日本史演習
『後光厳天皇日記』講読

担 当 者 単 位 数 配当年次 学 期 曜 日 時 限
家永 遵嗣 教授 4 D/M 通年 4

授業の目的・内容

中世後期の朝幕関係は幕府による権力の一元化という発想で理解されており、そのひとつの頂点は足利義満時代にあります。「義満の公家化」ないしは「自らを法皇になぞらえる僭上」とされるさまざまの現象がこれにあたります。ただし、この時期に北朝(持明院統)の皇統がふたつに分裂していた事情は、必ずしも充分には理解されていません。義満はいっぽうの皇統である後光厳天皇の配偶者である広橋仲子の甥にあたり、血縁関係から皇統の分裂に巻き込まれていたという事情があったのです。
講読の対象とする『後光厳天皇日記(後光厳院宸記)』応安三(1370)年記は、後光厳天皇が後円融天皇に譲位して皇統の分裂が明確になる際に、天皇が兄にあたる崇光上皇や幕府との交渉について書き記した部分が伝わっています。後になって義満の公家化に大きな役割を果たす二条良基や日野宣子は後光厳天皇の側で活動していました。この記録は、まだじゅうぶんに活用されてはいないのです。
『後光厳天皇日記』は大部分が『大日本史料』に翻刻されています。後円融天皇が後小松上皇に譲位する際に書き残した日記『後円融天皇日記』とともに伝えられ、伝来過程にも大きな問題をはらんでいます。『後愚昧記』・『愚管記(後深心院関白記)』など併行する記録もあり、研究の余地が大きい状態にあると申せます。

授業計画

参加者の自己紹介の上で発表順序を決定します。
後光厳天皇期の朝廷・幕府に関わる周辺事情について、教員からのレクチュアを行います。
以後、決定された発表順序に従って講読・論議をすすめます。
『大日本史料』の翻刻を補訂しつつ講読する。

授業方法

担当者は写真帳によって『後光厳天皇日記』の翻刻を再検討したうえで、解釈の原案を示し、関連史料を提示して参加者の討論に供す。適宜参加者の関心のあるテーマについての補足発表を交えて進めてゆく。

成績評価の方法

出席状況と発表で評価します。

参考文献

田中義成足利時代史明治書院1923
臼井信義人物叢書 足利義満吉川弘文館1960
今谷明室町の王権』(中公新書中央公論社1990
家永遵嗣室町幕府将軍権力の研究』(東京大学日本史学研究叢書1東京大学日本史学研究室1995
小川剛生二条良基研究笠間書院2005
桃崎有一郎「後円融院宸記」永徳元年・二年・四年記-翻刻・解題と後花園朝の禁裏文庫-』(禁裏公家文庫研究 第三輯思文閣出版2009