2003.1.9
担当:高橋 愛
行政判例百選Ⅱ 164事件 基地共用の差止
(最高裁平成5年2月25日第一審小法廷判決)
<争点>
1, 騒音被害を防止するため、自衛隊機の離発着の差止めを民事訴訟で求めることは許されるのか。
大阪空港事件では、民間機の離発着について、空港供用の差止めが求められたが、空港供用の差止めは、不可分一体である航空行政権行使の差止めを求めるものであるから、民事上の請求は許されないとされている。しかし本件は、自衛隊の離発着を対象とするものであるから、事情は同一ではない。
2, 騒音被害を防止するため、米軍機の離発着の差止めを民事訴訟で求めることは許されるのか。
本件は、国を被告に、米軍機の差止めを請求しているが、これが可能であるためには、米軍機の離発着を規制する権限が国になければならない。条約や法令上、国にそうした権限がないとすると、米軍機の差止請求を国にすることは、不能なことを求める請求である。こうした請求の訴えは、却下すべきか、棄却すべきか。
<事実の概要>
厚木基地は、自衛隊と米軍が共同で使用する施設であり、神奈川県大和市、海老名市、綾瀬市にまたがって位置し、その半径90キロメートル圏内には以上のほか六市ほどが含まれている。本件は、その周辺に居住する住民たちが、同飛行場に離着陸する航空機の騒音等により精神的、身体的被害を被っているとして、国に対し自衛隊機の離発着の差止め、米軍機の離発着の差止め、および過去及び将来の損害賠償を求めた事案である。ここでは差止めの部分についてのみ取り上げることにするが、第一審第二審いずれも差止め請求についてこれを不適法として退けた。そこで原告住民たちは上告に及んだ。
<第一審>
(横浜地裁昭和57・10・20判時1056号26頁)
1、否定
2、否定
まず、自衛隊機に関し、大阪空港訴訟大法廷判決(最判昭和56・12・16民集35巻10号1369頁)の採用した法理で、Yの本件飛行場の供用行為は、飛行場の設置、管理、自衛隊機の運航のいずれの面も、防衛行政権の行使といえるから、Xらの差止等請求は防衛行政権の行使の取消変更ないし発動を求めることに帰し、民事訴訟手続によることは許されず、訴えは不適法と判示する。
次に、米軍機に関し、本件飛行場が、日米安保条約、地位協定に基づき米軍の使用に供している施設であって、Yは米軍に右条約等の目的遂行に支障なく使用させる条約上の義務を負担することを根拠に、条約に基づき米国の権限で離着陸する米軍機の運航に我が国の民事裁判権が及ぶいわれがないこと、米軍機の運航を規制制限する権限を有しないYに対し、条約上の義務履行行為と抵触する米軍機の離着陸につき規制、制限措置を執ることを求めるのは法的に不能を強いることを理由に、本件差止め請求を不適法と判示する。
<第二審>
(東京高裁昭和61・4・9判時1192号1頁)
1、否定
2、否定
自衛隊機について、本判決は、いわゆる統治行為論を採用し、本件飛行場の設置及び航空機の配備、運用の如き自衛隊機の具体的運営は、我が国の総合的な防衛態勢の一環をなすものであって、このような自衛権行使のための実力組織の規模、内容、程度及びその運用を如何に決定するかは、政治部門の高度の政治的、専門的裁量による判断を伴い、国の政治、経済の動向や、国際関係にも深い関係があり、我が国の存立と安全にもかかわる重要な事項であって、高度の政策的判断を不可欠とするから、いわゆる統治行為ないし政治問題というべく、本件差止め請求は不適法であるとした。
米軍機について、本判決も一審判決の引用をして不適法であるとした。
・ 自衛隊機の離着陸等の差止め請求は統治行為ないし政治問題に属し民事訴訟事項としての適格を有しないとした原審の判断につき、憲法98条1項、81条、32条の解釈適用を誤り、理由不備、理由齟齬の違法、法令の解釈適用の誤りをいうもの。すなわち、右請求は、被告が自衛隊機の飛行行為等によって原告等の私法上の権利を違法に侵害していることを理由に、原告等が有する環境権、人格権に基づき被告に対して自衛隊機の飛行の禁止等の不作為を求めるものであるから、民事訴訟によって解決されるべき事柄である。
・ 被告に米軍機の運航を規制、制限する権限がないことなどを理由に米軍機の離着陸等の差止め請求を却下すべきものとした原審の判断につき憲法32条違反、裁判所法3条の解釈適用の誤りである。
<最高裁>
1、否定
2、主張自体失当として棄却
1, 自衛隊機の運航は、国の防衛を遂行するため、防衛政策全般にわたる判断の下に行われ、それを統括する権限は、防衛庁長官に与えられている。そして自衛隊機の運航については、自衛隊法107条1項、4項、また5項により、民間機の運航について規制する航空法の適用が大幅に排除されているから、それに対応する規制は、防衛庁長官が行うことと解される。
①「防衛庁長官は、……〔自衛隊機の〕航行に起因する障害の防止を図るため必要な規制を行う権限を有する(自衛隊法8条)ものとされている……そして、自衛隊機の運航にはその性質上必然的に騒音等の発生を伴うものであり、防衛庁長官は、右騒音等による周辺住民への影響にも配慮して自衛隊機の運航を規制し、統括すべきものである。」
②「しかし、自衛隊機の運航に伴う騒音等の影響は飛行機場周辺に広く及ぶことが不可避であるから、自衛隊機の運航に関する防衛庁長官の権限の行使は、その運航に必然的に伴う騒音等について周辺住民の受忍を義務づけるものといわなければならない。そうすると、右権限の行使は、右騒音等により影響を受ける周辺住民との関係において、公権力の行使に当たる行為というべきである。」
③「本件自衛隊機の差止請求は、……航空機騒音の規制を民事上の請求として求めるものである。しかしながら、右に説示したところに照らせば、このような請求は、必然的に防衛庁長官にゆだねられた前記のような自衛隊機の運航に関する権限の行使の取消変更ないしその発動を求める請求を包含することになるものといわねばならないから、行政訴訟としてどのような要件の下にどのような請求をすることが出来るかはともかくとして、右差止め請求は不適法というべきである。」
2, 米軍機による騒音被害を発生させているのは、国ではなくて米軍であるから、米軍機の離発着の差止めを国に対して請求することが出来るためには、国が、米軍の運航を規制し制限する立場になければならない。しかし「関係条約及び国内法令に右のような特段の定めはない。そうすると、上告人らが米軍機の離着陸等の差止めを請求するのは、被上告人に対してその支配の及ばない第三者の行為の差止めを請求するものというべきであるから、……主張自体失当として棄却を免れない。」(自衛隊機差止請求、米軍機差止請求につき上告棄却、過去の損害賠償請求につき破棄差戻し。)
橋元補足意見(味村裁判官も同調)
自衛隊機の差止請求を行政訴訟の対象となしうるかについて検討し、「自衛隊機の運航により一定限度以上の被害を受けることがないという周辺住民」の利益は、法律上の利益にあたるとして、その原告適格ないし訴の利益を認め、訴訟形態としては「防衛庁長官に対して、特定の飛行場における離着陸を伴う自衛隊機の運航で一定の時間帯又は一定の限度以上の音量に係るもの等についての命令を発してはならないとの不作為を求める」「無名抗告訴訟」(予防的不作為訴訟であろう)が考えられるとしている。
<自衛隊機の差止請求について>
1,参照:大阪空港訴訟(最判昭和56・12・16民集35巻10号1369頁)
大阪国際空港訴訟は、同空港の周辺住民が騒音被害の賠償とならんで航空機の夜間飛行の差止めを求めた、我が国初の本格的な公害予防・環境保全訴訟である。
最高裁は「本件空港の離着陸のためにする供用は、運輸大臣の有する空港管理権(空港を公共の用に供するためには法律上認められる特殊の包括的管理権能で非権力的権能を本体とする)と航空行政権(航空法その他航空行政に関する法令の規定に基づき運輸大臣に付与された航空行政上の権限で公権力の行使を本質的内容とするもの)という二種類の権限の、総合的判断に基づいた不可分一体的な行使の結果であるとみるべきであるから、[供用差止め]請求は、事理の当然として、不可避的に航空行政権の行使の取消変更ないしその発動を求める請求を包含することになる……。したがって[原告住民らが]行政訴訟の方法により何らかの請求をすることが出来るかはともかくとして……いわゆる通常の民事上の請求として[離着陸の制限を求める]私法上の給付請求権を有するとの主張が成立するいわれはない」と判示した。
・「航空行政権は」とは一体何か?
航空事業が国策に即して国家と国民の利益にもっともふさわしいかたちで展開されるよう、航空事業を広く規制する運輸大臣の行政権限が包括的に「航空行政権」という名で総括されているとみる。
・ 伊藤補足意見
国営空港の供用行為に関する運輸大臣の航空行政権の行使の多くは空港の利用者など直接の関係者のみを規制の対象とするもので、それ以外の一般第三者に対する関係において公権力の行使にあたる行為の性格を有しないことを認める。
しかし、航空運送事業の免許、事業計画変更の認可について、法は、運輸大臣が当該事業活動による第三者の法益侵害の可能性の有無・程度を考慮してその許否の判断をすべきものとし、これによって第三者の権利・利益を可及的に侵害から擁護することとするとともに、なおも避けえざる不利益はこれらの者において受忍すべき義務を課しているものと解するのが相当であり、したがって、当該空港と利用関係に立たない一般第三者もこれら行政処分に当然付随する規制作用の名宛人として直接規律されるものであって、その意味において、これら行政処分は、一般第三者に対する関係においても公権力の行使にあたる行為の性格を有するとみるのを相当とする。
本件最高裁 本判決の判旨1①より、防衛庁長官が自衛隊機の運航を規制する権限を持ち、この権限には、飛行場周辺住民への騒音被害を防止する規制権限が含まれているとする。
次に、判旨1②は航空機騒音に関する防衛庁長官の規制権限の行使が、許容した航空機運航から生じる騒音の受忍を周辺住民に義務付ける効果を持つと述べている。
この部分は重要であり、判決の言うように、防衛庁長官の規制権限の行使に、航空機騒音の受忍を周辺住民に義務付ける効果を認めうるとすると、二つの命題を引き出すことが出来る。
⇒イ、航空機の運航を規制する防衛長長官の権限行使は、公権力の行使である。
⇒ロ、判例理由には述べられていないが、公権力行使によって騒音の受忍を義務付けているのであれば、住民が民事差止めにより義務を逃れることは許されない。
ここから一種の公定力的説明を用いたと分かる。
・公定力とは
行政行為は、たとえ違法であっても、行政庁自らが職権により取消し、または撤回する場合は別段、相手方等の争訟の定期に基づき行政庁または裁判所が取消の措置を取らない限り有効に通用する。
・取消訴訟の排他的管轄
ある者が行政行為により形成された法関係または権利義務関係に不服がある場合も、この法関係または権利義務関係を民事訴訟や当事者訴訟で直接争うことはできず、取消訴訟により行政行為の取消を求めなければならないということを意味する。
ⅲ,権力的妨害排除訴訟
包括的な権力的作用に対し、生命、健康等の包括的人格的利益を起訴としてその排除を求める訴訟。
原告は生命・健康等の人格権を基礎とし、端的に、包括的な公権力の行使として国営空港の供用行為の停止を求める(塩野)
ⅳ,公法上の当事者訴訟(行訴4条後段)
行政事件訴訟法の立法者は実定法上に公法と私法の区別があることを前提に、前者にかかる事件を行政事件として把握し、その中で、公権力の行使に関する不服の訴訟を抗告訴訟として別に取り出したので、その他の公法上の権利関係に関するものでいいかえれば公権を訴訟物とするものが、公法上の「実質的」当事者訴訟。
公企業と第三者との関係から生ずる紛争を事前に調整する行政法上の制度が整っていない状況の下では、差止請求について抗告訴訟か民事訴訟かで割り切るのは困難で、かかる公権力の行使を私経済作用の複合した紛争は公法上の当事者訴訟が適当であるとする。(園部、鈴木)
<米軍機の差止請求について>
1、一審、二審との比較
一審・二審 「法的に不能な給付」として却下
最高裁 訴えの適法性を否定せず棄却
本判決は特に触れていないが、一般的・抽象的には人格権侵害に基づく物権的請求権類似の妨害排除ないし予防請求権の成立の可能性を肯定する趣旨と解されている。
一般に物権的妨害排除請求の相手方は「現在妨害状態を惹起している者」又は「その妨害状態を除去しうるべき地位にあるもの」であるとされる。本判決が「米軍機の離発着の差止めを国に対して請求することが出来るためには、国が、米軍の運航を規制し制限する立場になければならない。」というのも趣旨は同一であると思われる。
2、参照:横田基地判決(最一小判平成5・2・25判時1456号53頁)
本件は米軍の管理・運営する横田基地の周辺住民が米軍機の離着陸による騒音被害は受忍限度を越えているとして、国に対し米軍機の飛行等の差止めと過去及び将来の損害賠償を求めた事案である。
最高裁は以下の3点を指摘した。
① Yが妨害状態をひきおこしているか
② Yが妨害を防止しうる立場にあるか
③ 騒音等による被害防止のためにY独自の対策が可能なことを理由にYに対して本件差止請求をなしうるか
最高裁は主位的請求と予備的請求とを特段に区別せず①~③の検討をした後、主位的請求の趣旨に関して、「Yに対する給付請求であることが明らかであり、抽象的不作為命令を求める訴えも請求の特定性を欠くとはいえない」と判示した。
しかし、民事訴訟による差止請求自体を適法とし、「支配の及ばない第三者の行為に対する差止めを請求するもの」という結論は、米国を直接相手取って裁判を提起することができない以上差止めという形での救済はまったく認められないことになる。
3、救済方法
行政上の義務付け訴訟という救済方法が考えられるが、両国間の外交交渉によって問題解決が図られなければならないため、裁判所が原告の請求を認容したとしてもその履行をどのように担保できるかという問題が残される。
地位協定2条4項(b)に該当する場合には日本側の具体的要望を米軍側に申し伝える権利を地位協定上有しているのであるから、日本の裁判所が国内法上違法な状態を除去するために、日本政府に対して地位協定上の要望権を行使するよう命令することは可能である。
<その後の判例>
第二次厚木基地訴訟
第一審(横浜地裁平成4・12・21判時1448号42頁)
1、積極
2、否定
自衛隊機に対する差止め請求については、Yが主張した統治行為論や民事訴訟による請求の不適法性といった主張を採用せず、訴えの適法性を肯認したが、本件における侵害行為及び被害は厚木基地において離着陸する自衛隊機及び米軍機の双方によるものであることが認められ、自衛隊機のみによる侵害行為及び被害の程度を把握するに足りる証拠がないとして請求を棄却した。
米軍機に対する差止め請求については、我が国の民事裁判権が及ばない事項であるか、行政府の高度に政治的かつ自由裁量にゆだねられた事項であり不適法な訴えであるとして訴えを却下した。
第二審(東京高裁平成11・7・23訟務月報第47巻第3号)
1、否定
2、主張自体失当として棄却
第一次厚木基地訴訟上告審判決と同じ判断のため省略。
<私見>
自衛隊機の差止請求について、最高裁は民事請求を不適法とし、それにかわる行政訴訟の類型をそれを「ともかく」の述べ、明確に提示していない点に不満を覚える。救済方法としては橋元裁判官のいう無名抗告訴訟が妥当であると思う。
また、米軍機の差止請求については、直接、米軍基地を訴えられない以上、少なくとも緊急の場合には、本件の如き立場にあるYに対しても地位協定上の要望権の行使を請求しうると考える。Xの求める状態を実現するにはやはり外交交渉は欠かせないと思われる。
<参照条文>
自衛隊法
(長官の指揮監督権)
第8条 長官は、内閣総理大臣の指揮監督を受け、自衛隊の隊務を統括する。
ただし、陸上幕僚長、海上幕僚長又は航空幕僚長の監督を受ける部隊及び機
関(以下「部隊等」という。)に対する長官の指揮監督は、それぞれ当該幕僚長
を通じて行うものとする。
(航空法等の適用除外)
第107条 航空法中第十一条、第二十八条第一項及び第二項、第三十四条第二項、第三十八条第一項、第五十七条から第五十九条まで、第六十五条、第六十六条、第八十六条、第八十九条、第九十条並びに第百三十四条第一項及び第二項の規定は、自衛隊の使用する航空機及びその航空機に乗り組んで運航に従事する者並びに自衛隊が設置する飛行場及び航空保安施設については、適用しない。
2 航空法第四十九条から第五十一条までの規定は、自衛隊が設置する飛行場について準用する。この場合において、同法第四十九条第一項中「第四十条(第四十三条第二項において準用する場合を含む。)の告示」とあるのは「防衛庁長官の告示」と、同法第五十条中「当該飛行場の設置又は第四十三条第一項の施設の変更」とあるのは「当該飛行場の設置又は変更」と読み替えるものとする。
3 自衛隊の使用する航空機及びその航空機に乗り組んで運航に従事する者についての航空法第六章(第一項の規定により適用を除外される規定を除く。)の規定の適用については、政令で特例を定めることができる。
4 航空法第六十条から第六十四条まで、第七十六条、第七十六条の二、第七十九条から第八十一条まで、第八十二条第二項、第八十二条の二、第八十四条第二項、第八十八条、第九十一条、第九十二条(第一項第三号に係る部分に限る。)及び第九十九条の二第一項の規定は、第七十六条第一項の規定により出動を命ぜられた場合において、同法第七十九条から第八十一条までの規定は、第七十八条第一項若しくは第八十一条第二項の規定により出動を命ぜられた場合又は第八十三条第二項の規定により派遣を命ぜられた場合において、それぞれ政令で定めるところにより、自衛隊の航空機及び航空機に乗り組んで運航に従事する者並びに自衛隊の行なう同法第九十九条の二第一項に規定する行為については適用しない。
5 長官は、第一項及び前項の規定にかかわらず、自衛隊が使用する航空機の安全性及び運航に関する基準、その航空機に乗り組んで運航に従事する者の技能に関する基準並びに自衛隊が設置する飛行場及び航空保安施設の設置及び管理に関する基準を定め、その他航空機に因る災害を防止し、公共の安全を確保するため必要な措置を講じなければならない。
6 長官は、前項の規定による基準を定めようとする場合には、あらかじめ国土交通大臣と協議するものとする。
7 航空事故調査委員会設置法(昭和四十八年法律第百十三号)第三条の規定は、自衛隊の使用する航空機について発生した航空事故(自衛隊の使用する航空機が自衛隊以外の者が使用する航空機と衝突し、又は接触したことにより発生したものを除く。)については、適用しない。
8 長官は、航空事故の防止のために有益であると認める前項の航空事故に係る情報を航空事故調査委員会に提供するものとする。
日米安保条約
第一条(平和の維持のための努力)
1 締約国は、国際連合憲章に定めるところに従い、それぞれが関係することのある国際紛争を平和的手段によつて国際の平和及び安全並びに正義を危うくしないように解決し、並びにそれぞれの国際関係において、武力による威嚇又は武器の行使を、いかなる国の領土保全又は政治的独立に対するものも、また、国際連合の目的と両立しない他のいかなる方法によるものも慎むことを約束する。
2 締約国は、他の平和愛好国と共同して、国際の平和及び安全を維持する国際連合の任務が一層効果的に遂行されるように国際連合を強化することに努力する。
第二条(経済的協力の促進)
締約国は、その自由な諸制度を強化することにより、これらの制度の基礎をなす原則の理解を促進することにより、並びに安定及び福祉の条件を助長することによつて、平和的かつ友好的な国際関係の一層の発展に貢献する。締約国は、その国際経済政策におけるくい違いを除くことに努め、また、両国の間の経済的協力を促進する。
第三条(自衛力の維持発展)
締約国は、個別的に及び相互に協力して、持続的かつ効果的な自助及び相互援助により、武力攻撃に抵抗するそれぞれの能力を、憲法上の規定に従うことを条件として、維持し発展させる。
第四条(臨時協議)
締約国は、この条約の実施に関して随時協議し、また、日本国の安全又は極東における国際の平和及び安全に対する脅威が生じたときはいつでも、いずれか一方の締約国の要請により協議する。
第五条(共同防衛)
1 各締約国は、日本国の施政の下にある領域における、いずれか一方に対する武力攻撃が、自国の平和及び安全を危うくするものであることを認め、自国の憲法上の規定及び手続に従つて共通の危険に対処するように行動することを宣言する。
2 前記の武力攻撃及びその結果として執った全ての措置は、国際連合憲章第五十一条の規定に従つて直ちに国際連合安全保障理事会に報告しなければならない。その措置は、安全保障理事会が国際の平和及び安全を回復し維持するために必要な措置を執つたときは、終止しなければならない。
第六条(基地の許与)
1 日本国の安全に寄与し、並びに極東における国際の平和及び安全の維持の寄与するため、アメリカ合州国は、その陸軍、空軍及び海軍が日本国において施設及び区域を使用することを許される。
2 前記の施設及び区域の使用並びに日本国における合州国軍隊の地位は、千九百五十二年二月二十八日に東京で署名された日本国とアメリカ合州国との間の安全保障条約第三条に基づく行政協定(改正を含む。)に代わる別個の協定及び合意される他の取極により規律される。
日米地位協定
第2条(施設・区域の提供と返還)
1(a)合衆国は、相互協力及び安全保障条約第六条の規定に基づき、日本国内の施設
及び区域の使用を許される。個個の施設及び区域に関する協定は、第二十五条に
定める合同委員会を通じて両政府が締結しなければならない。「施設及び区域」
には、当該施設及び区域の運営に必要な現存の設備、備品及び定着物を含む。
(b)合衆国が日本国とアメリカ合衆国との間の安全保障条約第三条に基く行政協定
の終了の時に使用している施設及び区域は、両政府が(a)の規定に従って合意した施設及び区域とみなす。
2 日本国政府及び合衆国政府は、いずれか一方の要請があるときは、前記の取極を再
検討しなければならず、また、前記の施設及び区域を日本国に返還すべきこと又は新
たに施設及び区域を提供することを合意することができる。
3 合衆国軍隊が使用する施設及び区域は、この協定の目的のため必要でなくなつたと
きは、いつでも、日本国に返還しなければならない。合衆国は、施設及び区域の必要
性を前記の返還を目的としてたえず検討することに同意する。
4(a)合衆国軍隊が施設及び区域を一時的に使用していないときは、日本国政府は、
臨時にそのような施設及び区域をみずから使用し、又は日本国民に使用させるこ
とができる。ただし、この使用が、合衆国軍隊による当該施設及び区域の正規の
使用の目的にとつて有害でないことが合同委員会を通じて両政府間に合意された
場合に限る。
(b)合衆国軍隊が一定の期間を限つて使用すべき施設及び区域に関しては、合同委
員会は、当該施設及び区域に関する協定中に、適用があるこの協定の規定の範囲を
明記しなければならない。
第3条(施設・区域に関する合衆国の権利)
1 合衆国は、施設及び区域内において、それらの設定、運営、警護及び管理のため必
要なすべての措置を執ることができる。日本国政府は、施設及び区域の支持、警護及
び管理のための合衆国軍隊の施設及び区域への出入の便を図るため、合衆国軍隊の要
請があったときは、合同委員会を通ずる両政府間の協議の上で、それらの施設及び区
域に隣接し又はそれらの近傍の土地、領水及び空間において、関係法令の範囲内で必
要な措置を執るものとする。合衆国も、また、合同委員会を通ずる両政府間の協議の
上で前記の目的のため必要な措置を執ることができる。
2 合衆国は、1に定める措置を、日本国の領域への、領域からの又は領域内の航海、
航空、通信又は陸上交通を不必要に妨げるような方法によっては執らないことに同意
する。合衆国が使用する電波放射の装置が用いる周波数、電力及びこれらに類する事
項に関するすべての問題は、両政府の当局間の取極により解決しなければならない。
日本国政府は、合衆国軍隊が必要とする電気通信用電子装置に対する妨害を防止し又
は除去するためのすべての合理的な措置を関係法令の範囲内で執るものとする。
3 合衆国軍隊が使用している施設及び区域における作業は、公共の安全に妥当な考慮
を払って行なわなければならない。
第25条(合同委員会)
1 この協定の実施に関して相互間の協議を必要とするすべての事項に関する日本国政
府と合衆国政府との間の協議機関として、合同委員会を設置する。合同委員会は、特
に、合衆国が相互協力及び安全保障条約の目的の遂行に当たって使用するため必要と
される日本国内の施設及び区域を決定する協議機関として、任務を行なう。
2 合同委員会は、日本国政府の代表者一人及び合衆国政府の代表者一人で組織し、各
代表者は、一人又は二人以上の代理及び職員団を有するものとする。合同委員会は、
その手続規則を定め、並びに必要な補助機関及び事務機関を設ける。合同委員会は、
日本国政府又は合衆国政府のいずれか一方の代表者の要請があるときはいつでも直ち
に会合することができるように組織する。
3 合同委員会は、問題を解決することができないときは、適当な経路を通じて、その
問題をそれぞれの政府にさらに考慮されるように移すものとする。
憲法
第32条【裁判を受ける権利】
何人も,裁判所において裁判を受ける権利を奪はれない。
第81条【法令審査権と最高裁判所】
最高裁判所は,一切の法律,命令,規則又は処分が憲法に適合するかしないかを決定する権限を有する終審裁判所である
第98条【最高法規,条約及び国際法規の遵守】
(1)この憲法は,国の最高法規であつて,その条規に反する法律,命令,詔勅及び国務に関するその他の行為の全部又は一部は,その効力を有しない。
(2)日本国が締結した条約及び確立された国際法規は,これを誠実に遵守することを必要とする。
裁判所法
第三条(裁判所の権限) 裁判所は、日本国憲法に特別の定のある場合を除いて一切の法律上の争訟を裁判し、その他法律において特に定める権限を有する。
2 前項の規定は、行政機関が前審として審判することを妨げない。
3 この法律の規定は、刑事について、別に法律で陪審の制度を設けることを妨げない。
行政事件訴訟法
第3条(抗告訴訟)
1 この法律において「抗告訴訟」とは、行政庁の公権力の行使に関する不服の訴訟をいう。
2 この法律において「処分の取消しの訴え」とは、行政庁の処分その他公権力の行使に当たる行為(次項に規定する裁決、決定その他の行為を除く。以下単に「処分」という。)の取消しを求める訴訟をいう。
3 この法律において「裁決の取消しの訴え」とは、審査請求、異議申立てその他の不服申立て(以下単に「審査請求」という。)に対する行政庁の裁決、決定その他の行為(以下単に「裁決」という。)の取消しを求める訴訟をいう。
4 この法律において「無効等確認の訴え」とは、処分若しくは裁決の存否又はその効力の有無の確認を求める訴訟をいう。
5 この法律において「不作為の違法確認の訴え」とは、行政庁が法令に基づく申請に対し、相当の期間内になんらかの処分又は裁決をすべきにかかわらず、これをしないことについての違法の確認を求める訴訟をいう。
第4条(当事者訴訟)
この法律において「当事者訴訟」とは、当事者間の法律関係を確認し又は形成する処分又は裁決に関する訴訟で法令の規定によりその法律関係の当事者の一方を被告とするもの及び公法上の法律関係に関する訴訟をいう。
<補足>
空港における管理権の所在
空港騒音ないし航空機騒音に関する裁判例で問題とされた空港については、管理権の所在等により様々な類型があるため、法理論上区別して考察する必要がある。
Ⅰ空港整備法、同施行令にいう「空港」には三種類ある。
ⅰ第一種空港のうち、東京国際空港及び大阪国際空港は運輸大臣が、新東京国際空港は公団が設置、管理している。
ⅱ第二種空港(主要な国際航空路線に必要な飛行場で政令で定めるもの)には、新潟、福岡のように運輸大臣が設置、管理するものと、秋田のように運輸大臣が設置するが県が管理するものがある。
ⅲ第三種空港(地方的な航空運送に必要な飛行場で政令で定めるもの)は、地方公共団体が設置、管理する。
Ⅱ空港整備法にいう「空港」以外に民間の航空機の他、横田(米軍)、厚木(海上自衛隊及び米軍)、小松(航空自衛隊及び米軍)などの飛行場がある。
航空機の種類
他方、被害をもたらしている主たる原因たる航空機の種類に着目するときには、民間の航空機、自衛隊機、米軍機の3グループに分けることが出来る。
<参考文献>
原田尚彦 行政判例の役割
高木光 事実行為と行政訴訟
高木光 法学協会雑誌112巻3号138頁
大内俊身 法曹時報47巻10号157頁
畠山武道 公害・環境判例百選128頁
大塚直 ジュリスト1026号53頁
岡田雅夫 平成5年度重要判例解説(ジュリスト1046号)55頁
古城誠 法学教室156号106頁
阿部泰隆 行政救済の実効性63頁
遠藤博也 国家賠償法 中巻782頁
芝池義一 行政法総論講義
芝池義一 行政救済法講義
塩野宏 行政法Ⅱ
阿部泰隆・兼子仁・村上順
判例コンメンタール(特別法)国家賠償法322頁
田山輝明「厚木基地公害訴訟第二審判決」判評335号28頁
古城誠 時の判例 法学教室156号107頁
大内俊身 時の判例 ジュリスト1026号91頁
園部逸夫 現代行政と行政訴訟 24頁
原田尚彦 法曹時報44巻11号53頁