東アジア言語研究・言語教育プログラム
招聘研究者

扎西才譲 / za_xi_cai_rang

経歴
1991 年青海民族学院 チベット言語文学部 卒業
2005 年学習院大学大学院 人文科学研究科 日本語日本文学 修士修了
2008 年学習院大学大学院 人文科学研究科 日本語日本文学専攻
博士課程単位取得 満期退学
2006 年~青海民族大学 外国語学院 日本語学部 副教授

研究テーマ
日本語とアムド・チベット語の使役表現における
有情物主語の否定的使役

2009年9月に提出させていただいた学位申請論文
『日本語とアムド・チベット語の使役表現』では日本語の「-aseru/saseru」が付く使役表現と
アムド・チベット語の「keu jeug」およびその異形態が付く使役表現の対照研究を試みた。

この論文では主に両言語の使役表現の形態的・統語的・意味的な特徴における
共通点と相違点を探った。

両言語の使役表現全体を直接関与型間接関与型非関与型という三つのタイプに分け、
それぞれのタイプの使役表現を、話し手が「被使役者の心境」を前面化して捉える場合と
「被使役者の心境」も視野に入れながら、
「使役者の心境」を前面化して捉える場合などを基準に
語用論的な意味を分類して論じたのは初めての試みである。

また、同じ方法でアムド・チベットの使役表現の語用論的な意味を分類しながら、
両言語の三つタイプの使役表現における共通点と相違点を体系的に論じようと試みた。

しかし、この論文では有情物が主語となる場合の使役表現のみを研究対象としており、
中でも有情物が主語となる使役表現の中でも主に平叙文を取り扱っており、
否定的使役表現までの記述はできていない。

本プロジェクトでは、主に博士論文では取り扱うことのできなかった有情物が
主語となる否定的使役表現に対して研究を行う。


否定的使役表現の場合、基本的に被使役者が動作や変化を引き起こしているのを
使役者が阻止するという<阻止>という意味を表すが、
被使役者が先に何かを引き起こそうとしているのを
使役者が後からある行動に出てそれを阻止することになるため、
否定的使役表現を本稿で言う三つのタイプで分けると「間接関与型」的なタイプに属する。

この間接関与型的な否定文は、意味として<阻止>という基本的な意味を表し、
その基本的な意味を話が手が「使役者の心境」を前面化することによって
<善意的阻止><悪意的阻止><不本意の阻止>などの語用論的な意味を
表すようになると思われるが、詳細な記述は今度の課題とする。

こうした有情物が主語となる否定的使役表現の対照研究を完了させ、
博士論文と一緒に刊行することも今度訪問の目的の一つである。