○経済発展論
その理論と政策

担 当 者 単 位 数 配当年次 学 期 曜 日 時 限
細谷 祐二 講師 4 2~4 第1学期週2回
1
2

授業の目的・内容

ここでは「経済発展」を「構造的変化を伴った国民経済の長期的な量的拡大、質的改善」と定義し、国民所得等の単なる量的拡大である「経済成長」と区別する。このように規定された「経済発展」とは、優れて政策的な課題であり、産業構造の高度化を通じそれを目指す「産業政策」と密接不可分である。講師は長年、経済産業省において産業政策の理論と実践について研究を行っており、今回特に対外経済政策と関連付けて「経済発展論」を論じたいと考えている。なお、本講義は特定の国や地域について論じる地域研究の講義を意図したものではないことに注意されたい。

授業計画

イントロダクション
経済発展の基礎理論
貿易・直接投資と工業化戦略
東アジアの経済発展とアジア危機の評価
10 新しい経済成長理論と先進国間の競争
11
12 イノベーション、スピルオーバーそして産業集積まとめ(予備)
注1)上記は、土曜午前の連続講義(1.5時間×2)を1単位としたもの。
 2)スケジュールは一応の目安であり、変更がありうる。
 3)授業内容の詳細は、以下の「講義アウトライン」を参照。

講義アウトライン
1.イントロダクション
・経済発展を身近に感じるための事例-日本の高度経済成長
・経済学にみる政府の役割の変遷
・経済政策の4つの目的の1つとしての経済発展
・経済発展と産業政策
 2.経済発展の基礎理論
・「近代経済成長」といくつかのスタイライズド・ファクト
 -ペティ・クラークの法則
 -クズネッツの研究と「近代経済成長」
 -ロストウの経済発展段階説と「離陸」
・新古典派の成長理論
・成長会計と全要素生産性(TFP)
・農工2部門発展モデル(デュアリズム)の理論
・「転換点」論争と日本の経済発展
・ヌルクセの均斉成長理論とハーシュマンの不均斉成長理論
 3.貿易・直接投資と工業化戦略
・自由貿易の利益
 -比較優位と貿易の利益
 -自由貿易の利益-余剰分析
 -自由貿易の利益-一般均衡分析
 -自由貿易の利益-動態的効果
・幼稚産業保護論
 -概念と理論的根拠
 -「マーシャルの外部経済」
 -幼稚産業保護の実際(日本等の事例)
・発展途上国の工業化と貿易・投資政策
 -均斉成長理論と不均斉成長理論(再論)
 -伝統的産品の輸出による成長戦略
 -輸入代替工業化戦略
 -輸出志向工業化戦略
 -先進国からの直接投資受入れによる工業化
・北東アジア型発展戦略-韓国の事例
・東南アジア・中国型発展戦略-ASEAN・中国の事例
4.東アジアの経済発展とアジア危機の評価
・世界銀行レポート「東アジアの奇跡」
・危機前までの経済発展における東アジア共通の特徴
・「TFP論争」
・経済危機とその要因-比較制度分析的視点
・いわゆる「アジアモデル」と東アジアの多様性
5.新しい経済成長理論と先進国間の競争
・内生的経済成長理論
 -R&Dモデル
 -人的資本モデル
・持続的成長とそれを支える要因
 -研究開発
 -人的資本
 -制度インフラ
 -産業集積
・日本の長期的経済政策のあり方
6.イノベーション、スピルオーバーそして産業集積
・マイケルポーターのクラスター論
・イノベーションとは何か
・スピルオーバー
・マーシャルの集積論とMAR外部性
・輸送費、外部性の及ぶ地理的範囲、混雑現象
・ジェイコブズの外部性と都市の経済
 -MAR外部性対ジェイコブズの外部性
 -ジェイコブズの外部性とイノベーション
 -都市と経済発展

この授業は基礎理論の紹介を行った上で、主に理論的視点から経済発展に関連する政策的諸問題を議論する。そのため、ミクロ経済学、マクロ経済学の基礎理論を習得していることが望ましいが、数式を使った理論モデルの紹介等は必要最低限とし、主に図表による説明を行う。

授業方法

基本的に板書と口頭による授業を行う。適宜参考資料等を配布する。自分でノートをしっかりとることも授業を理解する上で重要なことと考え、奨励する。

成績評価の方法

第1学期 (学期末試験) :試験を実施する
毎回出席をとり、出席点を36点とする。学期末試験は残り64点とする。自筆ノート及び授業中に配布した資料を持込可とする。論述試験とし、数問から2問を選択し、回答してもらう。

教科書

教科書は使用しない

参考文献

速水 佑次郎開発経済学 新版創文社2000
秋山 裕経済発展論入門東洋経済新報社1999
南 亮進、牧野 文夫日本の経済発展第3版、東洋経済新報社2002
大川 一司、小浜 裕久経済発展論-日本の経験と途上国東洋経済新報社1993
岩田 一政国際経済学第2版、新世社2000
ポール・クルグマン他国際経済第3版、新世社1996
ジョン・ウィリアムソン世界経済とマクロ理論多賀出版1990
デビッド・ローマー上級マクロ経済学第1版、日本評論社1998
小宮 隆太郎他日本の産業政策東京大学出版会1984
伊藤 元重他産業政策の経済分析東京大学出版会1988
西川 俊作他日本経済の200年日本評論社1996
岡崎 哲二工業化の軌跡』(20世紀の日本読売新聞社1997
吉川 洋高度成長』(20世紀の日本読売新聞社1997
世界銀行東アジアの奇跡東洋経済新報社1994
青木 昌彦経済システムの進化と多元性-比較制度分析序説東洋経済新報社1995
青木 昌彦他転換期の東アジアと日本企業東洋経済新報社2000
吉冨 勝アジア経済の真実東洋経済新報社2003
園部 哲史、大塚 啓二郎産業発展のルーツと戦略-日中台の経験に学ぶ知泉書館2004
マイケル・E・ポーター競争戦略論ダイヤモンド社1999
Malcolm Gillis他, Economics of Development, 5th Edition, W W Norton, 2001
Jane Jacobs, The Economy of Cities, Vintage Books, 1969