民法判例演習1
  民法総論・物権論

担 当 者 単 位 数 配当年次 学 期 曜 日 時 限
水野  謙 教授 2 2 第1学期 2

授業の目的・内容

本演習では、法学未修者及び既修者を対象に、民法入門2の講義内容と対応させながら、民法総則と物権法の判例を検討する。判例の基本的な読み方(判例の準則たりうる部分はどこかなど)をレクチャーしたうえで、事案との関係でどのような解決が望ましかったのかという観点から、判例を批判的に考察する訓練を行う。また、重要論点に関する判例を網羅的に検討することによって、当該論点の理解を深める機会を提供する。さらに、新しい論点を扱う下級審の判決も取り上げ、既存の知識をどのように連関させて新しい問題に対処したらよいのかについても検討する。

授業計画

本授業の趣旨・目的、および、授業進行上の方針・方法について説明
判例の基本的な読み方:最判昭和61・11・20民集40巻7号1167頁(不倫関係にある女性に対する包括遺贈と公序良俗)――事案の正確な把握 先例との比較 判決の理論的インパクト
判例の批判的検討・その1――時効の援用:最判昭和42・10・27民集21巻8号2110頁(譲渡担保提供者・物上保証人) 最判平成11・10・21民集53巻7号1190頁(後順位抵当権者)
判例の批判的検討・その2――即時取得:大判大正5・5・16民録22輯961頁(占有改定と即時取得) 最判平成12・6・27民集54巻5号1737頁(民法194条と盗品等の使用収益権)
重要論点・その1――権利能力なき社団:最判昭和32・11・14民集11巻12号1943頁(構成員の持分権、財産分与請求権) 最判昭和47・6・2民集26巻5号957頁(財産の帰属、登記の方法) 最判昭和48・10・9民集27巻9号1129頁(社団債務と構成員の個人責任)、最判昭和44・11・4民集23巻11号1951頁(代表者の個人責任)
重要論点・その2――第三者保護と対抗要件の要否:最判昭和44・5・27民集23巻6号998頁(虚偽表示) 最判昭和49・9・26民集28巻6号1213頁(詐欺取消前の第三者) 大判昭和17・9・30民集21巻911頁(詐欺取消後の第三者) 大判大正10・5・17民録27輯929頁(法定解除前の第三者)
重要論点・その3――権限踰越による表見代理:最判昭和51・6・25民集30巻6号665頁(正当理由――相手方が電気器具販売会社) 最判昭和44・12・18民集23巻12号2476頁(夫婦の日常家事に関する代理権) 最判昭和60・11・29民集39巻7号1760頁(理事の代表権の制限)
重要論点・その4――無権代理と相続:最判昭和48・7・3民集27巻7号751頁(本人の無権代理人相続――相続する無権代理人の責任の内容) 最判平成5・1・21民集47巻1号265頁(無権代理人の本人共同相続) 最判平成10・7・7民集52巻5号1296頁(本人による追認拒絶後の無権代理人の本人相続)
重要論点・その5――相続と登記:最判昭和38・2・22民集17巻1号235頁(共同相続)最判昭和42・1・20民集21巻1号16頁(相続放棄) 最判昭和46・1・26民集25巻1号90頁(遺産分割) 最判平成14・6・10判時1791号59頁(「相続させる」遺言による不動産の取得)
10重要論点・その6――民法177条の第三者:大連判明治41・12・15民録14輯1276頁(登記欠缺を主張する正当な利益を有する者) 最判平成8・10・29民集50巻9号2506頁(背信的悪意者からの転得者) 最判昭和49・3・19民集28巻2号325頁(賃借人に対する賃料請求・解除)
11重要論点・その7――加工・附合:最判昭和44・7・25民集23巻8号1627頁(賃借人のした増築) 最判平成6・1・25民集48巻1号18頁(建物の合体と抵当権) 最判昭和54・1・25民集33巻1号26頁(建築途中の建物への第三者の工事)
12重要論点・その8――信義則:最判平成13・3・27民集55巻2号434頁(普通契約約款による取引と信義則――ダイヤルQ2の通話料) 最判昭和45・5・21民集24巻5号393頁(消滅時効完成後の債務承認――時効援用権の喪失を肯定) 最判昭和51・5・25民集30巻4号554頁(消滅時効の援用が許されない場合)
13新しい論点・その1――法人の「目的の範囲」に関する近時の動向:最判平成8・3・19民集50巻3号615頁(南九州税理士会事件) 前橋地判平成8・12・3判時1625号80頁・東京高判平成11・3・10判時1677号22頁・最判平成14・4・25判時1785号31頁(群馬司法書士会事件)
14新しい論点・その2――要素の錯誤に関する近時の動向:仙台地判平成8・2・28判時1614号118頁(ファイナンスリース契約の連帯保証契約) 高松高判平成11・11・18判時1721号85頁(商工ローン融資の限度額保証)
15本授業のまとめ

毎回取り上げる判例は、いずれも最重要論点に関わるものであるが、判例演習である以上、事案との関係で判例が持つ意義を徹底的に理解することに力点が置かれる。そのためには事案も含めて、各受講者が判例を周到に予習することが求められる。

授業方法

あらかじめ受講者は指定された判例を注意深く読んでこなければならない。各回の冒頭に受講者が適切な予習をしてきたかについて確認するための小テストを行う。判例の意義について、質疑応答形式で演習を進める。授業終了後に、演習で取り上げた判例のどれか1つを選んでレポート(200字で15枚前後)を作成してもらう。

成績評価の方法

小テストの成績と教室での質疑応答の様子、さらにレポートの結果を合わせて評価する。

教科書

教材である判例はあらかじめ配布する。

参考文献

参考文献については、授業の中で必要に応じて指示する。

その他

取り上げる判例は、必要に応じて、年度ごとに見直しを図る予定である。