刑事法演習4
刑事法判例研究

担 当 者 単 位 配当年次 開講期間 曜 日 時 限
岩瀬 徹 講師 2 3 第2学期 5

授業の目的・内容

本演習では,最近現れた刑法の重要判例・裁判例を素材とした判例研究を行う。

その目的は,@当該判例の判断対象となった具体的事案がどのようなものであり,裁判所がその如何なる側面を重視して法を解釈・適用したのかを考える,A当該判例の意義を,それまでの先例の流れの中に位置づけて理解する,さらに,B当該判例によって示された考え方が,将来に対してどの程度の射程を有するのかを考察する,という,およそ判例を理解するために不可欠とされる姿勢を,参加者全員が実践することによって身につけるということにある。実務において判例が有する重要性に鑑みても,判例を正確に理解した上で深く考察する能力を身につけておくことの必要性は大きいといえる。

また,本演習では,理論・学説に対して強いインパクトを与えるような重要判例が検討の対象であるため,当該判例が既存の理論・学説に対してどのような示唆を与えるのかという点について深く考察する機会も得られよう。それによって刑法理論についての理解をより深めるという成果も期待される。

さらに,将来実務にたずさわる際には必ず必要となる「判例を調査する技術」の基礎を身につけるという点も本演習の付随的な目的である。

授業計画

本授業の趣旨・目的、および、授業進行上の方針・方法について説明
判例研究の方法について
実行行為・早すぎた結果発生(東京高判平成13年2月20日判時1756号162頁等)
不作為犯論(東京地判平成13年9月28日判時1799号21頁等)
因果関係論(札幌地判平成12年1月27日判タ1058号283頁等)
違法論(広島高裁松江支部判決平成13年10月17日判時1766号152頁等)
責任論(故意・過失含む)(最決平成12年12月20日刑集54巻9号1095頁等)
未遂犯論(札幌高判平成13年5月10日判タ1089号298頁等)
共犯論(最決平成13年10月25日刑集55巻6号519頁等)
10 財産犯論(1)(最決平成15年3月12日刑集57巻3号322頁(誤振込)等)
11 財産犯論(2)(最大判平成15年4月23日刑集57巻4号467頁(委託を受けて占有する不動産を所有者に無断で売却する行為は,これに先行して無断で抵当権を設定していたとしても,横領罪に当たるとした事例)等)
12 財産犯論(3)(最決平成13年11月15日刑集55巻6号546頁等)
13 財産犯論(4)(最決平成14年7月1日刑集56巻6号265頁等)
14 各論の諸問題(最決平成14年9月30日刑集56巻7号395頁等)
15 本授業のまとめ
各回の検討対象として挙げている判例・裁判例はあくまで暫定的なものであり,差し替えの可能性もある。また,演習への参加人数等によっても調整を行う。

授業方法

各回につき少なくとも1つの判例・裁判例を指定して,それに対して2名の報告者を割り当てる。報告者は,自らが担当する判例について事前に綿密な調査を行ったうえで,研究報告を行う(1名につき20分程度)。それを前提として,参加者全員によるディスカッションを行うことになる。とりわけ,報告者により判例の意義・射程についての理解,および判例の評価について差異・対立が生じた場合には,そのような違いがなぜ生じたのかについて,徹底的に議論する。なお,報告者は,報告の際には,レジュメの配布を要求される。また,参加者全員が,演習終了後に,自らが担当した判例の評釈を執筆したうえで提出しなければならない。

成績評価の方法

演習に対する参加状況(レジュメの内容,討論の際の発言内容等)とレポート(判例評釈)による。

教科書

教科書は特に指定しない。

参考文献

中野次雄判例とその読み方〔改訂版〕有斐閣
西田典之・山口厚・佐伯仁志判例刑法総論〔第3版〕有斐閣
西田典之・山口厚・佐伯仁志判例刑法各論〔第3版〕有斐閣
芝原邦爾・西田典之・山口厚刑法判例百選T総論〔第5版〕有斐閣
芝原邦爾・西田典之・山口厚刑法判例百選U各論〔第5版〕有斐閣
・『判例とその読み方〔改訂版〕』は,刑事に限らない判例の全般に関する種々の問題を一冊にまとめた書物であり,実務において判例が果たしている重要な機能,および判例と学説・理論との関係を的確に理解するのに極めて有用である。

・『判例刑法総論〔第3版〕』と『判例刑法各論〔第3版〕』は,刑法の重要判例をほぼ網羅的に取り上げ,これを体系別に配列した教材である。判例が具体的事件の解決を第1次的な目的とするものであることを重視し,判例の理解にとって必要な場合には,その事案もできる限り詳しく紹介している。

・『刑法判例百選T総論〔第5版〕』と『刑法判例百選U各論〔第5版〕』は,刑法総論・各論の主要論点に関係する判例を収録・配列した上で,多くの研究者による解説を加えたものである。それは,当該判例の解説というよりは,むしろ関係論点についての一般的な解説というべきものである。それゆえ,ある問題についての判例・学説を調査する際の足がかりとして役に立つ。