※心理学特殊研究8(認知心理学特論2)
犯罪捜査の心理学

担 当 者 単 位 数 配当年次 学 期 曜 日 時 限
越智 啓太 講師 2 M 第1学期 1

授業の目的・内容

この講義では、捜査心理学(investigative psychology)について、その概要から最新の研究成果までを紹介する。捜査心理学とは、犯罪捜査、つまり、犯罪現場を調査し犯人を発見し証拠を収集して起訴するまでの過程における心理学知識の応用について研究する分野である。具体的には、犯人の行動パターンからその犯人像などを推定する技術であるプロファイリング、生理学的な手法を用いて容疑者のうそを見破っていくポリグラフ検査、目撃者の証言の信頼性の査定、人質交渉などのテーマを取り扱う。

授業計画

犯罪心理学の概要と犯罪捜査における心理学の応用
犯罪心理学の概要と捜査心理学の位置づけについて紹介する。
プロファイリング(1)連続殺人捜査の困難性
犯人の犯行パターンや行動などから犯人像を推定する技術であるプロファイリングは、連続殺人事件についての適用のために開発された。ではなぜ、連続殺人の捜査が困難なのか、どうして、プロファイリングが必要とされるのかについて検討する。
プロファイリング(2)FBI方式のプロファイリング
プロファイリングの基本的な手法であるFBI方式のプロファイリングについて、紹介し、その特性と限界について検討する。
プロファイリング(3)多変量解析を用いたプロファイリング
FBI方式より、より科学的な方法を用いたプロファイリングの新しい手法や、最新の研究とその応用について紹介する。
プロファイリング(4)地理的プロファイリング
地理的プロファイリングとは、犯行の地理的パターンを解析し、犯人居住地を推定したり、次の犯行地域を予測するための技術である。今回はこれらの手法についての理論と最新の研究について概観する。
虚偽検出(1)末梢神経系指標を用いたポリグラフ検査
いわゆる「ポリグラフ検査」は、呼吸や皮膚電位、心臓血管系の反応を元にうそを見破る方法であるが、うそをついたとき特有の末梢系反応はない。そこで、GKTやCQTなどの方法が開発されている。とくにGKTをもちいた虚偽検出は日本がもっとも進んでいる。そこでこれらの手法について具体的事例を用いながら検討する。
虚偽検出(2)中枢神経系指標を用いたポリグラフ検査
近年、事象関連電位やfMRIなど中枢系の活動をダイレクトにモニタリングすることによって、うそを見破る研究が進展してきている。これらの手法の概略とその可能性、限界について検討する。
虚偽検出(3)NVC指標、認知的反応指標を用いた虚偽検出
容疑者の身体の動きや声の特徴、会話の内容などを用いてうそを見破るテクニックについての研究と、ストループ現象や連想などを用いてうそを見破るテクニックに関する最近の研究とその応用可能性、限界について検討する。
目撃者の証言(1)誤誘導情報効果
目撃者の証言は信頼できるのか、どのような脆弱性をもっているのかを検討する。まず、誤誘導情報効果を取り扱う。これは、目撃後に与えられた情報が目撃記憶を変容させる現象である。この現象を規定する要因について検討する。
10 目撃者の証言(2)子どもと高齢者の証言
子どもに対する性犯罪や虐待事件では、子どもの証言が事件を立証するための重要な証拠になる。では、子どもの証言はいったいどの程度信頼できるのか、あるいはどのようにすれば、適切で信頼性の高い証言を聴取することが出来るのか、といった問題を検討する。また、高齢化社会を背景に今後増加していくであろう高齢者の証言の信頼性についての問題も取り扱う。
11 目撃者の証言(3)催眠による想起促進と認知インタビュー
よく映画などでみられる催眠を用いた想起の促進技法は信頼できるのか、また、催眠以外の方法を用いて目撃者の記憶を促進する方法は考えられないのか、などの問題を検討する。
12 目撃者の証言(4)モンタージュ写真、似顔絵、手配写真、面割り
犯人の顔を再構成する手法であるモンタージュ写真(フォトフィット)と似顔絵はどちらが有用なのか、目撃者の顔の記憶はどの程度正確なのか、正確な面割をするためにはどのような条件が必要なのか、コンピュータグラフィックスを用いた3次元の手配写真などの問題を取り扱う。
13 人質交渉(1)人質交渉技術
人質事件における交渉手法、人質状況の分析などの心理学的な問題について検討する。
14 人質交渉(2)突入と突入の意思決定
人質事件における最終的解決方法は突入である。そのためには人質状況と人質のリスクを適切に評価し、意思決定する必要がある。この問題についての最新の研究について検討する。
15 予備日
マスコミをさわがす個別の事件についての興味本位の解説や犯人の予想などの話はしないので、期待しないように。また、非行少年をいかに更生させていくかといった感動的でヒューマンな話題についても取り扱わない。また、やはり、非行を防ぐためには親の愛が必要だといった説教くさい話もしない。あくまで、科学的で実証的な観点から犯罪現象を分析する。

授業方法

講義方式

成績評価の方法

第1学期 (学期末試験) :試験を実施する
場合によってはレポートを課す。質問は授業後に受けつけるのほか、用紙を配布する。

教科書

越智啓太(編)犯罪心理学朝倉書店2005
テキストは予習復習などのために使用する。講義中に線を引かせたり、テキスト内の図表について直接、指示することは少ない。とくに購入する必要はない。興味がある場合に参照すること。なお、授業中でも質問や必要があれば、参考文献や論文を紹介する。

参考文献

Cambell, J., & DeNevi, D., Profilers, Prometheus books, 2004
Hickey, E. W., Serial murderers and their victims, 4th Edition, Thomson, 2006
Kleiner, M., Handbook of polygraph testing, Academic Press, 2002
Brewer, N. & Williams, K. D., Psychology and law, Guilford, 2005
太田信夫現代社会と記憶の心理学有斐閣2006
参考文献があれば授業中に紹介する

履修上の注意

第一回目授業に必ず出席のこと。

その他

本講義は、扱う現象が犯罪という不快なものなので、不快な資料を使用したり、不快な話をすると思うので受講に当たっては、各自の適性や興味を考慮して選択すること。