Ne固体表面からの2p53p状態の励起原子の脱離
荒川研究室 92-041-006
井元 一好

 希ガス固体表面に電子または光を入射して電子的励起状態をつくった時に,表面から励起粒子などが脱離してくる現象を電子遷移誘起脱離(DIET:Desorption Induced by Electronic Transitions)と呼ぶ.この脱離機構の1つに,Cavity Ejection (CE)機構と呼ばれるものがある.CE機構は,固体表面に生成された励起粒子が,周りの原子との反発相互作用によって脱離する機構で,NeとAr(電子親和力が負の希ガス固体)でおこる.例えば,Ne固体表面に1次の表面励起子(2p53s)を励起すると,準安定原子(3P0,3P2)の脱離が観測される.また,表面でのみ許容される,より高次の表面励起子(2p53p)を励起した時にも,同じ準安定原子が観測されるが,その間の脱離と緩和の関係はまだ解明されていない.
 Neの2p53p状態の微細構造をみると,スピン軌道相互作用によって10個の異なった状態が存在する.これらの電子状態が脱離原子のなかにどのような割合で存在するのか,また,これらの電子状態の違いによって表面から脱離するときの脱離運動エネルギーに違いがあるのかを知ることが今回の実験の目的である.これらの情報から,固体表面での励起の緩和と脱離に至る過程の詳細を知ることが期待できる.
 図1は,電子衝撃によりNe固体表面から脱離してきた2p53pの励起原子が2p53sに緩和するときの発光スペクトルである.このスペクトルで,例えば,640nmでの発光は2p53p(3D3)の電子状態から2p53s(3P2)への緩和過程における発光である.この2p53s(3P2)原子は準安定状態であり,24.4sの寿命を持つので,二次電子増倍管で直接検出することが可能である.ここで,2p53p状態の寿命は,10-8sの程度で非常に短い.したがって,2p53s状態への緩和時における発光の信号を検出した時をスタートとして脱離準安定粒子の飛行時間を測定し,それから,脱離運動エネルギー分布を得ることができる.