※哲学演習
<啓蒙の先入見>について考える

担 当 者 単 位 数 配当年次 学 期 曜 日 時 限
岡野 浩 講師 4 2〜4 通年 3

授業の目的・内容

人間が他人の指導に従う<未成年状態>を脱し、自らの悟性を使用し自ら考えるあり方の内に、啓蒙の本質を見出だしたのはイマヌエル・カントであるが、あらゆる<先入見[Vorurteil]>(文化的、慣習的、あるいは宗教的世界観、価値等の呪縛・・・その意味では、文字通り<偏見[Vorurteil]>とも見なされる)を離れて、自らの内なる理性を拠り所に全てを自分自身で判断し、合理的に振舞うことの出来る<自由で、自立した人間像>は、啓蒙主義の理想とするものであった。
ところが、今日尚広く共有されているこのような<知のあり方>の内に、<人間存在の歴史性>を忘却し、「現存在の存在の仕方そのもの」である「理解」という活動を深く損なわずにはおかない重大な過誤を見て取り、これを「啓蒙主義の先入見」として批判したのがハンス・ゲオルグ・ガダマー(1900〜2002)である。
そこでこの演習ではガダマーの主著でもある『真理と方法』、中でも特に、ガダマーが「理解の条件としての先入見」の働きについて論じている第二部第二章「解釈学的経験の理論の要綱」を講読する。
人間の生を、常に、既に与えられている何らかの世界理解の下に、物事と出会い、これをあらためて「理解」しようとする運動と捉え、歴史によって規定されつつ、歴史を新たに形作ってゆくという人間存在のダイナミズムをめぐって展開されるガダマーの議論の内に、文化の伝承と創造、共同体と個人、また政治論における保守と革新のダイナミズム等の問題を考える上での手掛かりを求めてみたい。

授業計画

ガダマーの人と思想について解説し、併せて使用するテキスト、授業の進め方、成績評価の仕方等について説明を行う。
二回目以降は『真理と方法』(Wahrheit und Methode)第二部第二章「解釈学的経験の理論の要綱」の講読を行ってゆく。
演習を進めてゆく過程では、現代の政治哲学では古典ともなっているハンナ・アーレントや、「解釈(interpretation)」をキーワードに独自の社会批判を展開するマイケル・ウォルツァー、またガダマーとの論争でも知られるユルゲン・ハーバーマスの議論等も取り上げてゆければと考えている。
また、今日私たちが共に生きる<この社会>のありようについて改めて目を向け、根本的に問い直す、という試み(→解釈)を行なう上では、私たちを取り巻く様々なアクチュアルな問題を多面的に考察する機会ともなるものとして、総合基礎科目「福祉」の受講をお勧めする。

授業方法

毎回テキスト原文(独語)を学生に訳出してもらいながら、丁寧に読み進めてゆきたい。

成績評価の方法

試験は特には行わず、平常点をもって評価する。

教科書

Wahrheit und Methode -Grundzge einer philosophischen Hermeneutik-, J.C.B.Mohr(Paul Siebek)Tbingen, 1990
使用するテキストについては、第一回目の授業時に指示する。