※西洋美術史特殊研究 
近代北欧美術研究―

担 当 者 単 位 数 配当年次 学 期 曜 日 時 限
佐藤 直樹 講師 4 2~4 通年 5

授業概要

19世紀末から20世紀にかけて活躍した北欧の二人の画家がテーマです。
第1学期には、フィンランドの国民的女性画家ヘレン・シャルフベック(1862-1946)を取り上げます。彼女は4歳で左臀部に障害を負いながら、素描の才能を認められ、奨学金を得てパリ留学を果たします。マネやホイッスラーを始めとした当時流行のスタイルに強い影響を受けて帰国し、その後、母親の介護をするためにヘルシンキを離れ、郊外の町に閉じこもりながらも雑誌や書籍の図版を参照することで、アヴァンギャルドな作品を次々に制作していきました。生涯独身を通した晩年は、スウェーデンのホテルの一室に居住し、死に向かう自分の顔を残酷なまで克明に記録していきます。同時代の北欧美術の旗手、ムンクと比較しながら、これまで全く知られていなかった彼女の画業全体を検討します。6月2日から東京藝術大学大学美術館で開催予定の「ヘレン・シャルフベック」展に合わせた講義であり、実際の作品に触れながらこの画家を学ぶ最高の機会となるでしょう。
第2学期にはデンマークの画家ヴィルヘルム・ハンマースホイ(1864-1916)を取り上げます。ハンマースホイは、留学することなく、コペンハーゲンで制作を続けた画家です。彼の手本となったのはホイッスラーを始めとする象徴派の芸術で、ベルギー象徴派と近しい作風で制作を続けます。自宅のアパートを舞台に彼が繰り返し描いたのは、妻イーダの後ろ姿と誰もいない室内でした。暗く、単調な色彩の作品は、国内よりも国外で高く評価されました。ドイツの詩人リルケが、ハンマースホイのアトリエでインタビューを試み「ハンマースホイ論」を準備したことからも、ハンマースホイは時代の先端を走る画家だったと言えるでしょう。本講義では、ハンマースホイの芸術に、同時代の美術、および17世紀オランダ絵画の影響などから迫っていきます。

到達目標

北欧芸術の特徴を理解し、西洋美術史をより広い視野で見通せるようになること。

授業計画

1 北欧美術ガイダンス
2 シャルフベック初期:ヘルシンキ時代
3
4 ヘルシンキからパリへ
5 パリ留学時代
6
7 ヒュヴィンカーでの介護と閉じこもった制作
8 シャルフベックの自画像
9
10
11 スペイン趣味:ピカソの影響
12 スペイン趣味:エル・グレコの影響
13 ベッド画:《快復期》の美術史的位置づけ
14 ファンシー画とイギリス絵画の影響
15 第1学期テスト
16 ヴィルヘルム・ハンマースホイのガイダンス
17 ハンマースホイ初期
18
19 後姿の女性像
20
21 17世紀オランダ絵画の影響
22
23 ハンマースホイとデンマーク絵画の伝統
24 ハンマースホイと同時代デンマーク絵画
25 肖像画
26 風景画
27 建築画
28 誰もいない室内画
29 室内画における光の表現
30 第2学期テスト
毎回パワーポイントによる映写で授業を進めます。図版はネットでは見つからないものが多いので、簡単なスケッチをするように心がけてください。

授業方法

講義形式です。

準備学習

美術史を学んだことのない学生は、日本語の西洋美術史概説書などで19世紀のフランス美術の動向を簡単に学んでおいてください。

成績評価の方法

第1学期(学期末試験):40%(講義を正しく理解できているか)
第2学期(学年末試験):40%(講義を正しく理解できているか)
平常点(出席、クラス参加、グループ作業の成果等):20%
授業で話したものと同じ作品についてパワーポイントの映写による記述形式の試験を行います。
※学部生が履修した場合は学部相当の基準で成績を評価し、大学院生が履修した場合には博士前期課程と博士後期課程、それぞれの基準で成績評価を行う。

参考文献

佐藤直樹/フェリックス・クレマー『ヴィルヘルム・ハンマースホイ:静かなる詩情』、日本経済出版社2008年、ISBN=9784906536443
Helene Schjerfbeck: 150 years, Helsinki Ateneum Art Gallery, 2012, ISBN:9789515334404
もっと学習を深めたい人のための参考図書で、授業に必須ではありません。

その他

美術史を学んだことのない学生も、北欧の文化や芸術に興味があれば大いに歓迎します。