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電子エネルギー損失分光法による希ガスクラスターにおけるFeshbach型共鳴状態の観測

94−041−009 荒川研究室  植原 啓方

【目的】クラスターとは原子・分子が複数個集まった集合体のことで、原子・分子と固体との中間的存在である。本研究の目的は、希ガスクラスターにおけるFeshbach型共鳴励起状態を、電子エネルギー損失分光(EELS)を実験手法として観測することである。Feshbach共鳴とは次のような現象である。電子が原子・分子に衝突する際、原子・分子を励起するために必要なエネルギーよりもわずかに低いエネルギーであるとき、入射電子のエネルギーが全て標的原子・分子の励起に使われ、入射電子自身も標的に捕らわれてしまい、準安定な負イオン励起状態をつくることがあり、共鳴状態となる。捕らわれた電子は有限の時間で外へ逃げられる。このとき標的が孤立原子の場合は、入射電子エネルギーと共鳴散乱電子エネルギーは等しく、エネルギー損失はない。標的が固体やクラスターの場合は、共鳴状態でエネルギーの一部が格子振動に使われるため、共鳴散乱電子のエネルギーは入射電子エネルギーより低くなると予想される。このエネルギー損失の大きさはクラスターサイズやクラスターの温度によって変化すると考えられる。

【実験方法】クラスターは超音速分子線法により生成する。気体がノズルから噴出するとき断熱膨張して温度が下がる。速度のそろった原子同士がファンデルワールス力により凝縮してクラスタービームとなる。本研究室の装置では噴出圧力などの調整によりクラスターを構成する平均原子数(クラスターサイズ)を数百から数千の範囲で変えることができる。
EELSは次のように行う。電子銃を出た電子はエネルギー選別器により単色化されてクラスタービームと衝突する。その後、散乱した電子のエネルギー分布をエネルギー分析器と二次電子増倍管によって測定する。

【2次元信号計測システムの構築】

標的がクラスターの場合、特定の入射電子エネルギーで生成される共鳴励起状態を観測するには、電子エネルギー損失スペクトルの入射電子エネルギー依存性を測定する必要がある。2次元計測システムと位置敏感検出器付きマイクロチャンネルプレートを使用し、損失エネルギーと入射電子エネルギーの2次元スペクトルを測定する。
本年度は2次元計測システムを構築し、希ガス原子を標的とした共鳴スペクトルを測定することにより動作確認を行った。図1にKr 原子を標的とした2次元スペクトルを示す。縦軸が標的に入射した電子のエネルギーで、横軸は散乱電子のエネルギー損失。強度の高いところが図の黒い部分である。上と右のスペクトルはそれぞれ縦軸方向、横軸方向の点を足し合わせたものである。エネルギー損失がゼロのところでほぼ直線になっている。矢印はすでに測定されている共鳴エネルギーのうちの3つで、それぞれ9.52 ,10.14 ,10.67eVである。入射電子エネルギーが9.52eVのピークが観測された。


図1Kr原子の共鳴スペクトル