※舞台芸術文化論演習
身体のイデオロギーとしての演技論 〜テレビドラマから古代ギリシアまで〜―

担 当 者 単 位 数 配当年次 学 期 曜 日 時 限
横山 義志 講師 4 2~4 通年 4

授業の目的・内容

リアルな身体とは何か。
身体が目の前にあるのに、リアルだったりそうでなかったりする、というのは不思議な話ではなかろうか。
今、テレビドラマを見ていて、俳優が台詞の途中から歌い出したり踊り出したりすることはまずない。
それは「リアルではない」ということになっている。
だが、歌い踊る身体はなぜリアルではないのだろうか。
本講では、西洋近代社会において、なぜ「歌い踊らない演技」というものが発生したのか、なぜそれが「リアル」だということになったのかを考えていく。そのために西洋における演技論の歴史をひもといていこう。そうすれば、この問題をめぐる議論には非常に長い歴史があることに気づくだろう。
演技論史という分野は比較的新しく、そこにはまだ明瞭な海図が描かれているわけではない。
時には行きつ戻りつ、履修者の助けもお借りしながら進めていきたい。

授業計画

1 演技論とは何か/リアルな身体とは何か/人類学と演技論
2 西洋(フランス)演劇史概観/近代劇における音楽の排除と演技論
3 工業化と音楽的身体の排除 一七〜一九世紀
4 弁論術教育と近代優美演技論(クライスト「人形芝居について」) 一六〜一八世紀
5 なぜ古代演技論か/古代演技論とは何か
6 演劇の誕生と演技論の生成 前六世紀〜前五世紀
7 プラトン演技論(1) 「神がかり」の理論とピンダロス的生得主義
8 プラトン演技論(2) イソクラテス弁論術への批判と音楽論的悲劇論
9 アリストテレスの演技論(1) 反プラトン的演劇論
10 アリストテレスの演技論(2) 弁論術批判としての演技論、デモステネス批判
11 アリストテレスの演技論(3) 新たな語りの形態学を求めて
12 ヘレニズム演劇における悲劇の再音楽化
13 発表(1)
14 一学期まとめ
15 予備日
16 キュニコス派(犬儒派)の人生論的演技論
17 初期ストア派の演技論 ストア派におけるキュニコス派演技論の継承と「訓練」の概念
18 中期ストア派の演技論(1) ディオゲネスのプラトン的演技論
19 中期ストア派の演技論(2) 中間的音楽性の演技論 デュボス『詩画論』とロンギノス『弁論術』
20 中期ストア派の演技論(3) パナイティオスの優美演技論と中期ストア派のアリストテレス的展開
21 ヘレニズム演技論の美学的展開 アリストテレスの「仕事の美学」と悲劇の快
22 感情主義的演技論の成立と言語論 ホラティウスとエピクロス派/ストア派言語生成論
23 ローマ弁論術における演技論(1) ローマ演劇とは何か 俳優と弁論家
24 ローマ弁論術における演技論(2) ローマ弁論術における優美概念と俳優の社会的地位
25 ローマ弁論術における演技論(3) 「気取り」の概念
26 ローマ弁論術における演技論(4) 嘆き歌と「アジア的」弁論術、「朗誦法」の起源
27 古代演劇における「アジア的」なものと音楽性の排除
28 発表(2)
29 二学期まとめ
30 予備日

授業方法

授業中の発言も含め、履修者の積極的な参加を期待しています。
身体表象をめぐる普遍的な問題を扱うので、どんな分野の方でも歓迎です。
履修者による発表はとりあえず各学期末としましたが、履修者と相談のうえ、適宜検討します。

成績評価の方法

レポート:100%(授業の理解度、選んだ主題の興味深さ、説得力)
※発表をもってレポートに代える可能性あり

参考文献

授業で取り上げるであろうテクストのうち、日本語で手に入りやすいもののみ挙げておきます。
 
<近代演技論関連> ※新しい順
リー・ストラスバーグ『メソードへの道』(劇書房):今のハリウッド映画に見られる演技の基礎となった演技論です。
スタニスラフスキー『俳優修業』(『俳優の仕事』)(未來社):上のもとになった演技論です。
★アンドレ・アントワーヌ「現代の俳優術」(以下からダウンロードできます):そのさらにもとになった「自然主義演劇」を代表する演出家による講演。
http://kyodo.enpaku.waseda.ac.jp/trans/modules/xoonips/detail.php?id=2010france05
クライスト「人形芝居について」(『チリの地震』河出文庫などに収録):ほんの数ページのエッセーですが、演技理論史のエッセンスが詰まっています。
 
<古代演技論関連> ※古い順
プラトン『国家』『法律』(岩波文庫)
アリストテレース『詩学』/ホラーティウス『詩論』(岩波文庫):基礎中の基礎。
アリストテレス『弁論術』(岩波文庫)
ディオゲネス・ラエルティオス『ギリシア哲学者列伝』(岩波文庫):これは楽しい本なので、ぜひ拾い読みしてみてください。
キケロー『弁論家について(上・下)』(岩波文庫)
 
<人類学・認知科学関連>
岡ノ谷一夫『「つながり」の進化生物学 はじまりは歌だった』(朝日出版社):高校生向けの授業。楽しくて一気に読めるし、きっと今後の人生に役立つでしょう。
岡ノ谷一夫『さえずり言語起源論 小鳥の歌からヒトの言葉へ』(岩波書店)
マーク・チャンギージー『<脳と文明>の暗号 ——言語・音楽・サルからヒトへ』(講談社):これも楽しくて、一気に読めます。
 
 
必要な部分はコピーなどしてお配りしますが、全体に目を通した方が理解が深まるでしょう。
もちろん原著が読める方は原著で購入してくださってかまいません。
日本語で手に入らないテクストについては、履修者の顔ぶれを見てどうするか考えます。

履修上の注意

第1回目の授業に必ず出席のこと。

その他

全体の基礎となる議論をするので、第1回目の授業には必ずご出席ください。
 
また、アンドレ・アントワーヌ「現代の俳優術」に目を通しておいてください。
一九世紀末にフランスで自然主義演劇というのを確立した人です。
古代から近代までの演技の流れをざっとイメージすることができます。
(はじめて見る固有名詞も多いでしょうから、全部細かく読まなくてもよいですが。)
 
履修者の興味等に応じて、内容を多少変更する可能性もあります。