心理学特殊講義(動機と動機づけの心理学)

担 当 者 単 位 数 配当年次 学 期 曜 日 時 限
伊藤 忠弘 教授 4 2~4 通年 4

授業の目的・内容

 近年の学校教育場面において児童・生徒のモチベーションの低下が指摘され、学習に対するやる気をどのように高めていけるかが問題にされている。また企業においても社員のモチベーションをどのように高めていけるかがたびたび話題となる。これ以外にも、スポーツや芸術領域などで何らかの達成を目指して行われる行動のモチベーション(やる気)の問題は心理学では「達成動機づけ」という領域で研究されてきた。またモチベーションが枯渇しているような状態、いわゆる無気力やアパシー、あるいはバーンアウト(燃え尽き症候群)が問題にされることも多い。
 また動機づけ研究では達成だけではなく、他者と親密な関係を持ちたいといった関係性への動機づけや、ボランティアなどの社会的活動を志向する向社会的な動機づけにも関心を持っている。このような動機づけ研究は、近年、社会心理学で注目されている、自動的・無意識的情報処理、制御資源、自己・他者の関係性、といったトピックとも関連している。
 自分のモチベーションをどのようにして高く維持して高いパフォーマンスを達成することができるのか、あるいは教育者や経営者の立場から児童・生徒や社員のモチベーションをどのようにして高めていけるのかを考えながら、モチベーションに関する心理学の基本的な理論を説明していく。

授業計画

1 基本的概念:欲求、目標、動機づけ
2 自己をめぐる動機(1)自己高揚・防衛と自己肯定化
3 自己をめぐる動機(2)自己の正当化:認知的不協和理論と自己確証理論
4 死の恐怖の統制:存在脅威管理理論
5 コントロールの基準としての他者:社会的比較、同化と対比
6 所属欲求:社会的な関係を維持する
7 利己的な動機のコントロール:向社会的動機づけと向関係性動機づけ
8 目標に関する理論:接近・回避と目標の階層化
9 制御焦点理論:自己をコントロールするストラテジー
10 意図的な目標追求 マインドセットと実行意図
11 偏見・差別意識のコントロールとシステム正当化
12 セルフ・コントロールが失敗する理由:制御資源と自我枯渇
13 無意識による目標追求(1)反作用的目標追求
14 無意識による目標追求(2)目標伝染;他者の目標推測と追求
15 セルフ・コントロールの心理学のまとめ:現実場面への応用
16 内発的動機づけ 興味の重要性
17 自己決定理論 夢と目標
18 学習性無力感 無気力とひきこもり
19 セルフ・エフィカシー 「できる」という信念
20 前半のまとめ
21 自己認知 楽観主義と悲観主義
22 接近・回避動機づけ 生物としての根源的動機
23 フロー動機 フロー経験とウェルビーイング
24 バーンアウト 燃え尽き症候群
25 中盤のまとめ
26 自動動機 無意識の力
27 自己制御学習 自分の学習をコントロールする
28 他者志向的動機 重要な他者との関係
29 モティベーションの心理学のまとめ
30 総括

授業方法

講義形式。必要に応じて授業時間中ないし夏休み後にレポートの提出を求める。

成績評価の方法

第2学期(学年末試験):50%
平常点(出席、クラス参加、グループ作業の成果等):50%

参考文献

鹿毛雅治(編)『モティベーションを学ぶ12の理論』、金剛出版2012