつべき視点を明確にすることを努めた。
-
従来の熱力学の教科書に多いハンドブック的なスタイルをとらず、
電磁気学や力学の教科書と同じ程度の首尾一貫性と論理性を持たせた。
-
かなり分量が多いが、半期の講義では、7章までをカバーすれば、
基礎的な応用を含めて、話が完結するようになっている。
これなら、かなり余裕をもって講義することができる。
エントロピーの本質的な意味も含めた熱力学の体系を完全に講義することを思うと、
この本に添ったやり方は、かなり能率がよいと信じている。
この本での熱力学へのアプローチ
-
「熱」はわれわれには直接に観察・制御できる対象ではない。
様々な「目に見える」現象の背後で暗躍する「黒幕」である。
相手が「黒幕」なら、
真正面から向き合う(向き合ったつもりになる)
のは、得策ではない。
「黒幕」の周囲の「目に見える部分」、つまり、
力学的な「仕事」に着目し、そのふるまいを通じて「黒幕」=「熱」
の本性にせまる --- という立場をとる。
-
よって、無定義概念としての「熱」を導入して、
「熱」を様々に操作することは、しない。
-
熱力学を構築していく部分の、
大まかな論理構成は、次のようになっている。
(論理性を保ちながら、熱力学を構築し、
エントロピーに至る最も能率的な道の一つだろうと思っている。
なお、他の本で学んだ学生が戸惑わないように、
他の本の流儀との関連にも、いくつかの脚注で注意した。)
-
等温環境での系への仕事に着目し、
そこから最大仕事の原理(熱力学の第二法則)を通じて、
Helmoholtz の自由エネルギー F を定義する。
-
次に断熱された系への仕事に着目し、
そこからエネルギー保存則(熱力学の第一法則)を通じて、
エネルギー U を定義する。
-
上の二種類の仕事が一致しないこと、つまり、
F と U が一致しないことが、
熱力学的な系の特徴といえる。
両者の差から、最大吸熱量を定義する。
-
最大吸熱量は、Carnot の定理を満たす。
-
Carnot の定理を吟味すると、F と U の差としての
エントロピー S が自然に定義できる。
-
エントロピーと断熱操作の可逆性・不可逆性の関連を、一般的に議論する
-
いくつかの応用を、
Helmoholtz の自由エネルギーと Gibbs の自由エネルギーを
主体にした現代的なスタイルで解説する。
-
Gibbs の自由エネルギーの導入は、
凸関数の Legendre 変換の立場から、じっくりと、初等的に解説した。
(Legendre 変換は、決してやさしい概念ではないのに、
多くの教科書が、詳しい説明もなく、一、二行で定義して足早に過ぎ去っているのは、
腑に落ちない。)
より詳しい知識を求める読者(たとえば、理論物理学や数学を志す学生)
に応えるため、
付録では関連する数学の解説も行なった。
-
化学への応用も、かなり詳しく書いた。
化学の世界では標準的な活量を用いた記述を採用している。
目次
この本の構成の概念図(GIF picture)
- 1章
- 熱力学とはなにか
- 1.1
- 気体の熱力学から普遍的な熱力学へ
- 1.2
- 熱力学と普遍性
- 1.3
- この本の内容について
- 1.4
- 数学についての約束
- 2章
- 平衡状態の記述
- 2.1
- 熱力学的な系の示量変数
- 2.2
- 熱力学の視点
- 2.3
- 操作について
- 2.4
- 等温環境での平衡状態
- 2.5
- 断熱された系の平衡状態
- 3章
- 等温操作と Helmholtz の自由エネルギー
- 3.1
- 等温操作
- 3.2
- Kelvin の原理
- 3.3
- 力学におけるポテンシャルエネルギー
- 3.4
- 二つのブラックボックス
- 3.5
- 最大仕事
- 3.6
- Helmholtz の自由エネルギー
- 3.7
- 圧力と状態方程式
- 4章
- 断熱操作とエネルギー
- 4.1
- 断熱操作
- 4.2
- エネルギー保存則と断熱仕事
- 4.3
- エネルギー
- 4.4
- 理想気体
- 4.5
- 環境との熱のやりとり
- 5章
- Carnot の定理
- 5.1
- 最大吸熱量の比の普遍性
- 5.2
- Carnot サイクル
- 5.3
- Carnot の定理の証明
- 5.4
- 熱機関と効率の上限
- 6章
- エントロピー
- 6.1
- エントロピーの導入
- 6.2
- エントロピーと可逆性、不可逆性
- 6.3
- いくつかの例
- 6.4
- エントロピーと熱
- 6.5
- エントロピー増大則
- 6.6
- 複合状態のエントロピーとエントロピー原理
- 7章
- Helmholtz の自由エネルギーと変分原理
- 7.1
- Helmholtz の自由エネルギーの微分
- 7.2
- 微分形式による表現
- 7.3
- Maxwell の関係式と簡単な応用
- 7.4
- 変分原理と変化の向き
- 7.5
- つり合いの条件
- 7.6
- 相転移と相の共存
- 7.7
- 相図と Clapeyron の関係
- 8章
- Gibbs の自由エネルギー
- 8.1
- Gibbs の自由エネルギーの導入
- 8.2
- Gibbs の自由エネルギーの微分といくつかの関係式
- 8.3
- 定圧熱容量
- 8.4
- Gibbs の自由エネルギーの性質
- 9章
- 多成分の流体の熱力学
- 9.1
- 多成分系の Helmholtz の自由エネルギー
- 9.2
- 多成分系の Gibbs の自由エネルギー
- 9.3
- 浸透圧
- 9.4
- Henry の法則
- 9.5
- 希薄溶液における沸点上昇
- 9.6
- 化学反応における平衡
- 9.7
- Nernst-Planck の仮説
- 9.8
- 水溶液中の化学平衡
- 9.9
- 濃淡電池の熱力学
- 10章
- 強磁性体の熱力学
- 10.1
- 強磁性体の扱い
- 10.2
- 相転移と臨界現象
- 10.3
- Landau の擬似自由エネルギー
- 10.4
- スケーリング仮説
- A
- Carnot の定理の完全な導出
- A.1
- 簡単な場合
- A.2
- 一般の場合
- B
- エントロピーの一意性
- C
- 「熱浴」と温度一定の環境
- C.1
- 熱浴の構成
- C.2
- 吸熱量の測定
- C.3
- 等温操作の「可逆性」
- D
- 熱機関の効率の上限
- E
- 三重点について
- F
- 完全な熱力学関数のまとめ
- G
- 凸関数
- G.1
- 凸関数の定義と基本的な性質
- G.2
- 多変数の凸関数
- G.3
- 証明
- H
- Legendre 変換
- H.1
- Legendre 変換の定義
- H.2
- 逆変換
- H.3
- Legendre 変換の例
- H.4
- 証明
言うまでもないことかもしれませんが、私の書いたページの内容に興味を持って下さった方がご自分のページから私のページのいずれかへリンクして下さる際には、特に私にお断りいただく必要はありません。
田崎晴明
学習院大学理学部物理学教室
田崎晴明ホームページ
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