フランス語圏文化演習(文学・思想)A
証言作品について考える

担 当 者 単 位 数 配当年次 学 期 曜 日 時 限
安原 伸一朗 講師 4 3~4 通年 2

授業の目的・内容

1945年に終結した第二次大戦は、文学にも傷跡を残した。人類史上、前代未聞の規模と性格をもつ虐殺が起こったからである。そして、西側と東側による戦後世界の覇権争いとけっして無縁ではなかった当時のフランスの言論界において、ナチス収容所からの生還者たちのなかには、帰国後ただちに自らの体験を語り始めた人たちがいた。そこで本演習では、主に彼らの文章を読みながら、極限体験を語ることの意義や困難、および歴史を前にした個人の存在を考えると同時に、「ことば」や「文学」の存在の力と不思議さを検討していきたい。

授業計画

イントロダクション
証言の可能性と不可能性:プリーモ・レーヴィ
「証言作品」の意義:ピエール=ヴィダル・ナケ
今日、極限体験を語ることの意味:ケルテース・イムレ
「人類」であること:ロベール・アンテルム
映画鑑賞
収容所の世界I:ダヴィッド・ルーセ
収容所の世界II:エリ・ヴィーゼル
収容所の世界III:シュロモ・ヴェネチア
10 女性の収容所I:シャルロット・デルボ
11 女性の収容所II:ミシュリーヌ・モーレル
12 ヴェルディヴ事件:ガブリエル・ヴァックマン
13 戦後の混乱:マルガレーテ・ブーバー=ノイマン
14 極限体験を語ることの危険と必要性:アラン・パロー
15 レポートの課題説明
16 極限体験と自己検閲:アンヌ=リーズ・ステルン
17 「ことば」のステイタスI:ディオニス・マスコロ宛のロベール・アンテルムの書簡
18 「ことば」のステイタスII:ジャン・ケロール
19 「ことば」のステイタスIII:ホルヘ・センプルン
20 「ことば」のステイタスIV:モーリス・ブランショ
21 「ことば」のステイタスV:クロード・ムシャール
22 「ことば」のステイタスVI:ピエール・パシェ
23 映画鑑賞
24 収容所における「芸術」I:シモン・ラックス
25 収容所における「芸術」II:プリーモ・レーヴィ
26 収容所とその後I:ケルテース・イムレ
27 収容所とその後II:ジョルジュ・ペレック
28 収容所とその後III:アンリ・ラクシモヴ
29 収容所の「可能性」:ジョルジュ・バタイユ
30 レポートの課題説明
主として「証言作品」として考えられる作品の抜粋を読解し、背景の解説を織り交ぜていく。また、「証言作品」にかかわる研究書や、「証言作品」に影響を受けている文学作品なども随時、読んでいく予定。なお、読んでいく作品はフランス語圏のものに限らないが、フランス語訳を用いる。

授業方法

教員による背景説明の後、参加者による訳読を行なう。

成績評価の方法

第1学期および第2学期のレポート。

教科書

プリントを配布する。

参考文献

授業時に紹介する。さしあたり参考文献として挙げられるのは、以下の書籍。ラウル・ヒルバーグ『ヨーロッパ・ユダヤ人の絶滅』(柏書房)、クロード・ランズマン『Shoah』(作品社)、マルセル・リュビー『ナチ強制・絶滅収容所』(筑摩書房)、プリーモ・レーヴィ『アウシュヴィッツは終わらない』(朝日新聞社)、ヴィクトール・E・フランクル『夜と霧』(みすず書房)、シルリ・ギルバート『ホロコーストの音楽』(みすず書房)。人類の歴史における全体主義および収容所の新しさを分析したものとしては、ハナ・アーレント『全体主義の起源』(とくに第3巻、みすず書房)。そして講義で詳述できないので、ぜひとも自分で目を通してほしい文献は、殺戮者の立場から書かれたルドルフ・ヘス『アウシュヴィッツ収容所』(講談社学術文庫)、およびギッタ・セレニー『人間の暗闇』(岩波書店)。

履修上の注意

履修者数制限あり。