記録管理と組織
レコード・マネジメントへの招待―

担 当 者 単 位 数 配当年次 学 期 曜 日 時 限
安藤 正人 教授・他
2 第2学期 4

授業概要

同じ基礎教養科目「記録保存と現代-アーカイブズへの招待-」の姉妹編として2011年度から始まった授業。「記録保存と現代」の方にも書いたが、2011年の東日本大震災では、津波によって市町村の行政文書や企業・団体・個人の文書・写真など、貴重な記録が大きな被害を受け、改めて記録の大切さが認識された。また近年の「5000万件の宙に浮いた年金記録」問題や「外交密約文書」問題に見られるように、日本の記録管理はあまりにも杜撰であり、貧弱である。本来、組織というものは、国家であれ地方自治体であれ大学であれ、あるいは皆さんが作る学生サークルであれ、情報と記録なしには持続的な活動ができない。適切な記録管理(レコードマネジメント)は組織運営の要と言える。この授業では、学生の皆さんの多くが将来勤めることになる企業や行政機関で、情報や記録がいかに重要な役割を果たしているかを学び、適切な記録管理とはどういうものかを、歴史を踏まえながら考える。授業は3部に分かれ、現場経験豊かな三人の専門家講師によって行われる。第1部は「記録管理の歴史と現在」で東京都公文書館元館員の水野保講師、第2部は「現代の行政と記録管理」で同じく東京都公文書館元館員の水口政次講師、第3部は「現代の企業と記録管理」で、渋沢栄一記念財団実業史研究情報センターの松崎裕子講師が担当する。コーディネーターは、本学大学院人文科学研究科アーカイブズ学専攻の安藤正人教授。意欲ある学生諸君の履修を待っている。なお、本授業と合わせて「記録保存と現代-アーカイブズへの招待-」を履修すると、よりいっそう学習効果があがる。

到達目標

あらゆる組織にとって、記録管理(レコードマネジメント)が組織の運営と発展の土台であることを理解し、記録管理の歴史と現状ならびに今後の課題について基礎知識を習得するとともに、自分なりの考え方を持つこと。

授業計画

1 オリエンテーション(安藤正人)講義の目的と内容、講師の紹介、参考文献の紹介、基本用語解説など
2 記録管理の歴史と現在(1)(水野 保)(Archivesという用語)幕末以降、多くの英和辞書が生まれます。RecordsとArchivesの訳語を追い、当時の人達の新しい概念把握を眺めましょう。
3 記録管理の歴史と現在(2)(水野保)(Archivesという施設)明治の初めに海外に渡った岩倉具視一行は、Archivesという未知の施設に遭遇します。そこで彼等を待っていたものは?
4 記録管理の歴史と現在(3)(水野保)(記録管理制度の成立)明治政府の記録管理制度は、まず内地で創設、更に海外統治領へ広がっていきます。当時の「日本全体」を眺めましょう。
5 記録管理の歴史と現在(4)(水野保)(近代から現代へ)近代期に創設された我が国の記録管理制度は、太平洋戦争後にどの様に変化したのでしょうか?
6 現代の行政と記録管理(1)(水口政次)行政が担う役割や機能を果たすための行政組織とその基盤としての文書管理制度(記録管理制度)を考える。具体的に文書とは何か、文書管理(記録管理)とはどのようなものかについて考える。
7 現代の行政と記録管理(2)(水口政次)文書の作成から保存、保存文書の評価選別後の廃棄又はアーカイブズ(歴史的公文書)までの文書のライフサイクル(文書の一生)を考える。その中で保存文書からアーカイブズの評価選別を行う意義や方法について考える。
8 現代の行政と記録管理(3)(水口政次)文書の利用制度(行政利用・一般利用)について触れて、そのことで見えてきた文書管理をめぐる不適切な事例を紹介し、文書管理の適切な管理を目指した「公文書管理法」について触れる。
9 現代の行政と記録管理(4)(水口政次)これからの文書管理(主に電子化)の方向性について触れ、さらに情報資源としてアーカイブズの管理、デジタルアーカイブズについて考える。まとめとして、昨今の行政(組織)の変化に伴う文書管理の新しい意義づけについても考える。
10 現代の企業と記録管理(1)(松崎裕子)企業と記録管理の関係:複式簿記の発明、株式会社の発展といった企業活動の歴史をたどり、企業経営における記録管理の必須性を明らかにします。
11 現代の企業と記録管理(2)(松崎裕子)企業経営の多様な姿と記録管理:企業の発展と経営様式の多様性、米国における記録管理学の発展と記録管理者(レコードマネージャー)、日本における記録管理学、日本的経営と記録管理のこれまでを概観します。
12 現代の企業と記録管理(3)(松崎裕子)グローバリゼーションの中の日本的経営と記録管理1:コンプライアンス・アカウンタビリティ・透明性といった規範の重要性増大、新たな法制度の展開(新会社法、金融商品取引法、公文書管理法等)、そして記録管理の国際標準(ISO 15489、ISO 30300シリーズ等)が示す記録管理の今日的課題を示します。
13 現代の企業と記録管理(4)(松崎裕子)グローバリゼーションの中の日本的経営と記録管理2:記録情報管理の必要性の高まりと基本能力Core Competenciesの考え方、統合報告が目指すものと記録管理の関係、これからの日本的経営における記録管理について考えます。
14 記録管理と組織:総合討論(安藤正人、水野保、水口政次、松崎裕子)
15 まとめ(安藤正人)

授業方法

講師が作成した教材(資料)を配布し、講義形式で授業を進める。プロジェクターを使用することがある。

準備学習

事前に参考文献のうち2~3冊以上に目を通しておくことが望ましい。

成績評価の方法

第2学期(学年末試験):90%(授業内容の理解)
平常点(出席、クラス参加、グループ作業の成果等):10%(感想や質問を提出してもらうことがある。)
上記の合算による。

参考文献

記録管理学会・日本アーカイブズ学会『翻訳論文集 入門・アーカイブズの世界-記録と記憶を未来に』、日外アソシエーツ2006
小谷允志『今、なぜ記録管理なのか:記録管理のパラダイムシフト-コンプライアンスと説明責任のために-』、日外アソシエ-ツ2008
安藤正人『記録史料学と現代』、吉川弘文館1998
宇賀克也『逐条解説 公文書等の管理に関する法律』、第一法規2009
松岡資明『日本の公文書』、ポット出版2010
松岡資明『アーカイブズが社会を変える』(平凡社新書)、平凡社2011
藤原静雄・七條宏次『条文解説 公文書管理法』、ゆい書房2013
他の参考文献は授業時に指示する。

履修上の注意

第1回目の授業に必ず出席のこと。