哲学史
19世紀から20世紀への展開―

担 当 者 単 位 数 配当年次 学 期 曜 日 時 限
酒井 潔 教授 4 1~4 通年 3

授業の目的・内容

この授業が担当するのは、15世紀(ニコラウス・クザーヌス)から今日(マイケル・サンデル)にいたる西洋近現代哲学史である。これを、第一部から第四部に分け、全部で四年間かけて講じ、なし得るかぎり具体的でかつ活き活きとした哲学史を描きたいと考えている。
今年度は、その第三部として、19世紀から20世紀中葉までの哲学史を考察する。具体的には、キルケゴールから始めて、ニーチェ、実証主義、功利主義、ディルタイの解釈学、新カント派、ベルクソン、実存主義、現象学までを範囲とする。現象学(Phaenomenologie)については、フッサールとハイデッガーを中心とし、さらにサルトルやメルロ=ポンティにも言及する。また現象学による芸術論や作品解釈も、時間のゆるす範囲で紹介したい。
なお、ヴィットゲンシュタイン、分析哲学、プラグマティズム、ポスト・モダンあるいはフランス現代哲学、構造主義、フランクフルト学派などについては、次の2015年度の第四部において講じる予定である。

授業計画

1 授業の方針、年間授業計画、受講上の注意、イントロダクション:「哲学史」とは何か
2 キルケゴール(1):普遍的真理に対する反抗。「理性」から「実存」へ-実存主義の先駆者としてのキルケゴール
3 キルケゴール(2):『死に至る病』(1849)における「絶望」の現象学
4 ニーチェ(1):ショーペンハウアーからニーチェへ。「生」の哲学の立場。「真理への意志」の虚構性。「生への意志」から「力への意志」へ
5 ニーチェ(2):芸術論-『悲劇の誕生』(1872)を手引きに
6 ニーチェ(3):道徳批判・キリスト教批判-『善悪の彼岸』(1886)と『道徳の系譜』(1887)
7 ニーチェ(4):「超人」・「永劫回帰」・「力への意志」-『ツァラトゥストラはかく語りき』(1883‐85)
8 実証主義:positivismとは何か。A・コント、E・マッハ
9 功利主義:ベンサム、J-S・ミルなどの19世紀イギリス倫理学
10 ディルタイ(1):「歴史的生の構造連関」・「体験」・「表出」・「理解」
11 ディルタイ(2):「解釈学」とは何か。「精神科学における歴史的世界の構成」(1910)
12 ベルクソン(1):「直観」と「持続」。フランス・スピリチュアリスムの伝統。
13 ベルクソン(2):ゼノンの「パラドックス」、カントの「時間」概念などをめぐって
14 新カント派(マールブルク学派、西南ドイツ学派):自然科学と価値問題への寄与としての哲学
15 第一学期の復習および第二学期への展望
16 フッサール(1):『論理学研究』(1900)、「現象学」とは何か、「還元」・「エポケー」・「本質直観」
17 フッサール(2):「他者」、「感情移入」、「生活世界」
18 フッサール(3):フッサールの「像意識」理論。カンディンスキーの抽象絵画論
19 フッサールからハイデッガーへ:「超越論的意識」の存在とは何か。「主観」Subjektから「現存在」Daseinへ。
20 ハイデッガー(1):『存在と時間』(1927)-「存在の意味への問い」、「世界の世界性」、「現存在の日常性」、「死への存在」、「時間性」、「歴史性」
21 ハイデッガー(2):後期ハイデッガーの根本問題-『哲学への寄与論稿』(1936-38)、ヘルダーリン論、ニーチェ講義、「理由律」-「技術」-「立て組み」批判
22 ハイデッガー(3):『芸術作品の根源』(1936)(「物」・「道具」・「作品」)、クレーとセザンヌの絵画の解釈
23 ハイデッガー(4):東アジア的思惟との対話の可能性(芭蕉の俳句とハイデッガー)
24 ヤスパース:実存哲学と歴史哲学-「包括者」、「実存開明」、「暗号」、「枢軸時代」、「大衆」
25 メルロ=ポンティ(1):身体の現象学-「肉」・「幻影肢」・「交差配列」(キアスム)
26 メルロ=ポンティ(2):絵画論・セザンヌ論-『眼と精神』(1964)
27 ウィリアム・ジェイムズ:「純粋経験」、「プラグマティズム」
28 日本における現象学(フッサール、ハイデッガー)の受容と展開(西田幾多郎、和辻哲郎、三宅剛一)
29 質疑応答
30 一年間のまとめ。そして次年度に講じる第四部への展望
受講生の問題関心や理解度、あるいは時間の制約などを考慮して、授業計画の一部を変更する可能性がある。

授業方法

講義ノートに基づく講義形式。毎回プリントを用意する。あわせて適宜パワーポイントを使用し、図版、写真、地図などを示し、かつ鍵概念やキーセンテンスなども明示して、理解の一層の助けとしたい。

成績評価の方法

第1学期(学期末試験):40%(哲学史の基礎知識を正確に習得できているかどうか)
第2学期(学年末試験):40%(哲学史を基礎としながら、自ら哲学的な議論を構築し、展開できるかどうか)
平常点(出席、クラス参加、グループ作業の成果等):20%(出席、リアクションペーパー、取り組みの姿勢全般)
第一学期末試験と第二学期末試験の両方を受験することが必要条件であることは、言うまでもない。

教科書

この授業として特に一冊を指定することは考えていない。教科書として可能であろういくつかのものについては、そのつど教室で紹介する。

参考文献

三宅剛一『哲学概論』、弘文堂1976
高坂正顕『西洋哲学史』、創文社1971
岡崎文明他『西洋哲学史――理性の運命と可能性』第2版、昭和堂2002
酒井潔『自我の哲学史』(講談社現代新書)、講談社2005
熊野純彦『西洋哲学史』(岩波新書)、岩波書店2006
熊野純彦『近代哲学の名著』(岩波新書)、岩波書店2011
貫 成人『図説・標準 哲学史』、新書館2008
熊野純彦編『近代哲学の名著』(岩波新書)、岩波書店2011
以上にあげたものは一例に過ぎない。さらなる参考文献については、そのつど教室で指示する。

履修上の注意

第1回目の授業に必ず出席のこと。

その他

専門学科である哲学科生はもちろんのこと、文学部の他学科生の勉学にとっても、西洋近現代哲学思想史の基本的知識はきわめて重要な基礎である。したがって、単なる知識のための知識ではないものの、必要最小限の事項については、これをきちんと覚えて身につけてほしい。同時に、それが哲学であるからには、常に自ら思索しながら自分の理解を構築し練磨して行かなければならない。そのためには授業時間中、十分な集中力とともに一種の良い意味での緊張感が求められるであろう。それゆえ、言わずもがなではあるが、万が一にも他の受講生の理解と思索の努力の妨げになりうるような行為はさし控えること。