日本政治思想史I
近世を中心に

担 当 者 単 位 配当年次 開講期間 曜 日 時 限
中田 喜万 助教授 2 1~4 第1学期 3

授業の目的・内容

いわゆる政治の観念が西洋の古典文化の中から生じたとすると、その他の文化の中にみるべき政治の伝統などあろうはずがない、あるのは西洋文化をどれだけ精確に受容できたかだけだ、ということになる。これも一つの重要な観点であろうし、実際、世界は今や西洋の(ただし決してアメリカの一部の勢力に限っていうわけではない!)価値基準に付き従って動いているようにみえる。
しかしながら、その政治の観念について詳しく考えようとするならば、西洋由来の政治学の外にある概念を一方で保持し、比較してみることが有効な場合もあるだろう。この講義の目的の一つは、そこにある。従って取り扱うのは近現代でなく、ほとんどそれ以前の日本(を含めた漢字文化圏)となる。研究史的事情により、便宜的におよそ近世、江戸時代を主とし、その内在的理解をめざすことになるが、その際に異質な他者である政治学との対話に留意したい。
このことから、対象を日本に限る理由もない。日本思想が一個の完結した体系を成していないことが明らかである以上、むしろ日本に限ってしまうのは全く妥当でない。近世を考える場合、中国宋代以降の儒学の文脈を欠かすことができない。そもそも「日本」という概念自体、歴史上うつりかわる。
ところで、現代日本からするとおよそ異質(ことによると近代西洋よりも異質)にみえる近世日本の出来事が、時折身近に思われてしまうことがある。それが単なる自己投影でないとすれば、より深刻な問題であろう。自由と民主主義とを自任している日本政治の根底に潜む問題がもしかして何かあるのか、考えてみることもこの講義の目的の一つ(ただし副次的)である。
そんなに肩肘張らずとも、昔の珍しい話は率直にいって面白い。好事家的関心の満足も目的の一つである。無用の用もあるということである。

授業計画

導入 例えば「日本」について、「政治」について、思想史について
時代区分:とりわけ「近世」「近代」について
近世思想の諸前提:古典の選出、宗教の統制
「職」・「家」・「役」:とりわけ武家について
近世の「公儀」
「天」をめぐって、また「道」
「理」と「気」:程朱学の概観
近世日本の儒者
兵学的傾向、そして武士道論
10 脱仏教的傾向、そして近世神道論 山崎闇斎
11 伊藤仁斎
12 荻生徂徠
進行が予定と若干異なることがある。
講義内容に関する質問・意見等は随時受付。

授業方法

時間の途中で、集中力を維持するため、数分の休憩をとることがある(特に真夏日)。

成績評価の方法

第1学期(学期末試験)
専ら論述試験による(非常に難しい)。希望者はレポートを提出することができる。出欠席は確認しない。

教科書

平石直昭日本政治思想史 ~近世を中心に~』(放送大学教材改訂版、放送大学教育振興会2001
前年度までの教科書のため、品切れの場合は悪しからず。

参考文献

源了圓徳川思想小史』(中公新書中央公論社1973
溝口雄三公私』(一語の辞典三省堂1996
平石直昭』(一語の辞典三省堂1996
伊原弘・小島毅(編)知識人の諸相 ~中国宋代を基点として勉誠出版2001
小島毅朱子学と陽明学』(放送大学教材放送大学教育振興会2004
ここには割合短くて読みやすいものをあげてみた。
講義ではその都度、関連する文献を指示する。

その他

あらかじめ政治学や法律学についてある程度の知見を得た上で受講することが望ましい。