日本史演習
『後円融天皇日記』講読

担 当 者 単 位 数 配当年次 学 期 曜 日 時 限
家永 遵嗣 教授 4 D/M 通年 4

授業の目的・内容

中世後期の朝幕関係は幕府による権力の一元化という発想で理解されており、そのひとつの頂点は足利義満時代にあります。「義満の公家化」ないしは「自らを法皇になぞらえる僭上」とされるさまざまの現象がこれにあたります。講読の対象とする『後円融天皇日記(後円融院宸記)』は永徳元年・二年・四年の一部が伝わり、ちょうど義満の公家化が開始される最初の時期にあたります。なお、後円融天皇は永徳二年四月譲位して上皇となります。
今谷明氏『室町の王権』で有名になった、後円融天皇が後小松天皇の生母通陽門院三条厳子に重傷を負わせた永徳三年二月の事件の前後にあたります。その背景となる後小松天皇即位を巡る葛藤は、これまで厳子の父三条公忠の日記『後愚昧記』など第三者の記録によって研究されてきましたが、本史料は一方当事者である後円融天皇側の同時代記録として重要なものです。
2009年に桃崎有一郎氏によって翻刻され、書誌的な研究がなされていますが、政治史の復元材料としてはまだ充分に活用されていません。特に後円融天皇の側近にあった当代のキー・パースン日野宣子の位置を窺える点に旨味があります。
『後愚昧記』のほか、『愚管記(後深心院関白記)』・『吉田家日次記』・『良賢真人記』など併行する記録があり、総合的な研究の余地が大きい状態にあると申せます。まだ本格的に活用されていないので、活用の方向性を試行する観点で取り組む余地の大きい史料です。

授業計画

参加者の自己紹介の上で発表順序を決定します。
後小松天皇即位の周辺事情について、2回にわたり教員からのレクチュアを行います。最初は、後小松天皇即位の周辺事情について、政治史的な観点から大局観と論点を指摘します。
日野宣子と日野一門の動向、崇賢門院広橋仲子と宣子との関係、仲子と足利義満との関係、日野宣子と並んで重要な二条良基の挙動についてレクチュアします。
以後、決定された発表順序に従って講読・論議をすすめます。
桃崎氏の翻刻に従い、永徳元年九月二二日条から講読する。

授業方法

担当者は写真帳によって『後円融天皇日記』の翻刻を再検討したうえで、解釈の原案を示し、関連史料を提示して参加者の討論に供す。適宜参加者の関心のあるテーマについての補足発表を交えて進めてゆく。

成績評価の方法

出席および発表の取り組み、論議への参加状況
まだ活用されていない史料だから、参加者の頑張り次第では先陣を切る研究の糸口になる可能性があります。挑戦する心づもりで取り組んでください。

教科書

桃崎有一郎「後円融院宸記」永徳元年・二年・四年記-翻刻・解題と後花園朝の禁裏文庫-』(禁裏公家文庫研究 第三輯思文閣出版2009

参考文献

田中義成足利時代史明治書院1923
臼井信義人物叢書 足利義満吉川弘文館1960
今谷明室町の王権』(中公新書中央公論社1990
家永遵嗣室町幕府将軍権力の研究』(東京大学日本史学研究叢書1東京大学日本史学研究室1995
小川剛生二条良基研究笠間書院2005

履修上の注意

第1回目の授業に必ず出席のこと。