日本史演習
『吉田家日次記』講読―

担 当 者 単 位 数 配当年次 学 期 曜 日 時 限
家永 遵嗣 教授 4 D/M 通年 4

授業の目的・内容

 中世後期の朝幕関係は幕府による権力の一元化という発想で理解されており、そのひとつの頂点は足利義満時代にあります。「義満の公家化」ないしは「自らを法皇になぞらえる僭上」とされるさまざまの現象がこれにあたります。講読の対象とする『吉田家日次記』永徳三年六月記は、今谷明氏『室町の王権』で有名になった、後円融上皇が後小松天皇の生母通陽門院三条厳子に重傷を負わせた永徳三年二月の事件の直後にあたります。
 『吉田家日次記』の記主兼敦の父兼煕は京都吉田社の神職であるとともに、「足利義満の公家化」に大きな影響を与えた摂政二条良基の家司でした。上皇・義満・良基の交渉の内部事情を窺うことのできる格好の素材です。
 記主のポジションはたいへんに興味深く、記事も豊富なのですが、刊本が存在しないため、まだ研究の余地の多いものです。天理大学図書館所蔵原本の写真から翻刻を行い、検討します。書体は読みやすいものであり、東京大学史料編纂所画像データベースでは近世につくられた謄写本の画像が公開されているので、これも参考にできます。

授業計画

1 テキストを紹介し、参加者の自己紹介の上で発表順序を決定します。
2 永徳三年前後の朝幕関係について、2回にわたり教員からのレクチュアを行います。最初は、吉田家そのものの状況と、足利義満、二条良基、崇賢門院広橋仲子など関係する人物の状況についてレクチュアします。
3 後小松天皇即位から大嘗会の執行にかけての時期の朝幕関係、摂政二条良基の政務、後円融上皇の院庁のありかた、後小松天皇と小番衆の発足との関係など、足利義満が関係している制度的な問題についてレクチュアします。
4 以後、決定された発表順序に従って翻刻、講読をすすめます。
永徳三年六月から講読する。

授業方法

担当者は写真帳によって『吉田家日次記』の翻刻を行い、解釈の原案を示し、関連史料を提示して参加者の討論に供する。適宜参加者の関心のあるテーマについての補足発表を交えて進めてゆく。

成績評価の方法

レポート:25%(翻刻と試訳、関連史料の検索・考察を通じて、史料の取り扱いに習熟する。)
平常点(出席、クラス参加、グループ作業の成果等):50%
討論への参加状況:25%(翻刻・試訳に基づいて、解釈の異同を論争的に取り扱うことで、釈読の力量を養う。)

参考文献

田中義成『足利時代史』、明治書院1923
臼井信義『人物叢書 足利義満』、吉川弘文館1960
今谷明『室町の王権』(中公新書)、中央公論社1990
家永遵嗣『室町幕府将軍権力の研究』(東京大学日本史学研究叢書1)、東京大学日本史学研究室1995
小川剛生『二条良基研究』、笠間書院2005

履修上の注意

第1回目の授業に必ず出席のこと。