開発許可取消訴訟の原告適格
法学科3年 横田 瑛子
1.はじめに
2.判例 「開発許可取消訴訟の原告適格」
(最高裁平成9年1月28日第三小法廷判決)
平成4年2月24日にY(川崎市長・被告・被控訴人・被上告人)が都市計画法(平成4年法律第82号に基づく改正前のもの。以下「法」という。)29条に基づいて、マンション建設のための開発行為に対して開発許可を行った。本件開発区域において建物の建設工事をするには土留壁を設置しなければならず、土留壁の維持・固定にはアースアンカー工法という工法を採ることが予定されていた。アースアンカー工法とは崖に向かって孔を掘削しセメントを注入し、アースアンカーを挿入後土留壁に固定する方法である。本件においては、崖面から水平やや下の角度で深く掘削する必要がある為、アースアンカーが本件区域を越えて、その上部に位置する一部原告ら所有地に達することが明らかであった。そこで、当該許可にかかる急傾斜地である開発区域の下方又は上方の近接地に居住する住民Xら(原告・控訴人・上告人)が当該許可の取消を求めた。Xらは、本件開発許可には法33条1項14号の関係権利者の相当数の同意を得ていない違法があると主張したほか、本件開発行為によって起こり得る崖崩れ、地すべり又は土砂の流出により、その生命、身体、健康、精神及び生活に関する基本的権利並びに有効な生活環境を享受する権利を侵害されるおそれがあると主張した。
Ⅰ. 「行政事件訴訟法9条は、取消訴訟の原告適格について規定するが、同条にいう当該処分の取消しを求めるにつき『法律上の利益を有する者』とは、当該処分により自己の権利若しくは法律上保護された利益を侵害され、又は必然的に侵害されるおそれのある者をいうのであり、当該処分を定めた行政法規が、不特定多数者の具体的利益を専ら一般的公益の中に吸収解消させるにとどめず、それが帰属する個々人の個別的利益としてもこれを保護すべきものとする趣旨を含むと解される場合には、かかる利益も右にいう法律上保護された利益に当たり、当該処分によりこれを侵害され又は必然的に侵害されるおそれのある者は、当該処分の取消訴訟における原告適格を有するものというべきである。そして、当該行政法規が、不特定多数者の具体的利益をそれが帰属する個々人の個別的利益としても保護すべきものとする趣旨を含むか否かは、当該行政法規の趣旨・目的、当該行政法規が当該処分を通して保護しようとしている利益の内容・性質を考慮して判断すべきである。」
Ⅱ. 都市計画法33条1項14号は、当該開発行為の施行等の妨げとなる権利を有する者の相当数の同意を得ていることを許可基準と定めているが、右権利者個々人の権利を保護する趣旨を含む規定ではない。
Ⅲ. 「都市計画法33条1項7号は、開発区域内の土地が、地盤の軟弱な土地、がけ崩れ又は出水のおそれが多い土地その他これらに類する土地であるときは、地盤の改良、擁壁の設置等安全上必要な措置が講ぜられるように設計が定められていることを開発許可の基準としている。この規定は、右のような土地において安全上必要な措置を講じないままに開発行為を行うときは、その結果、がけ崩れ等の災害が発生して、人の生命、身体の安全等が脅かされるおそれがあることにかんがみ、そのような災害を防止するために、開発許可の段階で、開発行為の設計内容を十分審査し、右の措置が講ぜられるように設計が定められている場合にのみ許可をすることとしているものである。そして、このがけ崩れ等が起きた場合における被害は、開発区域内のみならず開発区域に近接する一定範囲の地域に居住する住民に直接的に及ぶことが予想される。また、同条2項は、同条1項7号の基準を適用するについて必要な技術的細目を政令で定めることとしており、その委任に基づき定められた都市計画法施行令28条、都市計画法施行規則23条、同規則…27条の各規定をみると、同条33条1項7号は、開発許可に際し、がけ崩れ等を防止するためにがけ面、擁壁等に施すべき措置について具体的かつ詳細に審査すべきこととしているものと解される。以上のような同号の趣旨・目的、同号が開発許可を通して保護しようとしている利益の内容・性質等にかんがみれば、同号は、がけ崩れ等のおそれのない良好な都市計画の保持・形成を図るとともに、がけ崩れ等による被害が直接的に及ぶことが想定される開発区域内外の一定範囲の地域の住民の生命、身体の安全等を、個々人の個別的利益としても保護すべきものとする趣旨を含むものと解すべきである。そうすると、開発区域内の土地が同号にいうがけ崩れのおそれが多い土地等にあたる場合には、がけ崩れ等による直接的な被害を受けることが予想される範囲の地域に居住する者は、開発許可の取消しを求めるにつき法律上の利益を有する者として、その取消訴訟における原告適格を有すると解するのが相当である。」
3.原告適格
原告適格とは、取消訴訟において処分性が認められた場合にその処分の取消しを求めて出訴することのできる資格のことで、行政事件訴訟法9条は「取消しを求めるにつき法律上の利益を有するもの」と規定している。
そこで行政訴訟法9条の文言にある「法律上の利益」の解釈が原告適格を決めるといって良い。学説には主に「法律上保護された利益」説と「法律上保護に値する利益」説の対抗関係がある。
(イ)「法律上保護された利益」説とは、当該処分の根拠法規が保護している利益を有している者が原告適格を持ち、処分の根拠となる個々の行政法規の解釈により原告適格の有無が決まるものであり、国民の権利、利益の保護に重点を置いた考え方といえる。
(ロ)「法律上保護に値する利益」説とは、裁判で保護に値する利益を有している者が原告適格を持ち、実定法意の解釈ではなく裁判的保護に値するかどうかで有無が決まり、取消訴訟の持つ適法性維持機能をより重視しようとするものである。
原田尚彦教授における分類としては(イ)(ロ)の他に2つ(ハ・ニ)ある。
(ハ)「直接的権利侵害説」とは『取消訴訟を行政処分の直接的不利益を排除するための権利関係訴訟である』と理解し、原告適格を認められるのは、その具体的実体的な主観的権利を直接的に侵害される者に限られるとするもので、受益的処分の取消しを求める原稿適格を名宛人以外の第三者が認められることは原則としてない。要件が4説の中で一番厳しいものである。
(ニ)「処分の適法性保障説」とは取消訴訟の特徴を行政処分の適法性維持機能に求め、原告適格の要件は原告個人の権利利益と無関係なものとされ、究極的には何人でも取消訴訟を提起できることに至りうる。しかし、その場合には、民衆訴訟を認めるのと同一になるため、一定の限定が必要になる。『処分の性質に鑑みて、当該処分を争うにつきもっとも適した利益状態にある者』に原告適格を認めることになる。現行法下で直接的な形で提唱されることは無理だと思われるが、原告適格を緩める方向に働くものとして他の説に加えるのは可能である。
他に
(ホ)「紛争管理権説」(伊藤教授提唱)とは行政処分によってその法的利益を侵害される者に限らず、訴訟提起前に行政庁に対して交渉するなどの紛争解決行動を行って紛争管理権を取得した者も原告適格を認められるべきであるというものである。
(へ)訴訟法的利益説(山村教授提唱)とは原告適格は訴訟追行上の利益、適格という面から考えるべきであり、誰がその訴訟追行を担当するのが紛争の解決のために必要かつ適切かという見地から考えるべきであるというものである。
5.判例
(1) 最高裁の判例の流れ
ジュース訴訟判決(最判昭和53・3・14民集32巻2号211頁)において「『法律上の利益を有する者』とは、当該処分により自己の権利若しくは法律上保護された利益を侵害され又は必然的に侵害されるおそれのある者をいい、「法律上保護された利益」とは、行政法規が私人等権利主体の個人的利益を保護することを目的として行政権の行使に制約を課していることにより保障されている利益であって、それは、行政法規が他の目的、特に公益の実現を目的として行政権の行使に制約を課している結果たまたま一定の者が受けることになる反射的利益とは区別されるべきものである。」として、「法律上保護された利益」説の立場を取ることを明示して以来、この立場を堅持している。しかし「法律上保護された利益」説という判断枠組みの中で、最高裁判例は変化をみせている。
長沼ナイキ基地訴訟(最判昭和57・9・9民集36巻9号1679頁)は当該処分を定めた行政法規が、不特定多数者の具体的利益をもっぱら一般的公益の中に吸収解消させるにとどめず、それが帰属する個々人の個別的利益としてもこれを保護すべきものとする趣旨を含むと解される場合には、かかる利益も「法律上保護された利益」に当たり、当該処分によりこれを侵害され又は必然的に侵害されるおそれのある者は、当該処分の取消訴訟における原告適格を有するとし、新潟空港訴訟(最判平成元・2・17民集43巻2号56頁)では、当該行政法規が不特定多数者の具体的利益をそれが帰属する個々人の個別的利益としても保護すべきものとする趣旨を含むか否かは、当該行政法規及びそれと目的を共通する関連法規の関連規定によって形成される法体系の中において、当該処分の根拠規定が、当該処分を通して右のような個々人の個別的利益をも保護すべきものとして位置付けられていると見ることができるかどうかによって決すべきであるとし。このように、原告適格の判断基準を「当該行政法規及びそれと目的を共通する関連法規の関係規定によって形成される法体系」として、公益に解消されない個人的利益という考えが取り入れられ、原告適格の拡大が見られるようになってきた。
もんじゅ原子炉訴訟(最判平成4・9・22民集46巻571頁)は、当該行政法規が、不特定多数者の具体的利益をそれが帰属する個々人の個別的利益としても保護すべきものとする趣旨を含むか否かは、当該行政法規の趣旨・目的、当該行政法規が当該処分を通して保護しようとしている利益の内容・性質等を考慮して判断すべきであると、以前の最高裁判決を引用した上で、原告適格の有無を判断する場合には、実定法の趣旨・目的だけでなく、被害者利益の内容・性質も考慮されることを示した。
このように現在の最高裁判判例は「法律上保護された利益」説を維持しつつ、柔軟な解釈により原告適格を拡大する流れになっているおり、今では「法律上保護に値する利益説」に接近しているといえる。
(2) 従前の下級審裁判
原告適格について、当初は最高裁判決と同様「法律上保護された利益」説をとっているものの、「当該処分法規が私人等の権利主体の個人的利益を保護することを目的として行政権の行使に制約を課していることにより保護される利益であり、公益の実現を目的として行政権の行使に制約を課している結果たまたま一定の者が受けることとなる利益である反射的利益ないし事実上の利益とは区別される」(当該処分の根拠規定が私益保護か公益保護かの区別)として、都市計画法の「当該処分の根拠規定」は公益保護規定と解され、付近住民のような処分の名宛人以外の第三者は、全て原告適格を否定されていた。最近は、当該処分の根拠法規が第三者に対して一般的公益を保護する公益保護規定としてはたらくと共に、第三者の個々人の個別的利益としてもこれを保護する私益保護規定としてもはたらく趣旨である場合があることを述べている判決が出てきたが、やはり原告適格が認められたわけではない。第三者の原告適格が認められる可能性はでてきたといえる。
①静岡地裁昭和56・5・8判決
「都市計画法29条の開発行為の許可の制度は、同法の目的とする都市の健全な発展と秩序ある整備という公共の利益の実現のためになされるものであり、付近住民の権利若しくは具体的利益を直接保護したものではない」 として33条1項各号の開発許可基準の個別的内容を検討することなく、原告適格を否定した。
②宇都宮地裁平成4・12・16判決
「都市計画法33条においては、揮発許可の基準が定められており、そこでは…周辺地域の環境保全に関連する許可基準規定が存するが、同条及びこれに関する都市計画施行令、同法施行規則の諸規定において、環境基準に関する具体的な定めが設けられているわけでもなく、結局、右開発許可基準に関数規定が、周辺土地所有者、住民の生活環境に関わる個人的な利益を保障しようとしたものと解することはできず、むしろ、一般的、抽象的に周辺地域の良好な生活環境を一般的公益として配慮した規定にとどまると解する」「原告らの主張する生活環境上の利益は、…反射的利益ないし事実上の利益に過ぎない」として、原告適格を否定した。
6.「法律上保護された利益説」と「法律上保護に値する説」の問題点
①「法律上保護された利益説」の問題点
・ 国民が違法な行政処分によりいかに不利益を受けても、法律の保護する利益ではないとされると原告適格を認められない事態が生じる。
・ 個々の実体法規の規定が重視されることから、新しい事情に対応して実体法規が改正されていないと、新しい生活上の権利利益が無視される。
・ 実定法規の規定が原告の利益を保護していない限り原告適格を認められないということは、実定法上の列記主義ないし隠れた列記主義になる。
・ 個別の実定法規ごとに保護される法規が分析されることになり、行政過程の法的統制が困難になる。
・ 原告適格の判断の段階で審理が錯綜し、実態行政法の解釈をめぐって複雑かつ技巧的な解釈が展開され、多大な労力を費やさなくてはならなくなる。
②「法律上保護に値する利益説」の問題点
・ 保護に値する利益か否かの判定が不明確。
・ 事実上の利益であっても原告適格を認める点において行政事件訴訟法9条の字義に合致しない。
・ 濫訴のおそれがある。
・ 行政事件訴訟法10条1項との関係。
・ 本案勝訴と原告の権利利益の救済との関係。
・ 処分過程と争訟過程の整合性。
7.論点
本判決は、もんじゅ訴訟を引用したものである。その要点をまとめてみると、以下のようになる。
・ 法律上保護された利益説の立場
・ 当該行政法規が、不特定多数者の具体的利益を専ら一般公益の中に解消させるにとどめず、それが帰属する個々人の個別的利益としてもこれを保護すべきものとする趣旨を含むかどうか判断する。
・ 個別的利益として保護されているかどうかは、当該行政法規の趣旨・目的、保護しようとしている利益の内容・性質等を考慮する。
これらを踏まえ、本件ではどのように具体化されているかを以下の点に絞り検討していく。
① 開発許可の根拠法規である都市計画法33条等が周辺住民個々人の個別的利益を保護する趣旨を含むか否か。
② (①が肯定された場合)原告が個人的利益を保護されている住民に当たるか否か。その判断として、根拠法規の趣旨・目的、開発許可を通して保護しようとしている利益の内容・性質等を考慮する。
(1) 都市計画法33条1項7号
① この条文は許可基準として「開発区域内の土地が、地盤の軟弱な土地、がけ崩れや出水のおそれが多い土地その他これに類する土地であるときは、地盤の改良等安全措置が開発設計に盛り込まれていること」を規定している。つまり、これは開発区域周辺の安全の保護も目的に含むと解される。
では、この開発区域周辺の安全というのが一般的な公益としての地域の安全確保にとどまるのか、当該地域の住民の生命,身体の安全といった個人的な利益をも保護する趣旨が含まれているのかが問題となる。もんじゅ判決では、「原子炉等規制法・・・の規定は原子炉施設の付近に居住する者は、その生命,身体等に直接的かつ重大な被害を受けると者と想定されるという被害の性質を考慮して定められている」とした上、周辺住民の生命,身体の安全を個々人の個別的利益としても保護している。また、新潟空港判決においては「航空機騒音障害の被害者は、飛行場周辺の一定地域的範囲の住民に限定され、被害の特質を考慮要素の一つとして、周辺住民の個人的利益の保護を含む。」としている。
つまり、がけ崩れ等が起きた場合における被害は、開発区域内のみならず開発区域に近接する一定範囲の地域に居住する住民に直接及ぶことが予想され、周辺住民の生命,身体の安全等という公益には容易に吸収解消され難い個人の利益を保護する趣旨を含んでいるといえる。
また、法33条1項7号に関する技術的細目を定める法施行令、法施行規則の内容をみると、かなり具体的かつ詳細なものとされており、保護対象が公益にとどまらず、周辺住民の安全という個別的な利益をも含んでいるといえる。よって、法33条1項7号は、一定範囲の開発区域の周辺住民個人的利益を保護する趣旨を含む。つまり原告適格を有すると解釈できる。
(新潟空港訴訟判決から「法律上保護された利益」の「法律」を当該処分の根拠規定以外の関係規定も含むことになったが、この関係規定がないからといって、原告適格を否定されるわけではない。また、関連規定に個別的利益を保護する趣旨が含まれていなくても、根拠規定、関連規定の一部から個別的利益を保護する趣旨が読み取れれば原告適格は肯定される。)
② 次に保護対象となっている住民の範囲をどう決するかという問題があるが、新潟空港訴訟やもんじゅ訴訟と同様の手法をとり、「被害の直接性、重大性」を基準として考える。①で検討したように、安全設計に問題があればがけ崩れや出水等により生命、身体等に直接的な被害を予想されるので、その範囲の地域に居住する者が原告適格を有するといえる。もんじゅ訴訟においては被害の「重大性・直接性」を基準にしているのに対し、本判決では「直接性」のみを挙げている。この違いについては、本判決がもんじゅ訴訟よりも原告適格の基準を緩和したと評価する見解(見上説)や、生命・身体の侵害自体が重大と考えることもでき、また潜在的被害者が特定できるかどうかの基準として挙げていると思うので、実質的な違いはないとする見解(山下説)がある。どちらにしろ、「直接性」という要件は外せないので、先に述べたように直接的な被害を予想される範囲の地域に居住する者が原告適格を有するといえる。批判として、がけ崩れ等の被害が直接及ばないと想定される地域の住民は原告適格を否定されるというこが挙げられている。また、生命、身体の安全等という保護法益の重要性、被害の重大性が指標になっていることから、「法律上保護された利益説」に立ちながらも「法律上保護に値する利益説」に接近しているという意見もある。
(2) 都市計画法33条1項14号
① この条文は、私法上の権限を取得しない限り開発行為等をすることはできないから、開発行為の施行等につき相当程度の見込みがあることを許可の要件とすることにより、無意味な結果となる開発許可の申請をあらかじめ制限するために設けられているものであり、当該開発行為の施行等の妨げになる権利を有する者個々人の権利を保護する趣旨を含むものではない。つまり原告適格を有さないと解される。
反対意見として、都市計画法42条1項によると、同法36条3項の工事完了公告があった後は、何人も開発許可を受けた開発区域内では制限されることになり、同意をしていない開発行為関係権利者も制限を受ける。本件の14号の同意を主張する一部の原告には、所有権に基づき私法上の請求権は行使できるので、権利・利益の保護は一応図られている。しかし、不同意の開発行為関係権利者に対して、補償規定があるわけではないので、開発区域内に所有権を有するものにとっては、14号は状況によっては原告適格を認める場合があるのではないか。(金子)という意見もある。
よって、本件の原告適格の判定は(a)人の生命・身体の安全の保護にかかわること、(b)下位法令によって災害防止措置につき具体的かつ詳細な審査基準が設けられていること、(c)被害が及ぶ範囲が特定できること、という3点から認められるといえる。
8.私見
私は通説である「法律上保護された利益説」を支持する。「法律上保護された利益説」も直接的被害などの具体的事実も判断考慮に入れたことにより、「法律上保護に値する利益説」とあまり違いが無くなってきているが、後者の問題点として挙げられていた保護に値する利益か否かの判定の不明確さというのは、「法律上保護された利益説」には今のところない。具体的事実のみに着目しているわけではなく、直接的な被害を被るおそれのある者のみ、かつ事案に関わる規定の中に個人的利益の保護を趣旨と取れる内容があればそれを根拠とするという点で原告適格を認める要件が存在しているため、判定の不明確さから生じる濫訴のおそれも防げると思われる。「新潟空港訴訟やもんじゅ事件訴訟からの流れで原告適格を拡大しているが、柔軟な法解釈を維持できるような判断基準をさらに具体化する必要がある。」と山下竜一先生も述べているように、判断基準は具体性が必要なので2説のうちまだ具体性を有している方が良いと思われる。しかし、原告適格の拡大の動きが悪い方向へ進んでいるとは思わない。最近、開発許可の取消訴訟ではないけれど国立マンション建設において、建設完成したマンションの一部取り壊しを認めた判決が出た。人口が増えるにつき必要になってくる大型建築を含んだ都市開発が今後増えてきて、このような問題も多く出てくるだろう。だから市民の権利が公益に消されないようにするためにも、原告適格の拡大の流れは良いと私は感じる。
(参考文献)
見上崇洋 民商法雑誌117巻3号442頁
金子正史 自治研究74巻4号18頁(上)、74巻5号49頁(下)
大橋寛明 法曹時報49巻5号259頁
岡村周一 行政救済法Ⅰ
法学教室
山下竜一 ジュリスト
他