※哲学演習
ライプニッツのドイツ語著作(Ⅰ)―

担 当 者 単 位 数 配当年次 学 期 曜 日 時 限
酒井 潔 教授 4 2~4 通年 3

授業の目的・内容

ライプニッツ(Gottfried Wilhelm Leibniz,1646-1716)の哲学著作・書簡については、従来日本では、フランス語やラテン語で書かれたものが翻訳され紹介されてきた。しかしライプニッツ自身の母国語であるドイツ語で書かれたものももちろん存在し、とくに政治哲学、法論、倫理学などの分野では基本文献をなすものが少なくなく、今後の研究がまたれるのである。本演習では、このライプニッツのドイツ語著作をとりあげ、これまでの数学や普遍記号法などの側面だけに偏した狭い合理主義の解釈傾向からわれわれを解放し、「理性」のより広い柔軟でダイナミックな理解のうえに成立し得るような新しいライプニッツ像を目指す。
今年度はそのための最初のテクストとして、彼が1697年頃書き下ろした『ドイツ語の使用と改善についての小論』(Unvorgreifliche Gedanken, betreffend die Ausuebung und Verbesserung der deutschen Sprache,1717)をとりあげる。本著作は、概念を記号化し計算によって真偽を判定するという普遍言語への関心と同時に、それぞれの共同体や民族において時間・歴史を通じて形成され伝承される「自然言語」のその意義と役割について、ライプニッツが並々ならぬ関心を有していることを示す点でたいへん重要である。しかし本著の内容は、ただ狭い意味での言語論にとどまらず、言語を使用する人間、共同体、国家等についての、政治哲学、倫理学、文化論に及ぶ豊かな射程を有している。
本演習では、ドイツ語テクストを精緻に解釈することを通して、まずライプニッツの自然言語論の基本的立場を確認し、次にライプニッツの政治哲学的思想の基本的特徴を明らかにしたい。そのうえで、時間がゆるせば、さらにその今日的可能性についてもわれわれなりの展望を試みたい。

授業計画

1 テクストについて。一年間の授業計画。イントロダクション:1ライプニッツの自然言語論 2ライプニッツの政治哲学
2 G.W.Leibniz, Unvorgreifliche Gedanken, betreffend die Ausuebung und Verbesserung der deutschen Spracheを読む
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15 第一学期の復習
16 G.W.Leibniz, Unvorgreifliche Gedanken, betreffend die Ausuebung und Verbesserung der deutschen Spracheを読む
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28 関連する他のライプニッツ文献(一次文献)について
29 関連する他のライプニッツ文献(二次文献)について
30 一年間のまとめ
受講生のドイツ語力、そして本テクストの主題への哲学的関心をみたうえで、受講生と相談のうえ、さらにライプニッツの自然言語、ないしは政治哲学関連の著作または書簡を追加することがあり得る。

授業方法

全員による訳読。必要な語学的注意と内容的解説。そのつどの内容について、全員による討論、当番制による毎回の記録(プロトコル)の作成と発表。なお、必要に応じてパワー・ポイントを使用し、図版や地図などを紹介する予定である。

成績評価の方法

レポート:30%(自分で主題を設定し、問いを思索し、それを論理的に展開し、かつ明晰なしかたで文章化する力)
平常点(出席、クラス参加、グループ作業の成果等):70%(訳読、プロトコル、質疑応答、その他取り組み全般における積極性)
平常点のなかではとくにプロトコルを重視する(正確に記録し、編集し、文章化する訓練でもある)。出席については言うまでもない。来たり来なかったりでは困る。テクストは必ずしも平易ではないが、しかし毎回の演習を通じ、教員や仲間と共に、一定の理解を構築しようと努力する相互主観的な態度を評価する。
レポートでは、テクストの主題を正確に理解し、それに対して自ら問いを立て、あるいは批評を試みる、そしてそれをめぐって思索を展開し、かつそれを論理的な文章として表現する力が求められる。

教科書

Gottfried Wilhelm Leibniz『Unvorgreifliche Gedanken, betreffend die Ausuebung und Verbesserung der deutschen Sprache』(Reclam Universal-Bibliothek)、Philipp Reclam Jun. Stuttgart1983年、ISBN=3-15-007987-X
標記テクストは必ず購入すること。

参考文献

酒井潔『ライプニッツ』(人と思想)、清水書院2008
酒井潔・佐々木能章(編著)『ライプニッツを学ぶ人のために』(学ぶ人のために)、世界思想社2009
酒井潔・佐々木能章・長綱啓典(編著)『ライプニッツ読本』(読本)、法政大学出版局2012
酒井潔『ライプニッツのモナド論とその射程』、知泉書館2013
G.E.Guhrauer(Hrsg.)『G.W.Leibniz.Deutsche Schriften,I,II』、Georg Olms1966(Nachdruck)
Patrick Riley (ed.)『Leibniz Political Writings』(Cambridge Texts in the History of Political Thought)第2版、Cambridge University Press1988年、ISBN=0-521-28585
その他の日本語、独・仏・英語文献(第一次文献、第二次文献)についても、教室でそのつど指示する。

履修上の注意

第1回目の授業に必ず出席のこと。

その他

毎回十分な予習・復習が求められる。テクスト中に見出されるさまざまな哲学的概念、ドイツ語の語彙や慣用表現、ドイツ中世史および十七世紀史の諸事項についても、自ら積極的に調べてきてほしい。総じて、ライプニッツその人について、ライプニッツの哲学思想について、自然言語の起源について、さらには母国語あるいは国語とは何かというような問題等々について積極的な関心をもって受講していただきたい。