※思想史演習
イギリス経験論と功利主義

担 当 者 単 位 数 配当年次 学 期 曜 日 時 限
有江 大介 講師 4 D/M 通年 2

授業の目的・内容

イギリス経験論と功利主義の思考様式や人間観は、多くの批判を受けながらも、近代以降の社会の構成原理であり続けています。そのことは、英語国家であるアメリカ型のグローバリゼーションが不可避的に進行している現在を見てもよくわかります。にもかかわらず、わが国の哲学研究はドイツ観念論やフランス現代思想を必要以上に偏重してきました。
この授業では、なぜ、経験論と功利主義がわが国で軽視されてきたのかを手始めに、これらを思想史と方法論の観点から検討することを目的とします。現代における、ロールズ、セン、あるいはサンデル教授らの功利主義批判にも“批判的に”言及したいと思います。

授業計画

教員を含めた演習参加者全員の自己紹介・授業方針と方法の説明・輪読テキストの確認
アングロ・サクソン系哲学のエッセンス(反普遍・反超越・反卓越・利己心・感覚・快楽主義)
功利主義以前1:プラトン主義 vs. アリストテレス主義
功利主義以前2:キリスト教・スコラ哲学(ペラギウス主義、オッカム唯名論)・デカルト主義
プラムナッツ『イギリスの功利主義者たち』1:ベーコン、ホッブズ
プラムナッツ『イギリスの功利主義者たち』2:ロック、バトラー
プラムナッツ『イギリスの功利主義者たち』3:シャフツベリ、ヒューム1
プラムナッツ『イギリスの功利主義者たち』4:ヒューム2、スミス
プラムナッツ『イギリスの功利主義者たち』5:ベンサム
10 プラムナッツ『イギリスの功利主義者たち』6:ミル
11 J.S.ミル『功利主義論集』1
12 J.S.ミル『功利主義論集』2
13 J.S.ミル『功利主義論集』3
14 経験論と帰納法1:ヒュームとカント
15 経験論と帰納法2:ヴィクトリア時代(ヒューウェル、ミル、シジウィック)
16 経験論と帰納法3:20世紀(ケインズ、フリードマン、ホーキング)
17 経済的社会としての近代の解剖学:経験論・帰納法・実証主義・科学・功利主義・経済学
18 功利主義の定義再訪
19 ケース・スタディ1:効用[utility]は計れるか?
20 ケース・スタディ2:幸福[happiness/eudaimonia]は功利[utility]で基礎づけられるか?
21 児玉聡『功利と直観』
22 ケース・スタディ3:ピーター・シンガーとpro-choice
23 ケース・スタディ4:動物の権利と功利主義
24 日本人と功利主義1:受容の歴史
25 日本人と功利主義2:翻訳の思想史(功利主義・公利主義・公益主義・効用主義・大福主義)
26 日本人と功利主義3:ベンサム、ミルの運命
27 現代功利主義批判への批判1:ロールズの要請に応えられる人間はいるか?
28 現代功利主義批判への批判2:A.センは何を批判しているのか?
29 現代功利主義批判への批判3:サンデル教授の「正義論」で<善>とは何だろうか?
30 まとめ:功利主義と“スーパー近代”としての現代社会
功利主義の立場から、功利主義批判が持つその非現実性、高踏性、教養主義、エリート主義などを指摘したいと思います。また、エディンバラ大学、ロンドン大学などでの4回の在外研究、多くの外国学会報告、60回を超える英国訪問などで実際に経験し、感じた“アングロ・サクソン的発想”について、エピソードを交えて授業中にできる限り紹介します。

授業方法

教師による説明、院生が輪番で作成するレジュメにもとづくテキストやその都度指定する文献の輪読、その際の質疑応答と議論などによります。休暇期に参考文献や指定文献の「書評」をアサインメントとすることも考えています。

成績評価の方法

報告レジュメのでき具合、報告の仕方(プレゼンの巧拙)、演習中の議論のリード、書評や休暇中に課すエッセイの評価。個々の参加者が持っている哲学・思想・宗教の知識や、人間や世界に対する関心度なども成績評価の前提となります。以上を総合的に評価します。

教科書

ジョン・プラムナッツイギリスの功利主義者たち福村出版、1974年、ASIN:B00J9B150
J.S.ミル、川名雄一郎J.S.ミル功利主義論集』(近代社会思想コレクション 05京都大学学術出版会2010年、ISBN:4876989818
児玉 聡功利と直観:英米倫理思想史入門勁草書房2010年、ISBN:4326154135
John Plamenatz, English Utilitarians, 2nd Edition, Blackwell Publishers, 1949, ISBN:0631054200
アマルティア・セン経済学と倫理学改訂新版、実教出版2001年、ISBN:4407028122
書店や図書館で手に入らない単行本、学術雑誌掲載論文などは、教員が必要部分をコピーして演習参加者に配布します。どういう順番でどのテキストを使用するかは参加者と相談の上、演習で指示します。

参考文献

ジョン・ロールズ正義論改訂版、紀伊國屋書店2010年、ISBN:4314010746
小林正弥サンデルの政治哲学:<正義>とは何か』(平凡社新書平凡社2010年、ISBN:4582855539
一ノ瀬正樹功利主義と分析哲学:経験論哲学入門放送大学教育振興会2010年、ISBN:4595311915
ピーター・シンガー生と死の倫理昭和堂1998年、ISBN:481229715X
有江大介新装版 労働と正義創風社1994年、ISBN:4915659291
どの参考書をいつどのように使用・利用するかはその都度演習で指示します。

履修上の注意

履修者数制限あり。(20名)
第1回目の授業に必ず出席のこと。

その他

「非常勤講師」の私は人文系ではなく社会科学畑(経済思想史)出身ですので、皆さんの授業選択に際して以下に紹介する、私の最近の関心に関係する論文を参考にして下さい。
sympathy'は「公共性」を導けるか──効用・共感・科学──(『哲学雑誌』東京大学文学部125巻797号、2010年9月)。
・クラーク=ライプニッツ論争(1715―16)の社会科学的含意──神論から自然・人間論へ──(『エコノミア』(横浜国立大学経済学部)60巻1号、2009年5月)。
・J.S.ミルの宗教論──自然・人類教・“希望の宗教”──(『横浜国際社会科学研究』12巻6号、2008年2月)。
以下は準備中。
・ベンサム以降の“合理的懐疑主義”:ヴィクトリア時代の反宗教思想
・J.H.ニューマンの知識論・大学論
・資本主義は“悪魔的[Satanic]”制度か?:ミルトン『失楽園』(1667)が予知するもの