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Stark効果を用いた準安定励起原子検出器の設計と製作
荒川研究室  94-041-048 浜松諭子


 


 希ガス固体表面に電子および光子を入射すると、固体中あるいは表面上に励起子が生成され、周囲との相互作用の結果、粒子の脱離が観測されることがある。本研究では、固体ネオン表面から脱離した準安定励起原子を検出するための新しい検出器の設計と製作を行った。
 固体ネオン表面から脱離した粒子のうち、電子状態が2p53p型の励起原子は寿命が10-8〜10-9秒のオーダーで、秒速数kmの速度をもち、固体の表面から10μmほどのところで発光して2p53s型の励起原子となる。そのうちの二つ(3P0,2)は寿命が数秒のオーダーの準安定励起原子である。これまでの実験では、2p53p型の励起原子が脱励起してできた準安定励起原子を二次電子増倍管で観測し、準安定励起原子の運動エネルギーを測定した。研究の目的は、2p53p型の励起原子の微細なエネルギー準位と、その脱離運動エネルギーとの相関を調べ、脱離機構を明らかにすることである。そのために2p53p型の励起原子が発した可視光と、そこで生じた準安定励起原子を同時計測する。前述のような実験をするためにはまず、可視光を分光して2p53p型の励起原子の微細なエネルギー準位を特定する。その可視光をトリガーとして準安定励起原子の飛行時間を測定し、準安定励起原子の運動エネルギーを求める。今までの方法では、バックグラウンドの真空紫外光の強度が非常に強く、十分な計測ができなかった。本研究で作成した検出器は、原理的には準安定励起原子のみを検出するので信号対雑音比を上げることが可能となる。
 Stark効果とは、原子を電場中におくとそのエネルギー準位が変化する現象をいう。下図のように直径40μmのワイヤーを1mm間隔に並べたものを4段用意し、交互に10kVほどの電位差をかけると、ワイヤー付近では5×104kV/mm程度の電場強度が得られる。検出器の有効径は10mmである。電子やイオンなどの荷電粒子は偏向板で取り除かれる。準安定励起原子は、ワイヤー付近の電場に入るとStark効果で禁制準位2p53s(3P0,2)が許容準位2p53s(3,1P1)とミキシングを起こし、部分的に許容になり、基底状態に遷移するときに真空紫外光を出す。真空紫外光は光電変換面で電子に変換される。その電子を口径10mmの二次電子増倍管で検出して、準安定励起原子の収率を測定することができる。
 2p53p型の励起原子の微細なエネルギー準位と、準安定励起原子の運動エネルギーとの相関を知ることにより、2p53p型の励起原子の電子状態の違いが脱離機構にどのように影響するかを調べる。