※西洋美術史特殊研究
キリスト教図像学 聖書に基づく物語図像の歴史―

担 当 者 単 位 数 配当年次 学 期 曜 日 時 限
高橋 達史 講師 4 2~4 通年 2

授業の目的・内容

 キリスト教美術の代表的主題の描写の歴史を、聖書のテクストとの比較を通じて考察します。第1学期は主に旧約聖書図像、第2学期は主に新約聖書図像を扱います(「聖母子像」「救世主キリスト」「悲しみの人」などの礼拝像=非物語図像、および聖人伝は取り上げません)。担当者の専門領域であるレンブラントと17世紀オランダの宗教画の研究の延長上に位置する講義ですので、多くの講義において登場するレンブラントが1年の講義を通じて中心的役割を果たすことになりますが、中世の写本彩飾や教会堂装飾(モザイク・壁画)、および美術史概説ではまず扱われることのない15世紀後半以後の刊本聖書の挿絵や聖書版画集も頻繁に取り上げて比較考察の対象にします。講義を通じての主なねらいは ①聖書の記述に通暁してもらうこと、②テクストとの比較において視覚芸術(絵画・版画)の強みと弱みを理解してもらい、聖書関係以外の「物語画」(広義の歴史画)の見方を身につけてもらうこと、③中世の西洋美術を西洋中世の枠内だけで考察するのでなく、ルネサンス以降の諸作例との比較考察することで、多大の知識が前提となるため難解でバリアーが高いと思われがちな中世美術をより身近な存在としてもらうこと、④美術史概説では等閑視されがちな刊本聖書挿絵や聖書版画集や連作版画の意義を理解してもらい、学生諸君各自の専門領域研究にもその知識を何らかのかたちで役立ててもらうこと、以上です。

授業計画

1 礼拝像と物語図像(もしくは物語図像と非物語図像) この講義の対象から除外される代表的主題について(聖母子像、「救世主キリスト」「悲しみの人」、洗礼者ヨハネを除く聖人伝・聖人像)
2 聖像否定論と聖像破壊運動の歴史の概観 ビザンティン〜ピューリタン革命時のイギリス
3 キリスト教美術における旧約聖書の位置づけの歴史の概観 予型論 ローマのカタコンベと石棺 初期キリスト教美術における旧約図像の意義
4 「天地創造」〜「楽園追放」(創世記) ①『ウィーン創世記』〜14世紀
5 「天地創造」〜「楽園追放」(創世記) ②中世後期の写本〜初期刊本聖書 「絵聖書」(Picture Bible:聖書図像集)の系譜(1)
6 「天地創造」〜「楽園追放」(創世記) ③ミケランジェロのシスティーナ礼拝堂天井画とラファエロ工房のヴァティカーノ宮ロッジアの天井画
7 「天地創造」〜「楽園追放」(創世記) ④16〜19世紀の連作版画および聖書挿絵 「絵聖書」(Picture Bible:聖書図像集)の系譜(2)
8 「大洪水」もしくは「ノアの方舟」(創世記)
9 「バベルの塔」(創世記) ピーテル・ブリューゲルを中心に
10 「アブラハムの物語」(創世記)
11 「イサクの物語」「ヤコブの物語」「ヨセフの物語」(創世記)
12 「モーセの物語」(出エジプト記)
13 「ダヴィデの物語」「サムソンの物語」(サムエル記〜列王記)
14 「ダニエルの物語」(ダニエル書)、「ヨナの物語」(ヨナ書)
15 第1学期講義のまとめと補遺
16 新約聖書におけるキリストの生涯の概観 ①「受胎告知」〜「聖家族のエジプト逃避」
17 新約聖書におけるキリストの生涯の概観 ②「キリストの洗礼」〜「エルサレム入城」
18 新約聖書におけるキリストの生涯の概観 ③「キリストの受難」〜「聖霊降臨」
19 ジョット〜15世紀イタリア美術における「アンナ伝」「マリア伝」「洗礼者ヨハネ伝」(ヤコブ原福音書ほか)
20 ジョット〜15世紀イタリア美術における「キリスト伝」
21 16世紀のカトリック宗教書の挿絵における聖書の記述からの逸脱 /  プロテスタンティズムの台頭と新約聖書図像の変化 ①「洗礼者ヨハネの説教」「キリストの説教」
22 プロテスタンティズムの台頭と新約聖書図像の変化 ②「放蕩息子の帰還」「民衆に晒されるキリスト」
23 レンブラントと新約聖書図像 ①キリストの幼時 シメオンとアンナ 聖家族
24 レンブラントと新約聖書図像 ②キリストの受難
25 レンブラントと新約聖書図像 ③「ペテロの否認」「ユダの悔悛」ほか
26 宗教改革期以後の旧約聖書図像の変化 / 反面教師としての宗教画 「ロトと娘たち」「スザンナと長老」
27 聖書の図像選択に関する「レンブラント前派」の美術史的意義
28 レンブラントと旧約聖書図像のまとめ ① 「トビアの物語」(トビト記)
29 レンブラントと旧約聖書図像のまとめ ② 「サムソンの物語」(士師記)ほか
30 第2学期講義のまとめと補遺
受講者数によっては、学生諸君と相談の上で授業計画を変更する可能性もあります。

授業方法

講義形式で、毎回資料を配布しつつパワーポイントを用いて行います。毎回レスポンスペーパーを配って質問・疑問などを提出してもらうことで一方通行になるのを避ける予定ですが、履修者数が非常に少ない場合は、講義中にも個別の質問をすることも想定しています。

成績評価の方法

レポート:70%
平常点(出席、クラス参加、グループ作業の成果等):30%
第1学期、および学年末にレポートを提出してもらいます。毎回出席をとり、全体の三分の一以上欠席した学生には単位を認めません。

参考文献

開講時および講義中適宜指示します。

履修上の注意

第1回目の授業に必ず出席のこと。

その他

「教科書」ではないので講義に持参の必要はありませんが、新共同訳聖書を各自用意してもらうことになります。
事前に購入して予習したい人は、必ず「旧約続編つき」の表記があるものを選んで下さい(「旧約続編」とは、通常のプロテスタントの聖書からは除外されている「旧約聖書外典」のことです)。