自然科学史

担 当 者 単 位 数 配当年次 学 期 曜 日 時 限
長岡 亮介 講師 4 2~4 通年 1

授業の目的・内容

我々の今日の文化と文明が、高度に発達した自然科学とそれに裏付けられた技術に深く依存していることはいうまでもない。むしろ近年ではそれが誰の目にも自明すぎるために、自然科学を支えている「方法」や「思想」に目が向かず、ある場合には「自然科学的見方への屈辱的な拝跪」が、ある場合には「自然科学の方法に対する単なる模倣への無批判的な隷従」が、そしてもっとも多くの場合には自然科学の成果としての技術だけにしか目が向かない「科学音痴」的「文系人間」が目につくことになる。
本講義は、自然科学(主として天文学、数学、物理学、などのいわゆる厳密科学)に、その歴史を通じて、自然科学への思想的な、あるいは‘文系的’な接近を試みるものである。
必要な予備知識は、高校レベルの常識的な理科、社会科の知識であるが、それらすら必ずしも講義の必須の前提とするものではない。

授業計画

講義全体のイントロダクション
Chales Percy Snow の Two Cultures and Scientific Revolution を素材に、講
義の目標と、自然科学史的な関心の重要性とともに、
その陥りがちな誤謬の危険について講ずる。
科学と技術の関係
我が国特有の「科学技術」という表現に潜入しているある種の誤解について
学生諸君の意見をもとに考える。
科学と哲学の関係
「科学」「哲学」の語源を中心に、「自然哲学」「自然学」「形而上学」の関係
と意味について基本的な常識を紹介する。
古代ギリシャにおける科学と哲学の誕生(1)
Diels-Krantz の翻訳をベースにした「古代ギリシャ哲学者断片集」に直接あたることによって、
ソークラテース以前の自然哲学的考察の始祖タレースやピュタゴラース教団の思想と業績を垣間見る。
古代ギリシャにおける科学と哲学の誕生(2)
Diels-Krantz の翻訳をベースにした「古代ギリシャ哲学者断片集」に直接あたることによって、
特にエレア派の哲学(パルメニデース、ゼノン)の思想の科学史的な価値を考察する。
古代ギリシャにおける科学と哲学の誕生(3)
プラトンを通じてソークラテース革命の意味を考え、その後の科学=自然哲学の基本思想となった
プラトン主義の原点を探る。
エウクレイデースの『原論』(1)
エウレイデースの『原論』を第一巻の冒頭部分を中心に紹介し、ギリシャ数学の高度の論理性の特質を見る。
エウクレイデースの『原論』(2)
エウレイデースの『原論』を第一巻の最終目標である「三平方の定理とその逆」が、今日的な解釈と
いかに大きく違っていたかを紹介し、ギリシャ科学の観照的精神の特徴を見る。
エウクレイデースの『原論』(3)
エウレイデースの『原論』を第五巻を中心に、量と数の間に潜む難問を解決したエウドクソスの独創性と論理的な厳密性について考える。
10 古代の天文学(1)
古代の天文研究の意味と実際を、プトレマイオス以前の研究を中心に講ずる。
11 古代の天文学(2)
古代の天文研究の意味と実際を、プトレマイオスを中心に講ずる。
12 古代の天文学(3)
プトレマイオスを天文学を支えた三角法の数学的な工夫について講ずる。
13 古代ギリシャの新数学(1)
ユークリッド『原論』とは違った潮流に属する数学研究としてアルキメデスの業績を紹介する。
14 古代ギリシャの新数学(2)
ユークリッド『原論』とは違った潮流に属する数学研究としてペルガのアポロニオスや ディオファントスの仕事を中心に紹介する。
15 古代ギリシャ文化の崩壊
ローマによるギリシャの征服の後、古代ギリシャ文化がラテン世界に持ち込まれるまでの「暗黒の時代」について考える。
16 第1学期の総復習と第2学期の講義への展望
講義の概覧を通じて「古代と近代」を考える様々な視座を提供したい。
17 天文学の新展開(1)
「コペルニクス的転回」の実相を考察する。
18 天文学の新展開(2)
Kepler による『新天文学』の、《中世と近代の分水嶺性》を見る。
19 新科学の誕生(1)
ガリレオ・ガリレイの『新科学対話』を中心に、運動論の近代的展開を見る。「実験と数学の結合」の意味を考える。
20 新科学の誕生(2)
ガリレオ・ガリレイの『星界の報告』『天文対話』を中心に、ガリレオ裁判に対する科学史的考察を試みる。
また、「観察・観察」の意味を考える。
21 新数学=代数学の誕生
中世アラビアにおいて、誕生した新興数学の意義について考える。
22 近代合理主義哲学の誕生(1)
デカルトを始めとする近代思想の誕生を可能にした科学的前提条件として、数記法を中心に考える。
23 近代合理主義哲学の誕生(2)
デカルトを始めとする近代思想の誕生を可能にした科学的前提条件として、幾何学における解析的方法の発見について考える。
24 近代の動的な数学の誕生
数学における極限的発想の萌芽を、16世紀の数学者の具体的な研究を通じて概観する。
25 微積分法の誕生
ニュートンの微積分法(流率法)の実相をテキストを通じて紹介する。
26
27
28 近代化学の誕生
Lavoisier を中心に、「質量保存の法則」などの古典的な近代化学の出発点の歴史的意味を考える。
29 数理科学の誕生
Laplace の解析力学、Fourier の熱の解析的理論、Lagrange の解析的関数論などを通じて、数理科学の誕生を紹介し、その意味を考える。
30 厳密数学の誕生
Bolzano の連続性の議論、Gausss の複素数論、Cauchy の微積分学、Riemann の三角級数論、Cantor の集合論、Dedekind の実数論などを通じて、数学が厳密化する過程を見つつ、その歴史的意義を考える。
実際の講義は学生諸君からの質問、それに対する応答を積極的に取り入れて、場合によってはダイナミックに変更することにも対応したい。

授業方法

積極的な質疑応答を歓迎する。

成績評価の方法

第2学期 (学年末試験) :試験を実施する

教科書

教科書の代わりとなる参考図書については、講義において適宜指示する。

参考文献

参考文献に関しても授業の中で適宜指示する。
入手できるものはできるだけ入手することを薦めたい。

履修上の注意

第1回目の授業に必ず出席のこと。

その他

思想から遠退いてしまった‘理系’の諸君だけでなく、自然科学から遠退いてし
まった‘文系’の諸君の積極的な参加を期待する。
必要な予備知識は、高校レベルの常識的な理科、社会科の知識であるが、それら
すら必ずしも講義の必須の前提とするものではない。