日本史特殊講義
室町幕府将軍権力論II 14世紀の室町幕府

担 当 者 単 位 配当年次 開講期間 曜 日 時 限
家永 遵嗣 助教授 4 2~4 通年 2

授業の目的・内容

鎌倉幕府の歴史は将軍独裁(専制)・執権政治(合議政治)・得宗専制という三段階で区分し説明されるが、室町幕府の歴史については簡明な段階区分がなされていない。おおまかには、最盛期と言われる15世紀初頭の義持・義教の時期に転換があり、応仁の乱を始まりとする15世紀後半に第二の転換、戦国期に至る転換があったと考えられている。このうち、14世紀、室町幕府の成立過程を主題とする。
全体的に曖昧な部分が多い室町幕府だが、その中でも、室町幕府の形成過程には整理・解明されていない問題点が多い。例えば、室町幕府の成立は何時か、何をもって成立の目印にするのが良いのか、足利尊氏の征夷大将軍補職とはどういう関係になっているのか。そもそも、建武政権の崩壊と室町幕府の成立とはおおまかにみて表裏の関係にあることは確かなのだが、「政権交替」という関係にあったのかどうか。
ルーズな組織と不安定な支配から、室町幕府を脆弱な政権と見る考え方が一般的だが、本当にそれで良いのだろうか。鎌倉幕府も建武政権も社会の離反を招いて崩壊する結果に終わったのだが、室町幕府は、同じ社会をまがりなりにも組み敷いている。政権の成立と崩壊の繰り返しを、社会状況に対処するための試行錯誤と理解すれば、鎌倉幕府・建武政権の成果を引き継いだものが室町幕府であったことになる。

授業計画

第1学期
1 研究史 『太平記』の史料的価値に関する論争と南北朝封建革命説
2 研究史 中世国家論争と権門体制論
3 研究史 守護領国制論(有力守護連合論)と将軍権力独裁論
4 研究史 鎌倉幕府三段階論と得宗専制
5 欠席裁判と使節遵行/鎌倉幕府の法制と弘安改革
6 六波羅探題と畿内支配/鎌倉末期の荘園公領制と悪党問題
7 後醍醐天皇前期親政と倒幕運動
8 建武政権の性格 当知行安堵/領有秩序を巡る諸問題
9 建武政権の性格 使節遵行/裁判制度を巡る諸問題
10 建武政権の性格 権力の荘厳/大内裏造営と諸国武士の離反
11 建武政権の性格 宮将軍/畿内支配と遠隔地支配の制度的構成
第2学期
12 研究史 尊氏・直義二頭政治論と室町幕府将軍権力論
13 研究史 守護領国制と国人領主制
14 足利尊氏の挙兵と「室津の軍議」
15 「建武式目」の諸問題 作成時期・作成者と内容の問題
16 「建武式目」の諸問題 建武三年講和体制の崩壊
17 足利直義の理想と政務 暦応元年体制の始動
18 足利直義の理想と政務 将軍親裁化への流れ
19 足利直義の理想と政務 守護領国の形成と大犯三箇条
20 観応擾乱と将軍独裁 対立の表面化と政局・戦局への波紋
21 観応擾乱と将軍独裁 対立の収拾と観応三年体制/京都将軍・鎌倉公方の独裁体制
22 観応擾乱と将軍独裁 「北朝」の断絶と再建
23 室町幕府将軍権力と守護権力 「応安の半済令」と将軍・管領・守護業務分掌の確立
24 室町幕府将軍権力と守護権力 南北朝合一と朝幕関係

授業方法

通常の講義の形態で行う。適宜、資・史料を配付する。

成績評価の方法

授業期間中に史料の読解について小レポートを課すほか、各学期末に筆記試験を行う。

参考文献

佐藤進一鎌倉幕府訴訟制度の研究岩波書店初出1943年、再刊1993
佐藤進一日本の歴史9 南北朝の動乱中央公論社、のち中公文庫初版1965
佐藤進一日本の中世国家岩波書店1983
佐藤進一日本中世史論集岩波書店1990
永原慶二日本封建制成立過程の研究岩波書店1961
永原慶二日本中世の社会と国家青木書店初出1982年、再刊1991
黒田俊雄日本中世の国家と宗教岩波書店1975
森茂暁建武政権教育社1980
森茂暁南北朝期公武関係史の研究文献出版1984
森茂暁後醍醐天皇中公新書2000
伊藤喜良南北朝動乱と王権東京堂出版1997
伊藤喜良中世国家と東国・奥羽校倉書房1999
伊藤喜良後醍醐天皇と建武政権新日本新書1999
小川信足利一門守護発展史の研究吉川弘文館1980