2年次演習A
ソクラテスのパラドックス

担 当 者 単 位 数 配当年次 学 期 曜 日 時 限
小島 和男 講師 4 2 通年 2

授業の目的・内容

「故意に悪いことをする者はいない」というソクラテスの主張は、「ソクラテスのパラドックス」と呼ばれています。論理的な意味でのパラドックスではありませんが、明らかに事実に反した命題であると人々が考えた為に、このように呼ばれるようになったのでしょう。
「故意に悪いことをする者はいない」ということは、我々はより「よい」と思われることしかしないわけです。ある人が選んだ行動は、そのときにそのある人が可能であった他の行動よりも、その時その瞬間に「よい」とその人自身に思われたから、その人はそう行動した、ということです。マイケルが兄のフレドを殺したのは、その時は殺さないよりも殺した方が「よい」と思ったからです。あとで後悔してもその時「よい」と思った行動をしたことには変わりがありません。彼は故意に「よい」ことをしたのであって「悪い」ことはしていないのです。
この考え方は主知主義に通じます。我々は故意に悪いことはしない。悪いことをしてしまったのは、それが悪いことだと知らず、むしろ「よい」ことだと思っていたという無知故なのである。「わかっちゃいるけどやめられない」ということは決してないのだ。やめられないのはわかっちゃいないからなのである。
しかし、現実の我々の感覚ではどうでしょうか。「明日の朝後悔するだろうな」と思いながらも深酒をし、「あとで面倒なことになるのだろうな」と思いながら喧嘩をしてしまうのではないでしょうか。主知主義はあくまでもその場合、目標であって、我々は故意に悪いことをしてしまう…ような気が強くするのではないでしょうか。
そこでこの演習では、プラトン作品中の「ソクラテスのパラドックス」が表明されているとされている箇所のうちのいくつかをピックアップし、原典で丁寧に読み、本当のところどのような書かれ方がされていたのかを確認し、プラトンがソクラテスにそのように表明させることで何をねらっていたのか、それを我々はどう受け止めることが出来るのかを考えていきたいと思います。
また、受講者が古典ギリシア語の文法事項の確認しそのテクストを読めるようになることを目標としたいので、原則として初級文法の既習者を対象としますが、この演習と並行して初級文法の学習を始めるやる気のある学生にも配慮いたします。
そのため、授業時間内では文法的な問題の解説に時間を割くことも多くなり、あまりたくさんのテクストは読み進められないと予想します。よって、さらに、もっと古典ギリシア語のテクストを読みたいというやる気のある学生には、内容にも深く関係してくるであろうアリストテレス『ニコマコス倫理学』第3巻第5章を読む講読会を別途設けます。

授業計画

イントロダクション―授業の進め方、評価方法、テクスト・参考文献・辞書等の紹介、予習方法の指導
「ソクラテスのパラドックス」についての簡単な解説と質疑応答、終わり次第テクストの講読
テクストの講読
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12 テクストの講読および夏休みのレポートについての説明
13 テクストの講読
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15 夏休みのレポートからの発表会
16 夏休みのレポートからの発表会
17 テクストの講読
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24 まとめ、及びレポートの書き方の説明
テクストは、具体的には、『ソクラテスの弁明』25D~26A、『メノン』77B~78B、『ゴルギアス』467C~468E、『プロタゴラス』351B~359Aを読んでいきます。

授業方法

テクストの講読は、一文一文を順番にあてていきます。あたった受講生は、注意すべき単語の変化を説明してから、訳読してもらいます。文法事項を確認し、次に移り、テクストがひと段落したところで、内容についてのディスカッションをおこないます。かならず予習をしてきてください。

成績評価の方法

出席点、平常点、およびレポートで評価します。

教科書

テクストおよびコメンタリーは第一回目授業時に指示します。

参考文献

そのつど教室で指示します。

履修上の注意

第一回目授業に必ず出席のこと。

その他

レポートは2回です。夏休みのレポートでは、それぞれに別々の学術論文(日本語または英語)を指定するので、それをまとめ、批判してくるというもの。提出後、こちらで手を入れたものを発表し、皆でディスカッションをしてもらいます。第2学期のレポートでは、「ソクラテスのパラドックス」に関して、授業で学んだことや考えたことをふまえて、論じてもらいます。