科学の考え方
科学哲学への誘い―

担 当 者 単 位 数 配当年次 学 期 曜 日 時 限
荒磯 敏文 講師 4 通年 5

授業概要

今日まで毎日、太陽は東から昇ってきた。では、明日も太陽は東から昇るだろうか?仮に東から昇るだろうと考え、そして実際に東から昇ったとしよう。このとき、私たちはそのことを前もって《知っていた》と言えるだろうか?そして、もし《知っていた》のだとしたら、それは《科学的に》考えたからなのだろうか?これらの問いに、君たちはハッキリとイエス・ノーを言えるだろうか? 言えないひとはもちろん、言えたとしても心の中にモヤモヤが残るひとには、このコースを履修する意義が十分にある。このコースでは、どのような仕方で考えることが科学的に考えることになるのかを検討するからだ。そして、どんなに聡明なひとであっても自分自身のことだけは第三者的に見ることが難しいように、どんなに科学が優れていても、科学そのものを第三者的に見るためには科学の外からの視点が必要になる。それが哲学の意義のひとつであり、これを科学哲学――科学についての哲学――と言う。このコースを履修するためには、いわゆる科学的な知識――たとえば物理学や化学の知識――は、特に必要ない。必要なものは、むしろ、いったんこれまで手に入れてきた「科学」のイメージをあえて捨てて、無知の目でもう一度「科学」を眺める姿勢である。そうすれば、科学という営みがどれだけ生意気で、しかし頼りなく、それでいて魅力に溢れたものであることが実感できるだろう。

到達目標

科学の目的の「当たり前でなさ」を明確にすることで、科学を自明なものとせず、一歩引いた批判的な視点をもてるようになる。
科学における個々の方法(とされるもの)について歴史的な知識を得たうえで、一見したところもっともらしく思われることの多いそうした基本的な方法論について批判的に吟味できるようになる。

授業計画

1 イントロダクション――科学は何についての学問か――
2 科学のだいそれた目的(1)――《知っていること》と《信じていること》はどこが違うのか?
3 科学のだいそれた目的(2)――演繹と帰納の違い
4 いかにして未知・未来のことを知るか?(1)――二度あることは三度ある(枚挙的帰納法)
5 いかにして未知・未来のことを知るか?(2)――火のないところに煙はたたぬ(アブダクション)
6 いかにして未知・未来のことを知るか?(3)――帰納法の洗練(仮説演繹法)
7 帰納法に対する哲学者からの批判(1)――ヒュームの懐疑
8 帰納法に対する哲学者からの批判(2)――グルーのパラドクス
9 それでも科学と疑似科学を分けたい(1)――進化論と創造科学の論争
10 それでも科学と疑似科学を分けたい(2)――それぞれの言い分
11 それでも科学と疑似科学を分けたい(3)――ポパーの反証主義
12 科学者がもつべき《誠実さ》とは?(1)――超能力を科学で示そうとするひとびと
13 科学者がもつべき《誠実さ》とは?(2)――方法論的反証主義
14 まとめ(あるいは調整回)
15 自主研究
16 言語と科学の微妙な関係(1)――論理実証主義
17 言語と科学の微妙な関係(2)――分析と総合の区別に対するクワインの批判
18 見えないものも実在するか(1)――目に見えない原子が《ある》と言えるためには?
19 見えないものも実在するか(2)――反実在論者たちの攻撃
20 見えないものも実在するか(3)――実在論者たちの反撃
21 反証主義に対する哲学者からの批判――クーンのパラダイム論
22 パラダイム論の破壊的な解釈――ファイヤアーベントの『方法への挑戦』を読む(上)
23 パラダイム論の破壊的な解釈――ファイヤアーベントの『方法への挑戦』を読む(下)
24 パラダイム論の建設的な解釈――ラカトシュの『方法の擁護』を読む(上)
25 パラダイム論の建設的な解釈――ラカトシュの『方法の擁護』を読む(下)
26 相対主義の問題――そもそも《正しい》ってどういうこと? 絶対的な《正しさ》なんて存在するの?
27 独我論の問題――そもそも《世界》なんて存在するの? 我々は水槽の中の脳ではないと言えるのか?(上)
28 独我論の問題――そもそも《世界》なんて存在するの? 我々は水槽の中の脳ではないと言えるのか?(下)
29 まとめ(あるいは調整回)
30 自主研究
この授業内容はあくまで予定です。学生の関心に応じてトピックを追加することがあります。

授業方法

講義形式で行います。

準備学習

順々に理解を深めていく種類の授業なので、前回までの話の最低限の要点は納得できるまで考えること。
納得ができない場合、授業前後に質問に来ること。

成績評価の方法

レポート:50%(各学期末に短いレポートを書いていただきます。論理性、独創性を評価します。)
平常点(出席、クラス参加、グループ作業の成果等):50%(出席および出席カードへのコメントを参照します。)
第1学期、第2学期の終わりに、それぞれレポートを課します。希望者にはコメントをつけて返却します。テーマの選び方、評価の方法などは授業中に説明します。

参考文献

戸田山和久『科学哲学の冒険』初版、NHK出版2005年、ISBN=9784140910221
伊勢田哲治『疑似科学と科学の哲学』初版、名古屋大学出版会2003年、ISBN=978481504534
西脇与作『科学の哲学』初版、慶應義塾大学出版会2004年、ISBN=4766410653
上記の参考文献は一般的なものです。個別のテーマに関するものは、授業時にその都度案内をします。

その他

初回をイントロダクションとして、授業の進め方を説明します。講義形式で進めますが、質疑応答を重視しています。授業時間中に取り上げきれなかった質問については、この授業専用のブログをつくって応答します。レポートの提出は、哲学科の事務を通して行います。〆切には注意してください。