電子エネルギー損失分光法によるKrクラスターにおけるバルク/表面励起子の生成比の入射電子エネルギー依存性


94-041-033 荒川研究室 関孝男


 
クラスターとは原子分子が複数個集まった集合体のことで、原子分子と固体との中間的存在である。本研究の目的は、希ガスクラスターにおける電子的励起過程とそのクラスターサイズ依存性を、電子エネルギー損失分光(EELS)を実験手法として明らかにすることである。クラスターは、超音速分子線法により生成する。気体がノズルから噴出するとき断熱膨張して温度が下がる。気体のエンタルピーが並進運動エネルギーに変換され、速度のそろった原子同士がファンデルワールス力により凝縮してクラスタービームとなる。本研究室の装置では噴出圧力などの調整によりクラスターを構成する平均原子数(クラスターサイズ)を数百から数千の範囲で変えることができる。
 EELSは次のように行う。電子銃を出た電子はエネルギー選別器により単色化されてクラスタービームと衝突する。その後、散乱した電子のエネルギー分布をエネルギー分析器と二次電子増倍管によって測定する。このときのエネルギー損失から励起子の生成エネルギーを知ることができる。
 本装置により以前測定されたKrクラスターのEELスペクトル[1]を図1に示す。入射電子エネルギーが60eVでは、バルク励起子に起因するピークが観測されず、表面励起子に起因するピークのみが観測された。この原因は電子の侵入深さ,あるいは脱出深さが短いためと考えられる。エネルギー60eVの電子のKr固体中での平均自由行程は0.5nm程度であり、それに対してKrクラスターの結晶構造をfcc構造とすると最隣接原子間距離は0.398nmとなる。従ってクラスター最外殼で生成される表面励起子は観測されているが、第二層目以下で形成されるバルク励起子の生成に関与する電子は観測されていない。
 本研究では入射電子エネルギーを変化させてEELSの実験を行い、前述のバルク励起子の確認、バルク/表面励起子の信号比の入射電子エネルギー依存性、さらにそのクラスターサイズ依存性を明らかにすることが目的である。

[1] 小池俊弘 修士論文 1996年