和田ゼミ(学習院大学経済学部)

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ゼミ第V世代、また発展 (March 31, 2025)

例年通り過去1年について要約します。この冬も他大学合同ゼミ(早稲田大学での6大学14ゼミ合同と、関西学院大学加藤雅俊ゼミ合同)に参加させていただきました。とても楽しくとても有益でした。

他大学や卒業生に聞いていただいた3年生研究の概要は以下のとおり。

今年もまた新募集の時期を迎え、参考にしていただければ、ということで学内アクセス限定で6個のプレゼン動画を見られるようにしてあります。

「待機児童問題に対する政策の有効性」門馬奈那
問題:保育所の待機児童に対する新子育て安心プランは実際に待機児童を減少させたか。
手法:平均的な規模の地方都市の中でプラン採択市を処置群、非採択市を対照群とし、市の待機児童数を被説明変数とした差の差の分析。東洋経済の都市データパック2019−2023を利用。平行仮定もチェック。
結果:待機児童数の減少が有意にみられ、採択による政策効果が肯定された。他に、コントロール変数の保育施設数が負の係数なのは当然ながら、女性労働力率の係数も負になったのは、その2つのコントロール変数間の正の相関が影響したのかもしれない。

「東証vs名証:その違いと名証が果たす存在意義を探る」田中裕翔
問題:名古屋証券取引所は東証より低コスト。名証IPOを選ぶ企業の特徴は何か。IPO後には経営成果への影響があるか。
手法:まず名証・東証の上場選択についてロジステック回帰。ついで、IPO企業と非IPO企業の間でIPOに関し傾向スコアマッチングを行い、IPO処置効果を調べた(名証と東証それぞれについて)。
結果:名証IPO企業は東証に比べて資本金額が少なく企業年齢が高くなってからIPOしている。東証も名証もIPO後には資本金や従業員数が増加するIPO処置効果がみられた。利益率の増加は有意ではなかった。

「ふるさと納税で人と農村をお金持ちに」石原元樹
問題:ふるさと納税をどのような自治体が集めているのか。市町村の税収格差を埋めることができているか、どんな場合にか。
手法:総務省のふるさと納税に関する現況調査等データと東洋経済・都市データパックから2019−2022市町村単位パネルデータについて回帰分析
結果:農業産出額が多い自治体がふるさと納税が多かった。裏返すと自主財源比率が低く農業産出額が低い自治体はふるさと納税では税収格差を救えていない傾向。

「在留外国人による犯罪の現状とその対策」小助川巧
問題:地域ごとの犯罪率は、所得や外国人数と関係があるのか。都道府県単位の分析により所得と犯罪率に正の相関があり二次項係数は負という先行研究がある。
手法:東京都内の市区ごと、凶悪犯、粗暴犯、侵入窃盗、非侵入窃盗、その他、という犯罪区分の犯罪件数を被説明変数とした5カ年パネルデータ分析。
結果:粗暴犯を除き所得とは負の相関、二次項係数が正。つまり先行研究とは逆で、所得が高いほうが犯罪が少なく、ただし所得がもっとも高い地域で少し増加。外国人に関しては、凶悪犯粗暴犯の件数を被説明変数としたとき外国人人口が正の係数、しかし窃盗やその他は負の係数で、総合件数だと外国人人口は負で有意な係数となった。

「持続可能な社会のための企業の活動をアピールするためには?」園部葉月
問題:企業のCSRレポートは誰に向けて書かれているのか。
手法:サービス業に属する上場24社のCSR報告書2021−2023の頻出語分布をK-means法でクラスター分析。特徴語について因子分析。東洋経済のCSRデータに含まれる「社会貢献担当部署」の有無との相関も検討した。
結果:CSR報告書の頻出語クラスタリングから、廃棄や環境など環境に重点を置くタイプと、価値や社会など経営課題に重点を置くタイプが観察された。CSR報告書が主に念頭におくステークホルダーには少なくとも2種類分けられることがわかった。因子分析も踏まえ、CSRレポートを顧客に向けたものと考えられる企業と、株主など経営に関わるステークホルダーに向けたものと考えられるものと解釈できた。顧客中心レポートの企業は、社会貢献担当部署の設置割合が高かった。

「フードバンク活動の活性化に向けて」中川琴羽
問題:フードバンク団体数は飛躍的に増えて来ているが、都道府県でみると愛知や新潟など多くの団体が存在する県とそうでない県の差が激しい。食品取り扱い量はさらに大差がある。フードバンク活動の活性化要因は何か。
手法:農林水産省のフードバンク活動団体一覧データと東洋経済の都市データからパネルデータ分析。愛知県セカンドハーベスト名古屋、東三河フードバンク、新潟県フードバンク連絡協議会、NPO法人フードバンクとやま、などの方々にインタビュー調査。
結果:県内の中核的なフードバンクが存在し、有効に機能していた点が愛知も新潟にも共通していた。

以上のように、因果推論も使ったデータ分析のほか、頻出語をプログラミングにより収集し言語解析する、またコロナ禍をはさんで久しぶりにインタビュー主体の探索を行う、など複数アプローチで研究が行えたのがよかったです。

他に、4年生ではテニス審判機器の導入が時価総額に与えたイベントスタディ研究のような卒論があったり、卒業後にも研究を続け、外部研究会で発表している卒業生がいたり、それぞれ意欲と目標に応じて探求が続いていること、うれしく感じています。

春休みに研究作業を始め、就活が本格化する3年生の夏には概要ができ夏の合宿で一つの区切りになるスケジュールの人が多くなってきています。以前よりだいぶ前倒しですが、3年から就活の時代なので、もう仕方ないかなと。合理的な時間の使い方には学生さんも理解があり、柔軟に意欲をもって取り組んでくれています。参加学生と卒業生のおかげで分厚い活動ができることに感謝至極。

卒業生と現役学生のつながりとして、本年度も7月にさまざまな業界から卒業生が集まってお話しを対面でしてもらえました。

それだけでなく、化学メーカーやホテル業の経営、スタートアップ関連、などの先輩をコンサルにいる先輩がインタビューするzoom講演会も何回もしてもらえて、この卒業生の厚みと力にすごく助けられ、勉強になっています。ゼミの先輩達が同じ目線に立って、違う価値観から、それぞれの選択を伝えてくれるのは素晴らしい経験でした。

この前までの年は、過去ページをご覧下さい。




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Last updated: March 31, 2025