※日本文学演習 
物語と小説ーー語りの人称・視点・主体―

担 当 者 単 位 数 配当年次 学 期 曜 日 時 限
兵藤 裕己 教授 4 4 通年 5

授業概要

 日本語の二人称代名詞は、対等かそれ以下の相手でなければ使えません。何々さんと名前で呼ぶしかない。ときには名前を呼ぶのすら憚られて、社長とか先生とかの役職で呼んだりします。英語のyouのような便利な言葉がないわけです。人称の問題は、日本語学の分野ではさほど議論の対象にならないようですが、英語のyouのような二人称代名詞を持たない日本語では、一人称や三人称も、英語世界のそれとは異なるかたちで存在します。そして人称のあり方は、そのまま日本人の人間関係や社会編制のあり方の問題でもあります。日本語の人称世界については、西田幾多郎や和辻哲郎など、日本語で哲学した先人たちが考え抜いた問題でもありますが、近年では、哲学者の坂部恵さんが考えた問題です。文学研究の分野では、源氏物語研究者の藤井貞和さんが、日本語で書かれた物語や小説の人称について「四人称」という言い方をしています。たしかに三人称客観の自立した言語世界が作りにくく、三人称の言表に語り手の一人称的な声が混入せざるをえない日本語では、三人称プラス一人称で、四人称とでもいえるような人称ができてしまいます。そんな日本語の人称世界、ペルソナ(人称、人格)の問題に、たとえば二葉亭四迷は、ツルゲーネフの小説を翻訳する過程で気づいたように思われます。
 今年度の授業では、昨年度に引き続いて、物語と小説の文体について、さまざまな角度(近代文学、古典文学、言語学など)から考えます。今年はとくに、文学における語りの「主体」とは何か、語り手とは誰かに焦点をあてたいと思います。

到達目標

昨年度の授業と同じく、受講者各人が、日本の小説、物語のディスコース(語り、言説、文体)分析に関して一定の知見を得ることを目標とします。
ことしは、具体的なテクスト分析も考えている。たとえば、二葉亭四迷、『源氏物語』、謡曲、泉鏡花、など。

授業計画

1 この授業の説明
2 古典物語のディスコース(語り、言説、文体)分析に関する基礎的な論文を読む
3 近代小説のディスコース分析に関する基礎的な論文を読む
4 古典物語のディスコース分析に関する基礎的な論文を読む
5 近代小説のディスコース分析に関する基礎的な論文を読む
6 古典物語のディスコース分析に関する基礎的な論文を読む
7 近代小説のディスコース分析に関する基礎的な論文を読む
8 古典物語のディスコース分析に関する基礎的な論文を読む
9 近代小説とディスコース分析に関する基礎的な論文を読む
10 古典物語とディスコース分析に関する基礎的な論文を読む
11 近代小説とディスコース分析に関する基礎的な論文を読む
12 古典物語とディスコース分析に関する基礎的な論文を読む
13 近代小説とディスコース分析に関する基礎的な論文を読む
14 第1学期の授業のまとめ
15 総括
16 受講者が各自専攻する分野で、最も話題性のあるディスコース(語り、言説、文体)分析関連の論文を読む
17 受講者が各自専攻する分野で、最も話題性のあるディスコース分析関連の論文を読む
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29 第2学期の授業のまとめ
30 総括

授業方法

研究書や研究論文の輪読形式で授業を進めます。

準備学習

授業で指定された論文は、可能なかぎり全員が読んでくることが望ましい。

成績評価の方法

レポート:20%
平常点(出席、クラス参加、グループ作業の成果等):80%
学部の基準で評価する。

参考文献

坂部恵『仮面の解釈学』、東京大学出版会
鈴木貞美『「日本文学」の成立』、作品社
三谷邦明『物語文学の言説』、有精堂
工藤真由美『アスペクト・テンス体系とテクスト』、ひつじ書房
小林敏明『主体のゆくえ』、講談社
小森陽一『文体としての物語』、筑摩書房
兵藤裕己『虚実皮膜のパフォーマティブ』(『物語研究』第14号)、物語研究会