開発許可取消訴訟の原告適格              2002.11.7.

(最高裁平成9年1月28日第三小法廷判決)          担当:横田瑛子

 

【事実の概要】

平成4年2月24日にY(川崎市長・被告・被控訴人・被上告人)が都市計画法(平成4年法律第82号に基づく改正前のもの。以下「法」という。)29条に基づいて、マンション建設のための開発行為に対して開発許可を行った。そこで、当該許可にかかる急傾斜地である開発区域の下方又は上方の近接地に居住する住民Xら(原告・控訴人・上告人)が当該許可の取消を求めた。Xらは、本件開発許可には法33条1項14号の関係権利者の相当数の同意を得ていない違法があると主張したほか、本件開発行為によって起こり得る崖崩れ、地すべり又は土砂の流出により、その生命、身体、健康、精神及び生活に関する基本的権利並びに有効な生活環境を享受する権利を侵害されるおそれがあると主張した。

 

【第一審判決】 :訴え却下

「都市計画法29条は一般的な不服申立の規定を置いているのみであり、同法33条1項各号によって保護しようする権利ないし利益の対象や範囲の特定も困難であることを考えると、開発行為の許可制度が、個々人の個別具体的な権利、利益を保護しているものとは認め難い。」

 

【第二審判決】 :棄却  

第一審の判決を維持、引用

 

【最高裁判決】 :原判決破棄、地裁へ差戻し

1.「行政事件訴訟法9条は、取消訴訟の原告適格について規定するが、同条にいう当該処分の取消しを求めるにつき『法律上の利益を有する者』とは、当該処分により自己の権利若しくは法律上保護された利益を侵害され、又は必然的に侵害されるおそれのある者をいうのであり、当該処分を定めた行政法規が、不特定多数者の具体的利益を専ら一般的公益の中に吸収解消させるにとどめず、それが帰属する個々人の個別的利益としてもこれを保護すべきものとする趣旨を含むと解される場合には、かかる利益も右にいう法律上保護された利益に当たり、当該処分によりこれを侵害され又は必然的に侵害されるおそれのある者は、当該処分の取消訴訟における原告適格を有するものというべきである。そして、当該行政法規が、不特定多数者の具体的利益をそれが帰属する個々人の個別的利益としても保護すべきものとする趣旨を含むか否かは、当該行政法規の趣旨・目的、当該行政法規が当該処分を通して保護しようとしている利益の内容・性質を考慮して判断すべきである。」

 

2.「都市計画法33条1項7号の趣旨・目的、同号が開発許可を通して保護しようとしている利益の内容・性質等にかんがみれば、同号は、がけ崩れ等のおそれのない良好な都市計画の保持・形成を図るとともに、がけ崩れ等による被害が直接的に及ぶことが想定される開発区域内外の一定範囲の地域の住民の生命、身体の安全等を、個々人の個別的利益としても保護すべきものとする趣旨を含むものと解すべきである。そうすると、開発区域内の土地が同号にいうがけ崩れのおそれが多い土地等にあたる場合には、がけ崩れ等による直接的な被害を受けることが予想される範囲の地域に居住する者は、開発許可の取消しを求めるにつき法律上の利益を有する者として、その取消訴訟における原告適格を有すると解するのが相当である。」

 

【判例の意義】 

開発許可取消訴訟における周辺住民の原告適格に関する初めての最高裁判決であり、柔軟な法解釈によって原告適格に対し肯定的な判断がなされた。

 

論点

開発区域周辺住民の開発許可取消訴訟の原告適格はあるか

 

【原告適格とは】

取消訴訟において処分性が認められた場合にその処分の取消しを求めて出訴することのできる資格

 

【学説】

行政訴訟法9条の「法律上の利益」の解釈をめぐっての対立

     「法律上保護された利益」説  

     当該処分の根拠法規が保護している利益を有している者

     処分の根拠となる個々の行政法規の解釈により決まる

     「法律上保護に値する利益」説

         裁判で保護に値する利益を有している者

         実定法意の解釈から解放

【判例理論】

ジュース訴訟判決(最判昭和53・3・14民集32巻2号211頁)

「法律上の利益を有する者」とは、当該処分により自己の権利若しくは法律上保護された利益を侵害され又は必然的に侵害されるおそれのある者をいい、「法律上保護された利益」とは、行政法規が私人等権利主体の個人的利益を保護することを目的として行政権の行使に制約を課していることにより保障されている利益であって、それは、行政法規が他の目的、特に公益の実現を目的として行政権の行使に制約を課している結果たまたま一定の者が受けることになる反射的利益とは区別されるべきものである。

⇒として、「法律上保護された利益」説の立場を取ることを明示して以来、この立場を堅持する。しかし「法律上保護された利益」説という判断枠組みの中で、最高裁判例は変化をみせる。

 

長沼ナイキ基地訴訟(最判昭和57・9・9民集36巻9号1679頁)

  当該処分を定めた行政法規が、不特定多数者の具体的利益をもっぱら一般的公益の中に吸収解消させるにとどめず、それが帰属する個々人の個別的利益としてもこれを保護すべきものとする趣旨を含むと解される場合には、かかる利益も「法律上保護された利益」に当たり、当該処分によりこれを侵害され又は必然的に侵害されるおそれのある者は、当該処分の取消訴訟における原告適格を有する。

 

新潟空港訴訟(最判平成元・2・17民集43巻2号56頁)

  当該行政法規が不特定多数者の具体的利益をそれが帰属する個々人の個別的利益としても保護すべきものとする趣旨を含むか否かは、当該行政法規及びそれと目的を共通する関連法規の関連規定によって形成される法体系の中において、当該処分の根拠規定が、当該処分を通して右のような個々人の個別的利益をも保護すべきものとして位置付けられていると見ることができるかどうかによって決すべきである。

⇒と、原告適格の判断基準を「当該行政法規及びそれと目的を共通する関連法規の関係規定によって形成される法体系」とした。

 

もんじゅ原子炉訴訟(最判平成4・9・22民集46巻571頁)

  当該行政法規が、不特定多数者の具体的利益をそれが帰属する個々人の個別的利益としても保護すべきものとする趣旨を含むか否かは、当該行政法規の趣旨・目的、当該行政法規が当該処分を通して保護しようとしている利益の内容・性質等を考慮して判断すべきである。

⇒と、以前の最高裁判決を引用した上で、原告適格の有無を判断する場合には、実定法の趣旨・目的だけでなく、被害者利益の内容・性質も考慮されることを示した。

 

⇒ このように現在の最高裁判判例は「法律上保護された利益」説を維持しつつ、柔軟な解釈により原告適格を拡大する流れになっている。

 

【開発許可処分の取消訴訟の原告適格に関する従前の下級審裁判例】

 ①静岡地裁昭和56・5・8判決

「都市計画法29条の開発行為の許可の制度は、同法の目的とする都市の健全な発展と秩序ある整備という公共の利益の実現のためになされるものであり、付近住民の権利若しくは具体的利益を直接保護したものではない」 として33条1項各号の開発許可基準の個別的内容を検討することなく、原告適格を否定した。

 

②宇都宮地裁平成4・12・16判決

    「都市計画法33条においては、揮発許可の基準が定められており、そこでは…周辺地域の環境保全に関連する許可基準規定が存するが、同条及びこれに関する都市計画施行令、同法施行規則の諸規定において、環境基準に関する具体的な定めが設けられているわけでもなく、結局、右開発許可基準に関数規定が、周辺土地所有者、住民の生活環境に関わる個人的な利益を保障しようとしたものと解することはできず、むしろ、一般的、抽象的に周辺地域の良好な生活環境を一般的公益として配慮した規定にとどまると解する」「原告らの主張する生活環境上の利益は、…反射的利益ないし事実上の利益に過ぎない」として、原告適格を否定した。 

     原告適格について「法律上保護された利益」説をとっている。

     当初:「法律上保護された利益」とは、当該処分法規が私人等の権利主体の個人的利      益を保護することを目的として行政権の行使に制約を課していることにより保護される利益であり、公益の実現を目的として行政権の行使に制約を課している結果たまたま一定の者が受けることとなる利益である反射的利益ないし事実上の利益とは区別され(当該処分の根拠規定が私益保護か公益保護かの区別)、結果として原告適格を否定される。

  最近:当該処分の根拠法規が第三者に対して一般的公益を保護する公益保護規定としてはたらくと共に第三者の個々人の個別的利益としてもこれを保護する私益保護規定としてもはたらく趣旨である場合があることを述べている判決があるが、原告適格が認められたわけではない。

 

【本判決の判断】

 本判決は、もんじゅ訴訟を引用したものである。

 

◎ 律上保護された利益説をとる。

◎ 当該行政法規が、不特定多数者の具体的利益を専ら一般公益の中に解消させるにとどめず、それが帰属する個々人の個別的利益としてもこれを保護すべきものとする趣旨を含むかどうか判断する。

◎ 当該行政法規の趣旨・目的、保護しようとしている利益の内容・性質等を考慮する。

 

 

これを本件に当てはめて検討してみる。

       開発許可の根拠法規である都市計画法33条等が周辺住民個々人の個別的利益を保護する趣旨を含むか否か。

 ②根拠法規の趣旨・目的、開発許可を通して保護しようとしている利益の内容・性質等を考慮して判断

 

都市計画法3317

   許可基準:開発区域内の土地が、地盤の軟弱な土地、がけ崩れや出水のおそれが多い土地その他これに類する土地であるときは、地盤の改良等安全措置が開発設計に盛り込まれていること

= 開発区域周辺の安全の保護も目的に含むと解される。

       

? 一般的な公益としての地域の安全確保にとどまるのか、当該地域の住民の生命,身体の安全といった個人的な利益をも保護する趣旨が含まれているのか

 

もんじゅ判決原子炉等規制法・・・の規定は原子炉施設の付近に居住する者は、その生命,身体等に直接的かつ重大な被害を受けると者と想定されるという被害の性質を考慮して定められているとした上、周辺住民の生命,身体の安全を個々人の個別的利益としても保護している。

新潟空港判決航空機騒音障害の被害者は、飛行場周辺の一定地域的範囲の住民に限定され、被害の特質を考慮要素の一つとして、周辺住民の個人的利益の保護を含む。

 

 がけ崩れ等が起きた場合における被害は、開発区域内のみならず開発区域に近接する一定範囲の地域に居住する住民に直接及ぶことが予想され、周辺住民の生命,身体の安全等という公益には容易に吸収解消され難い個人の利益を保護する趣旨を含んでいるといえる。

また、法33条1項7号に関する技術的細目を定める法施行令、法施行規則の内容をみると、かなり具体的かつ詳細なものとされており、保護対象が公益にとどまらず、周辺住民の安全という個別的な利益をも含んでいるといえる。

 法33条1項7号は、一定範囲の開発区域の周辺住民個人的利益を保護する趣旨を含む。つまり原告適格を有すると解釈できる。

* 新潟空港訴訟判決から「法律上保護された利益」の「法律」を当該処分の根拠規定以外の関係規定も含むことになったが、この関係規定がないからといって、原告適格を否定されるわけではない。また、関連規定に個別的利益を保護する趣旨が含まれていなくても、根拠規定、関連規定の一部から個別的利益を保護する趣旨が読み取れれば原告適格は肯定される。

 

 保護対象となっている住民の範囲をどう決するか

 

 新潟空港訴訟やもんじゅ訴訟と同様の手法をとり、被害の直接性、重大性を基準として考え、安全設計に問題があればがけ崩れや出水等により生命、身体等に直接的な被害を予想される範囲の地域に居住する者が原告適格を有するといえる。

* この考えからすると、がけ崩れ等の被害が直接及ばないと想定される地域の住民は原告適格を否定される。

・生命、身体の安全等という保護法益の重要性、被害の重大性が指標になっていることから、「法律上保護された利益説」に立ちながらも「法律上保護に値する利益説」に接近しているという意見がある。

 

 都市計画法33条1項14号

    私法上の権限を取得しない限り開発行為等をすることはできないから、開発行為の施行等につき相当程度の見込みがあることを許可の要件とすることにより、無意味な結果となる開発許可の申請をあらかじめ制限するために設けられているもの

= 当該開発行為の施行等の妨げになる権利を有する者個々人の権利を保護する趣旨を含むものではない。つまり原告適格を有さないと解される。

 

⇔ 都市計画法42条1項によると、同法36条3項の工事完了公告があった後は、何人も

開発許可を受けた開発区域内では制限されることになり、同意をしていない開発行為関係権利者も制限を受ける。本件の14号の同意を主張する一部の原告には、所有権に基づき私法上の請求権は行使できるので、権利・利益の保護は一応図られている。しかし、不同意の開発行為関係権利者に対して、補償規定があるわけではないので、開発区域内に所有権を有するものにとっては、14号は状況によっては原告適格を認める場合があるのではないか。(金子)

 

【本件の原告適格の判定】

     人の生命・身体の安全の保護にかかわること

     下位法令によって災害防止措置につき具体的かつ詳細な審査基準が設けられていること

     被害が及ぶ範囲が特定できること

 

【課題】

新潟空港訴訟やもんじゅ事件訴訟からの流れで原告適格を拡大しているが、柔軟な法解釈を維持できるような判断基準をさらに具体化する必要がある。(山下)

 

【私見】

 最高裁の考えに賛成。

法律上保護に値する利益説のように具体的事実のみに着目しているわけでもなく、直接的な被害を被るおそれのある者のみ、かつ事案に関わる規定の中に個人的利益の保護を趣旨と取れる内容があればそれを根拠とするという点で原告適格を認める要件が存在しているため、原告適格を認めても良いと考える。

 

 

 

≪参考条文≫

行政事件訴訟法
第九条(原告適格) 処分の取消しの訴え及び裁決の取消しの訴え(以下「取消訴訟」という。)は、当該処分又は裁決の取消しを求めるにつき法律上の利益を有する者(処分又は裁決の効果が期間の経過その他の理由によりなくなつた後においてもなお処分又は裁決の取消しによつて回復すべき法律上の利益を有する者を含む。)に限り、提起することができる。

 

都市計画法(平成四年法律第八二号による改正前のもの)

 第二十九条 市街化区域又は市街化調整区域内において開発行為をしようとする者は、あらかじめ、建設省令で定めるところにより、都道府県知事の許可を受けなければならない。ただし、次に掲げる開発行為については、この限りではない。

 一 市街化区域において行なう開発行為で、その規模が政令で定める規模未満であるもの

 二 市街化調整区域内において行なう開発行為で、農業、林業若しくは漁業の用に供する政令で定める建築物又はこれらの業務を営む者の居住の用に供する建築物の建築の用に供する目的で行なうもの

三 駅舎その他の鉄道の施設、社会福祉施設、医療施設、学校教育法(昭和二十二年法律第二十六号)による学校(大学、専修学校及び各種学校を除く。)、公民館、変電所その他これらに類する政令で定める公益上必要な建築物の建築の用に供する目的で行う開発行為

四 国、都道府県、地方自治法(昭和二十二年法律第六十七号)第二百五十二条の十九第一項の指定都市(以下単に「指定都市」という。)、都道府県若しくは指定都市がその組織に加わつている一部事務組合若しくは港務局又は都道府県若しくは指定都市が設置団体である地方開発事業団が行なう開発行為

五 都市計画事業の施行として行なう開発行為

六 土地区画整理事業の施行として行なう開発行為

七 市街地再開発事業の施行として行なう開発行為

八 住宅街区整備事業の施行として行なう開発行為

九 公有水面埋立法(大正十年法律第五十七号)第二条第一項の免許を受けた埋立地であつて、まだ同法第二十二条第二項の告示がないものにおいて行なう開発行為

十 非常災害のため必要な応急措置として行なう開発行為

十一 通常の管理行為、軽易な行為その他の行為で政令で定めるもの

2 都市計画区域及び準都市計画区域外の区域内において、それにより一定の市街地を形成すると見込まれる規模として政令で定める規模以上の開発行為をしようとする者は、あらかじめ、国土交通省令で定めるところにより、都道府県知事の許可を受けなければならない。ただし、次に掲げる開発行為については、この限りでない。
 一  農業、林業若しくは漁業の用に供する政令で定める建築物又はこれらの業務を営む者の居住の用に供する建築物の建築の用に供する目的で行う開発行為
 二  前項第三号から第五号まで及び第九号から第十一号までに掲げる開発行為
 3  開発区域が、市街化区域、区域区分が定められていない都市計画区域、準都市計画区域又は都市計画区域及び準都市計画区域外の区域のうち二以上の区域にわたる場合における第一項第一号及び前項の規定の適用については、政令で定める。

 

第三十三条  都道府県知事は、開発許可の申請があつた場合において、当該申請に係る開発行為が、次に掲げる基準(第四項の条例が定められているときは、当該条例で定める制限を含む。)に適合しており、かつ、その申請の手続がこの法律又はこの法律に基づく命令の規定に違反していないと認めるときは、開発許可をしなければならない。

 開発区域内の土地が、地盤の軟弱な土地、がけ崩れ又は出水のおそれが多い土地その他これらに類する土地であるときは、地盤の改良、擁壁の設置等安全上必要な措置が講ぜられるように設計が定められていること。

十四  当該開発行為をしようとする土地若しくは当該開発行為に関する工事をしようとする土地の区域内の土地又はこれらの土地にある建築物その他の工作物につき当該開発行為の施行又は当該開発行為に関する工事の実施の妨げとなる権利を有する者の相当数の同意を得ていること。

 

(開発許可を受けた土地における建築等の制限)
第四十二条  何人も、開発許可を受けた開発区域内においては、第三十六条第三項の公告があつた後は、当該開発許可に係る予定建築物等以外の建築物又は特定工作物を新築し、又は新設してはならず、また、建築物を改築し、又はその用途を変更して当該開発許可に係る予定の建築物以外の建築物としてはならない。ただし、都道府県知事が当該開発区域における利便の増進上若しくは開発区域及びその周辺の地域における環境の保全上支障がないと認めて許可したとき、又は建築物及び第一種特定工作物で建築基準法第八十八条第二項の政令で指定する工作物に該当するものにあつては、当該開発区域内の土地について用途地域等が定められているときは、この限りでない。

都市計画法施行令(昭和四十四年六月十三日政令第百五十八号)                   第二十八条  法第三十三条第二項に規定する技術的細目のうち、同条第一項第七号に関するものは、次に掲げるものとする。
 一  開発区域内の地盤が軟弱である場合には、地盤の沈下又は開発区域外の地盤の隆起が生じないように、土の置換え、水抜きその他の措置が講ぜられていること。
 二  開発行為によつてがけが生じる場合には、がけの上端に続く地盤面は、特別の事情がない限り、そのがけの反対方向に雨水その他の地表水が流れるように勾配がとられていること。
 三  切土をする場合において、切土をした後の地盤にすべりやすい土質の層があるときは、その地盤にすべりが生じないように、くい打ち、土の置換えその他の措置が講ぜられていること。
 四  盛土をする場合には、盛土に雨水その他の地表水の浸透によるゆるみ、沈下又は崩壊が生じないように、締固めその他の措置が講ぜられていること。
 五  著しく傾斜している土地において盛土をする場合には、盛土をする前の地盤と盛土とが接する面がすべり面とならないように、段切りその他の措置が講ぜられていること。
 六  開発行為によつて生じたがけ面は、崩壊しないように、国土交通省令で定める基準により、擁壁の設置、石張り、芝張り、モルタル吹付けその他の措置(がけ面の保護)
                                                            都市計画法施行規則(昭和四十四年八月二十五日建設省令第四十九号)            第二十三条  切土をした土地の部分に生ずる高さが二メートルをこえるがけ、盛土をした土地の部分に生ずる高さが一メートルをこえるがけ又は切土と盛土とを同時にした土地の部分に生ずる高さが二メートルをこえるがけのがけ面は、擁壁でおおわなければならない。ただし、切土をした土地の部分に生ずることとなるがけ又はがけの部分で、次の各号の一に該当するもののがけ面については、この限りでない。
 一  土質が次の表の上欄に掲げるものに該当し、かつ、土質に応じ勾配が同表の中欄の角度以下のもの

土質

擁壁を要しない勾配の上限

擁壁を要する勾配の下限

軟岩(風化の著しいものを除く。)

六十度

八十度

風化の著しい岩

四十度

五十度

砂利、真砂土、関東ローム、硬質粘土その他これらに類するもの

三十五度

四十五度


二  土質が前号の表の上欄に掲げるものに該当し、かつ、土質に応じ勾配が同表の中欄の角度をこえ同   表の下欄の角度以下のもので、その上端から下方に垂直距離五メートル以内の部分。この場合において、前号に該当するがけの部分により上下に分離されたがけの部分があるときは、同号に該当するがけの部分は存在せず、その上下のがけの部分は連続しているものとみなす。
 2  前項の規定の適用については、小段等によつて上下に分離されたがけがある場合において、下層のがけ面の下端を含み、かつ、水平面に対し三十度の角度をなす面の上方に上層のがけ面の下端があるときは、その上下のがけを一体のものとみなす。
 3  第一項の規定は、土質試験等に基づき地盤の安定計算をした結果がけの安全を保つために擁壁の設置が必要でないことが確かめられた場合又は災害の防止上支障がないと認められる土地において擁壁の設置に代えて他の措置が講ぜられた場合には、適用しない。
 4  開発行為によつて生ずるがけのがけ面は、擁壁でおおう場合を除き、石張り、芝張り、モルタルの吹付け等によつて風化その他の侵食に対して保護しなければならない。

(擁壁に関する技術的細目)
第二十七条  第二十三条第一項の規定により設置される擁壁については、次に定めるところによらなければならない。
 一  擁壁の構造は、構造計算、実験等によつて次のイからニまでに該当することが確かめられたものであること。
  イ 土圧、水圧及び自重(以下この号において「土圧等」という。)によつて擁壁が破壊されないこと。
  ロ 土圧等によつて擁壁が転倒しないこと。
  ハ 土圧等によつて擁壁の基礎がすべらないこと。
  ニ 土圧等によつて擁壁が沈下しないこと。
 二  擁壁には、その裏面の排水をよくするため、水抜穴が設けられ、擁壁の裏面で水抜穴の周辺その他必要な場所には、砂利等の透水層が設けられていること。ただし、空積造その他擁壁の裏面の水が有効に排水できる構造のものにあつては、この限りでない。
 2  開発行為によつて生ずるがけのがけ面を覆う擁壁で高さが二メートルを超えるものについては、建築基準法施行令(昭和二十五年政令第三百三十八号)第百四十二条(同令第七章の準用に関する部分を除く。)の規定を準用する。

≪参考文献≫

民商法雑誌1173442

自治研究74418頁(上)、74549頁(下)

法曹時報495259

行政救済法Ⅰ

法学教室