美術史講義
古代インド美術史

担 当 者 単 位 数 配当年次 学 期 曜 日 時 限
秋山 光文 講師 4 2~4 通年 4

授業の目的・内容

東洋美術の一つの大きな核を形成する古代インドにおいて、仏教美術がどのように発生し展開したのか、最近の研究によって新たな進展の見える諸問題について作例をもとに考察する。特に古代初期における仏教美術の誕生と特質および古代中期における仏像の成立、アジアにおける古典様式の基盤ともいうべきグプタ様式の成立を大きなテーマとして取り上げ、古代インド仏教美術の特質を歴史的・文化的背景から多角的に概観したい。

授業計画

Ⅰ.序 インド美術史における地域区分と時代区分
インド美術史におけるインドア大陸の地域区分と時代区分について、それぞれの特質に基づいて概観する。
Ⅱ.仏教美術の始まり 1.マウリア時代の美術
インド古代史における仏教の成立とその造形活動について概観し、インド美術の嚆矢とされるマウリア期の造形活動との相関を概観する。
1-1.アショーカ王柱の様式的展開
アショーカ王の時代に造営された石造構築物について、制作の背景と様式的展開を考察する。
1-2.模刻柱の特質
後(ポスト)マウリア時代に展開する模刻柱の特質について考察する。
2.仏塔をめぐる造形 a.仏塔の構造と象徴性
初期仏教との礼拝対象であった仏塔(ストゥーパ)について考察する。
b.仏教説話図の諸作例 a-1.バールフット(1)
バールフット遺跡出土の諸作例を通じ、初期仏教美術の特質を考察する。
a-1.バールフット(2)
仏教説話図に現れた連続画面形式について考察する。
a-2.サーンチー(1)
サーンチー諸塔の作例を通じ、初期仏教説話図の展開を考察する。
a-2.サーンチー(2)
バールフット遺跡出土作例との比較から、サーンチー第1塔塔門浮彫の特質を考察する。
10 Ⅲ.仏教寺院の諸形態 1.伽藍の成立
初期仏教文化における寺院(伽藍)の成立について考察する。
11 2.初期仏教石窟寺院の展開 2-1.チャイティア窟
デカン西部に現存する仏教石窟寺院について概観しながら、チャイティア窟の展開を跡づける。
12 2-1.チャイティア窟(承前)
仏教石窟寺院の構造が、礼拝対象の変化と如何に相関するかを跡づける。
13 2-2.ヴィハーラ窟
僧侶の集団生活の場であった僧院窟が、仏像の出現によって如何に変化するかを編年的に考察する。
14 まとめ
15 予備日
16 Ⅳ.仏教美術の展開-仏像の誕生- 1.西北インド-ガンダーラ地方の史的展開
西北インドにおける歴史的展開を考察する。
17 1-1.ガンダーラ美術の発生
20世紀初頭から続くがガンダーラ研究をもとに、同地方での造形活動について考察する。
18 1-2.ガンダーラにおける仏像制作
ガンダーラ地方における仏教美術の特質と、クシャーン王朝の諸王との相関について考察する。
19 1-3.ガンダーラ仏の図像的特質
ガンダーラで制作された仏教尊像の特質を考察する。
20 2.マトゥラー地方の史的展開-インド式仏像の出現-
ヤムナー河西岸の古都マトゥラーにおける造形活動について考察する。
21 2-1.マトゥラーにおける仏像制作
マトゥラーにおける仏像制作の特質について考察する。
22 2-2.マトゥラー仏の図像的特質
マトゥラーで制作された仏教尊像をガンダーラと比較しながら考察する。
23 2-3.後(ポスト)クシャーン様式の特質
AD3世紀以降に展開するマトゥラーでの造形活動について考察する。
24 3.南インドの仏教美術 3-1.サータヴァーハナ朝の仏教美術
南インドにおける仏教美術の展開について考察する。
25 3-2.アマラーヴァティーにおける造形活動
アーンドラ地方の仏教美術について、作例をもとにその展開を跡づける。
26 3-3.アーンドラ地方における仏像の成立と特質
北インドの仏教尊像と比較しながら、南インドの仏像制作について考察する。
27 Ⅴ.古典様式の完成 1.後(ポスト)クシャーン様式からグプタ様式の成立
AD4世紀以降の北インドにおける造形活動について考察する。
28 2.グプタ様式の特質と展開
グプタ様式の成立とアジア各地への波及について考察する。
29 まとめ
30 予備日
各時間の授業タイトルはあくまでも目安であり、この通りに授業が進行できるか未確定である。

授業方法

講師自身が現地で撮影した画像をもとに、多くの作例を紹介しながら視覚的にも理解しやすい授業を心がける。

成績評価の方法

第1学期(レポート)、第2学期(レポート)
出席状態
第1学期と第2学期にそれぞれ1回ずつレポートの提出を義務付け、出席状態と併せて総合的に評価する。授業のスピードが速いために、欠席が重なると授業について行けないので注意すること。出席状態は毎回チェックする。

教科書

特に教科書は指定しない。必要な資料は、授業時間中にハンドアウトシートとして適宜配付する。

参考文献

宮治 昭インド美術史』(歴史文化セレクション第1版、吉川弘文館2009年、ISBN:9784642063555
Vidya Dehejia, Indian Art, (ART & IDEAS Series) 1st Edition, Phaidon Press Ltd., London, 1996, ISBN:9780714834962
V.デヘージア(宮治昭・平岡三保子訳)インド美術』(岩波世界の美術第1版、岩波書店2002年、ISBN:9784000089319
高田 修仏教の説話と美術』(講談社学術文庫1635第1版、講談社2004年、ISBN:9784061596351
宮治 昭インド仏教美術史論第1版、中央公論美術出版2010年、ISBN:9784805506196
宮治 昭(編)インド(1)』(世界美術大全集 東洋編第13巻第1版、小学館2000年、ISBN:9784096010634
肥塚 隆(編)インド(2)』(世界美術大全集 東洋編第14巻第1版、小学館1999年、ISBN:9784096010642
前田耕作(編)中央アジア』(世界美術大全集 東洋編第15巻第1版、小学館1999年、ISBN:9784096010650
授業のテーマに沿った参考文献についてはその都度紹介するとともに、各学期の終わりに参考文献一覧表を配付する。

履修上の注意

第1回目の授業に必ず出席のこと。

その他

エスニックな文化について興味を持つ学生の参加を歓迎する。実際にインド彫刻や絵画を目にする機会は少ないが、松岡美術館や根津美術館など、都内の博物館や美術館には質の高いコレクションがある。機会を見つけ、是非本物と接して欲しい。ともかく美術史の勉強は、作品と接することが基本であることを忘れずに。授業に関する質問は教室でも受け付けるほか、講義時間中に開示するメイルアドレス宛に学科名と氏名をタイトルとして送信してもよい。