学位論文公聴会

五十嵐慎一君の学位論文公聴会が無事終了いたしました.

論文題目 金属単結晶表面上の希ガス物理吸着層の成長過程と構造変化
日時   2000年1月17日 15:00-16:50
場所 学習院大学南1号館2階 理学部会議室


論文要旨

金属単結晶表面上の希ガス物理吸着層の成長過程と構造変化

Layering Growth and Structure of Rare Gas Films Physisorbed on the Surface of a Metal Single Crystal

学習院大学理学部 五十嵐慎一

原子的に均一かつ平坦な表面上に物理吸着した気体分子の系は擬二次元的に振る舞い、バルクとは異なる性質を示す。吸着量が増えていくと、二次元の吸着層はやがて、バルクとみなせる十分に厚い膜へと成長する。その成長過程において、二次元相の熱的性質、光学的性質、幾何学的構造などを表す様々な物理量は、それぞれ異なった行程を経てバルクの値に達する。二層、三層と層が形成されていくなかで、層の表面内の原子間隔がどのように変化しながらバルクの原子間隔になるのかということに我々の興味はある。

 Chesterら1)は、77 KでのAg(111)上のXe単分子層形成後のLEEDパターンを観察し、Xe層が下地の配向に沿った不整合な六方構造を持ち、吸着原子間隔がバルクXeの原子間隔に比べると3 %程度大きいことを報告した。Xe/Ag(111)で観察されているのはこの不整合構造だけで、整合構造や回転した不整合構造は観察されていない。
我々は、偏光解析法と極微少電流低速電子線回折法(XLEED)を組み合わせた実験装置を開発してきた2, 3)。従来型のLEED装置では、入射電子による試料破壊や帯電の影響が問題になっていた。XLEEDは入射電子電流0.1 pA以下でも回折パターンが観察できる装置である。これら二つの観察手法は、共に試料に「優しい」という点で、物理吸着層の観測に優れている。Ag(111)表面上に吸着したXe膜の厚さを偏光解析法でモニターしながら、バルクが形成されるまでの吸着層の表面構造の変化をXLEEDで観察した。層の成長は、温度一定で圧力を上げていく等温成長と、圧力一定で温度を下げていく等圧成長の二通りで行った。

 Xe層による六つの回折スポットは十分な厚さまでAg(111)に対して揃った配向を保ち、エピタキシャルに成長していくことがわかった。六つの回折スポットの間隔から吸着層の原子間隔を計算すると、単原子層形成直後では78.4 Kで0.453 nmであった。これは、同じ温度でのバルクの原子間隔0.439 nmと比べると、3 %程度大きい値である。さらに圧力をあげていくと、二層目の凝縮が起こる前に、Xe原子の間隔はバルクの値に達し、その値を保つ。一層目の原子間隔がバルクと同じになった後は、そのうえにバルクの構造のままの二層目、三層目が積み重なっていき、無限の厚さのバルクが形成されていく。この現象は等圧成長でも見られる。

 気相の圧力を上げたり、吸着系の温度を下げると、吸着原子数密度が上がり、平衡状態にある吸着層の化学ポテンシャルが上昇する。一層目の吸着原子同士の相互作用、一層目の原子と二層目の原子の相互作用、一層目の原子と下地との相互作用、二層目の原子と下地との相互作用をそれぞれ簡単なモデルであらわし、吸着層の化学ポテンシャルを計算した。吸着層の密度を与え、最もエネルギー的に安定な一層目と二層目の原子数密度の組み合わせを求めた。すると、一層目凝縮直後の原子間隔は0.448 nmで、バルクXeでの計算値0.434 nmより3.2 %大きい。一層目凝縮後しばらくは、吸着原子は一層目に埋め込まれ、一層目の原子間隔を短くする。原子間隔が0.433 nmに達すると、二層目に二次元気相が吸着し始め、やがて二層目の凝縮が起きるということがわかった。これは、我々の観測結果と一致する。

参考文献
1. M. A. Chesters, M. Hussain and J. Pritchard: Surf. Sci., 35 (1973) 161.
2. S. Igarashi, Y. Abe, Y. Irie, T. Hirayama and I. Arakawa: J. Vac. Sci. Technol. A, 16 (1998) 974.
3. 阿部雪子, 五十嵐慎一, 入江泰雄, 平山孝人, 荒川一郎: 真空, 41 (1998) 452.


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公聴会前
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公聴会中
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公聴会後